INTERVIEW
世界初の「空の地図」をつくる。一人の情熱から始まったゼンリンの新規事業
深田雅之(株式会社ゼンリン ドローン推進課 副長) / 原口幸治(株式会社ゼンリン 執行役員 研究開発室 室長)

INFORMATION

2018.09.10

SHARE

ルールに縛られた組織ではなく、ビジョンへの共感でゆるやかにつながるコミュニティーづくりが鍵。

HIP:お一人で活動を始められてから、最初のドローン実証実験の成功にまでコマを進めることができたのは、何がよかったためと考えていますか?

深田:タイミングは重要ですね。実証実験は、幸運なことに各省庁からも評価をいただくことができていて。というのも、われわれが実験を行ったタイミングは、国がドローン規制緩和の実施を控えている段階だったんです。規制緩和というのは、緩和されたあとにきちんと民間によってサービスがつくられないと意味がない。だから国がやろうとしていることを先んじてやるというのは、新規分野では特に重要になってきます。

もう一つは、社外や協力会社とのネットワークを築けていたという点でしょうか。新しいことをする際、困ったときに最後に助けてくれるのは、社内より社外の人であることが多いんですよね(笑)。事業会社として、社外のパートナー企業とネットワークを構築し、常にその中心にいるようにするというのは最も重要なことだと思っています。

HIP:社外のリソースを巻き込んだプロジェクトづくりは、まさにオープンイノベーションのお手本のようなやり方ですが、なにか手法を学んで参考にされたのでしょうか?

深田:いや、手法や理論は知りませんでしたね。主に直感と、過去の反省からです。私はドローンの前にもいくつか新規事業の立ち上げに関わっていたんですが、どれもうまくいかなくて。社内ではある人に「いい」と言われても、ほかの人には「よくない」と言われたりして、いろいろな人の顔色を見て調整した結果、内向きの仕事になり、結局うまくいかなくて頓挫することばかりでした。

原口:深田のように、強い思いを持った人が、社内でそれをかたちにしていくには、うまくコミュニティーをつくらないと難しいですよね。横から無責任に口を出す人ではなく、何かを本気で変えたい人を集めないと。そのときに「ビジョン」が一つ、大切なポイントになると思います。ビジョンがないと、社内外問わず、フォロワーが集まらない。

ルールに縛られた組織ではなく、一つのビジョンに共感する人たちがゆるやかにつながるコミュニティー。それをつくるのが、いまどき新しいことを始めるために一番いいやり方なのかなと思います。

原口:横から無責任に口を出す人から距離を置くという意味では、新規事業に関わる人を、既存業務の仕事をしているチームから隔離するというのも大切だと思っています。研究開発部門でも、ドローンの仕事をしているメンバーはドローンだけに取り組めるよう、業務を分けて担当させているんです。

ゼロからマーケットをつくり上げ、先行したプレーヤーになることが一番の競争戦略になる。

深田:私がドローンプロジェクトを推進するに当たっても、ビジョンだけを掲げ、綿密なプランはあえてつくらないようにしていました。通常のビジネスサイクルがPDCA(Plan-Do-Check-Action)なら、私は常にD(Do)とA(Action)が先。それによって成果が溜まってきたら、プランをつくります。

大企業で戦略をつくろうとするとどうしても、競合他社にどう立ち向かうか、といった競争戦略になりがちです。しかも上司や経営陣にその説明をして、許可をもらってから進めないといけない。でも、新規ビジネスの場合はその考え方ではダメで、まずマーケットをつくることから始めないといけない。新しいマーケットで先行したプレーヤーになることができれば、それが一番の競争戦略になるはずなんです。

HIP:ひたすら「やる」という進め方は、社内でどう説明したのですか?

深田:いや、説明するよりも、ひたすら実行しました。上司にはなるべく会わないようにして、報告の場からは逃げていましたね(笑)。

HIP:お話を伺っていると、社内にイノベーションコミュニティーが柔らかくできあがっていたのですね。社長特命プロジェクトのような特殊な組織ではないけれども、実質的には社内に賛同者、フォロワーが広がっていて、企業全体の風土とも違った新しい組織が生まれていった。

原口:日本の一流企業も、どうしたらよりよいかたちで新規事業を生み出せるのか、それぞれ苦心していますよね。いわゆる欧米的、合理的なシリコンバレーのやり方をそのまま真似するだけではきっとうまくいかないだろうし、かといって純日本式の、積み重ねて分析して、ではスピードが遅い。

きっと、いいバランスのハイブリッドなやり方を見つけていかないといけない。今回のドローンのプロジェクトでは、一つのビジョンを共有したゆるやかなコミュニティーと、計画立案よりもまず行動、という動き方が功を奏して、日本企業でイノベーションを生むための方法の一つのケーススタディーになったのかなと思っています。

Profile

プロフィール

深田雅之(株式会社ゼンリン ドローン推進課 副長)

2006年、株式会社ゼンリン入社。事業開発本部の新規事業企画担当や、経営戦略室などを経て、2013年に国土交通省 国土技術政策総合研究所へ出向。自動運転やビッグデータに関する研究に従事。2015年から、ゼンリンでドローンビジネスの立上げに従事。2016年9月のドローン事業推進課(現・ドローン推進課)設立時より、ドローンのための三次元地図データの開発・事業化を推進。また、日本最大のドローン業界団体 一般社団法人日本UAS産業振興協議会にて、参与職を兼務している。

原口幸治(株式会社ゼンリン 執行役員 研究開発室 室長)

1992年、株式会社ゼンリン入社。企画開発部部長、技術企画室室長を経て、2014年より研究開発室室長。2018年より執行役員に就任。

SHARE

お問い合わせ

HIPでの取材や
お問い合わせは、
下記より
お問い合わせフォームにアクセスしてください。

SNSにて最新情報配信中

HIPでは随時、FacebookやWebサイトを通して
情報発信をいたします。
ぜひフォローしてください。