森ビルがつくるのは、ビルではなく街そのもの。虎ノ門に「ARCH」が生まれるまで
北川清(森ビル株式会社 取締役 専務執行役員 / 都市開発本部 開発事業部 統括部長 兼 仕入部担当) / 飛松健太郎(森ビル株式会社 営業本部 オフィス事業部 企画推進部 ARCH企画運営室 室長)
2020.06.11

「ARCH」を、フィットネスジムのように「わざわざ行く」存在にしたい

HIP:目指すべきビジョンが決まったら、実際にどんな機能を備えるかも考えなければいけません。

飛松:当初は、フロアの半分にフィットネスジムを併設するアイデアを考えたり、各所に視察に行ったりもしました。いまの機能に決まるまでは、正直迷走しましたね(苦笑)。ですが、ここで「ビルではなく、街を売る」経験が活きました。六本木ヒルズでの経験がなかったら、単に「よりよいスペックの施設」を目指していたでしょう。そうではなく、施設を通じてどのような価値を提供できるかを考えるべきだと気づいたのです。

最終的には「現場で仕事をする人に聞くのがいちばんいいだろう」となり、六本木ヒルズのスタートアップ誘致でお世話になった方々や、ベンチャーキャピタルの方にも相談しながら、少しずつアップデートしていきました。

コワーキングスペースはもちろん、セミナールームや会員以外も立ち寄れるカフェスペースなど、企業や人の「コラボレーション」を生みやすい仕掛けが多く備えられている(画像提供:森ビル株式会社)

北川:私がひとつ話したのは「オフィス事業部だけで完結するな」ということ。森ビルは会員制ライブラリーを擁するアカデミーヒルズや商業施設など、ワーカーが日常的に利用する施設を多数運営しています。現場には顧客ニーズや運営ノウハウなどの知見があるのだから、「ほかの部署を頼れ」とアドバイスしました。

HIP:「ARCH」は利用者を、大企業の新規事業担当部門に特化していますよね。インキュベーション施設としては珍しい条件ですが、その理由は?

北川:「これからは異業種とのセッションでイノベーションの種を見つけなければいけない」という課題を、多くの大企業が感じています。彼らのためにも、大企業同士がつながる場所をつくれないかと考えたのです。

飛松:「大企業とスタートアップの融合」とよくいわれますが、その多くは、スタートアップを集積することで大企業を引き寄せる手法です。しかし、その逆が叶う施設はこれまでになかった。そこで「ARCH」は、大企業のイノベーション部門を集めて、大企業の磁力でスタートアップを始めとしたさまざまな出会いを引き寄せることを目標としました。

そして大切なのは、「ARCH」を何かが生まれる場所にするということです。単なるシェアオフィスのように、人を集めるだけの施設にはしたくない。実際、ご相談した方々や営業先からも「かっこいい空間をつくって、いろんな人を集めるのはいいけど、結局そこから何が生まれたんだっけ?」という話はよく出ました。一般的に施設の成功は稼働率や売上などの数字で計られますが、「ARCH」では「ここで何が生まれたか」で勝負していきたいと思っています。

HIP:「ARCH」、そして虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーの開業によって、虎ノ門エリアはどのように進化していくのでしょうか。

北川:リソースや情報があつまる大企業と、先端的なテクノロジーを持ち、迅速な意思決定・リスクテイクができるスタートアップ。その両者が混ざり合う虎ノ門を、「新しいイノベーションが生まれる街にする」というビジョンは変わりません。まだ始まったばかりですから、「ARCH」を拠点として、ここから実績を積み重ねていきたいです。

ゆくゆくは、「ARCH」にいる大企業とつながりたくて虎ノ門に集まったスタートアップが、成長してビジネスタワー内にオフィスを構える……といった連鎖が起きるのが理想的ですね。まだ先の話ではありますが、長いスパンで街を育てていきたい。「ARCH」はその試金石です。

HIP:六本木や虎ノ門の事例を経て、新しい街づくりに必要なものは何だと思いますか?

北川:それぞれの街の特色や紡がれてきた歴史を紐解き、そこからヒントをもらうことが、「その街らしさ」をつくるためには必要でしょう。

ただし、新しい街をつくるには、「らしさ」に何か別の要素を足さなければならない。たとえば六本木なら、「外国人や芸能人が多くいて、夜が賑わう」というイメージが、六本木ヒルズができる前からあった。そのイメージを保ちながら発展させる要素が、エンターテインメントやアートだったわけです。「らしさ」に何を足せば新しい街が生まれるのか。それを考えるのが街づくりの難しさであり、面白さでもあると思います。

飛松:街づくりには正解がなく、正直にいえば本当に苦しい仕事です。「新しい都市生活における豊かさを提供したい」と、森ビルのビジョンを言葉にするのは簡単ですが、そのために必要な要素を一つひとつ考えて実現するのは並大抵のことではない。

ですが森ビルの強みは、他社にない独自性や斬新なアイデアで価値を生み出していく点にあります。唯一無二のデベロッパーとして既成概念を超えていくためには、努力をし続けることが必要でしょう。これは、時代にあわせて街をチューニングし続ける継続性にもつながります。

そのうえで、街づくりにはやはり「人」が欠かせません。考え抜いたビジョンを人に伝え、同志になっていただきながら、エリア全体を盛り上げていく。もがき苦しみながら考え続けることと、人を大事にすること。その両軸があって初めて、新しい街づくりができるのだと思います。

北川:いま、新型コロナウイルスの影響により人々に新しい生活様式が求められているなかで、街も変化していく必要があります。森ビルがその変化をリードするために、ARCHの会員企業とともに新しいテクノロジーやサービスを生み出していかなければならないと思っています。

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プロフィール

北川清(森ビル株式会社 取締役 専務執行役員 / 都市開発本部 開発事業部 統括部長 兼 仕入部担当)

1984年、森ビル株式会社に入社。
都市開発事業本部企画開発部、営業本部オフィス事業部などを経て、2019年より現職。

飛松健太郎(森ビル株式会社 営業本部 オフィス事業部 企画推進部 ARCH企画運営室 室長)

住宅メーカーの営業職を経て、2008年、森ビル株式会社に入社。オフィス事業部でスタートアップを主としたテナント誘致を担当したのち、2015年より「ARCH」を含めたイノベーション創発領域における企画・運営・営業全般の活動に携わる。

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