ルールに縛られた組織ではなく、ビジョンへの共感でゆるやかにつながるコミュニティーづくりが鍵。
HIP:お一人で活動を始められてから、最初のドローン実証実験の成功にまでコマを進めることができたのは、何がよかったためと考えていますか?
深田:タイミングは重要ですね。実証実験は、幸運なことに各省庁からも評価をいただくことができていて。というのも、われわれが実験を行ったタイミングは、国がドローン規制緩和の実施を控えている段階だったんです。規制緩和というのは、緩和されたあとにきちんと民間によってサービスがつくられないと意味がない。だから国がやろうとしていることを先んじてやるというのは、新規分野では特に重要になってきます。
もう一つは、社外や協力会社とのネットワークを築けていたという点でしょうか。新しいことをする際、困ったときに最後に助けてくれるのは、社内より社外の人であることが多いんですよね(笑)。事業会社として、社外のパートナー企業とネットワークを構築し、常にその中心にいるようにするというのは最も重要なことだと思っています。
HIP:社外のリソースを巻き込んだプロジェクトづくりは、まさにオープンイノベーションのお手本のようなやり方ですが、なにか手法を学んで参考にされたのでしょうか?
深田:いや、手法や理論は知りませんでしたね。主に直感と、過去の反省からです。私はドローンの前にもいくつか新規事業の立ち上げに関わっていたんですが、どれもうまくいかなくて。社内ではある人に「いい」と言われても、ほかの人には「よくない」と言われたりして、いろいろな人の顔色を見て調整した結果、内向きの仕事になり、結局うまくいかなくて頓挫することばかりでした。
原口:深田のように、強い思いを持った人が、社内でそれをかたちにしていくには、うまくコミュニティーをつくらないと難しいですよね。横から無責任に口を出す人ではなく、何かを本気で変えたい人を集めないと。そのときに「ビジョン」が一つ、大切なポイントになると思います。ビジョンがないと、社内外問わず、フォロワーが集まらない。
ルールに縛られた組織ではなく、一つのビジョンに共感する人たちがゆるやかにつながるコミュニティー。それをつくるのが、いまどき新しいことを始めるために一番いいやり方なのかなと思います。
原口:横から無責任に口を出す人から距離を置くという意味では、新規事業に関わる人を、既存業務の仕事をしているチームから隔離するというのも大切だと思っています。研究開発部門でも、ドローンの仕事をしているメンバーはドローンだけに取り組めるよう、業務を分けて担当させているんです。
ゼロからマーケットをつくり上げ、先行したプレーヤーになることが一番の競争戦略になる。
深田:私がドローンプロジェクトを推進するに当たっても、ビジョンだけを掲げ、綿密なプランはあえてつくらないようにしていました。通常のビジネスサイクルがPDCA(Plan-Do-Check-Action)なら、私は常にD(Do)とA(Action)が先。それによって成果が溜まってきたら、プランをつくります。
大企業で戦略をつくろうとするとどうしても、競合他社にどう立ち向かうか、といった競争戦略になりがちです。しかも上司や経営陣にその説明をして、許可をもらってから進めないといけない。でも、新規ビジネスの場合はその考え方ではダメで、まずマーケットをつくることから始めないといけない。新しいマーケットで先行したプレーヤーになることができれば、それが一番の競争戦略になるはずなんです。
HIP:ひたすら「やる」という進め方は、社内でどう説明したのですか?
深田:いや、説明するよりも、ひたすら実行しました。上司にはなるべく会わないようにして、報告の場からは逃げていましたね(笑)。
HIP:お話を伺っていると、社内にイノベーションコミュニティーが柔らかくできあがっていたのですね。社長特命プロジェクトのような特殊な組織ではないけれども、実質的には社内に賛同者、フォロワーが広がっていて、企業全体の風土とも違った新しい組織が生まれていった。
原口:日本の一流企業も、どうしたらよりよいかたちで新規事業を生み出せるのか、それぞれ苦心していますよね。いわゆる欧米的、合理的なシリコンバレーのやり方をそのまま真似するだけではきっとうまくいかないだろうし、かといって純日本式の、積み重ねて分析して、ではスピードが遅い。
きっと、いいバランスのハイブリッドなやり方を見つけていかないといけない。今回のドローンのプロジェクトでは、一つのビジョンを共有したゆるやかなコミュニティーと、計画立案よりもまず行動、という動き方が功を奏して、日本企業でイノベーションを生むための方法の一つのケーススタディーになったのかなと思っています。