社員に働く意義を。採用の際に大事にしている、ビジョンのシンクロとは?
HIP:そうした多様な人材を集める狙いは、どこにあるのでしょうか?
前田:まず、水処理の技術ひとつとっても、物理・化学・生物をはじめさまざまな分野の知識と技術を要します。安心・安全を担保するためには、エビデンスが大事。たしかなアカデミック・バックグラウンドを持ったメンバーが必要になるんです。
また、水処理の制御をデジタル化するには、計測したデータのマネジメントや、その後の分析を行える人材が不可欠です。さらに、ものづくりを支えるプロダクトのデザインや製造、営業、物流など、さまざまな職種の人がいないと回りません。
HIP:そうした優秀な人材に出会えたとしても、引く手あまたでしょうし、大企業や他の有望なスタートアップに取られてしまう可能性も高い気がします。採用するために、重視している点はなんでしょうか?
前田:仲間にしたい人の人生や仕事における目標を、いかにWOTAの戦略やストーリーとシンクロさせられるかが重要だと考えています。初期配置がゴールではなく、長期的に取り組んでもらえることがいちばんなので、最初にお互いのビジョンや目標をすり合わせることを最も重視しています。
もちろん、バッググラウンドが違えばやりたいことも異なるわけですが、誰もが毎日使う「水」は、どんな人にとっても身近な存在なので自分ごと化しやすいですし、可能性は世界に広がっています。その大きなフィールドで、自分のスキルやノウハウを活かして社会にもたらしたい未来像がWOTAのビジョンとマッチすれば、働く意義にもつながるはず。
また、一人ひとりの「自分はこうしたい」という目標と想像力が事業を加速させるエンジンになりますし、困難を乗り越える際のいちばんの拠り所になる。だからこそ、長期的な目標を共有できる、熱い思いを持ったメンバーたちと、ともに事業を推進していきたいと考えています。
環境は誰もが身近なテーマ。多様な人と交流できるコミュニティーが必要
HIP:現在は、WOTAも活動拠点のひとつとしてCIC Tokyoを利用しているとうかがいました。CIC Tokyoとしては、環境スタートアップに対して、どんな施設にしていきたいと考えていますか?
名倉:環境は地球上の誰もが身近なテーマでもあるので、むしろ環境系スタートアップに縛らず、さまざまなジャンルの人や会社との交流が生まれる場にしたいです。
「エコーチェンバー現象」という言葉があるように、狭いコミュニティーで自分の思想と近い人とばかり一緒にいると、特定の意見のみが強化されてしまう。だからこそ、本来は交わらないはずの人同士が偶然に出会えるようなコミュニティーが必要なのではないでしょうか。
自分とはまるで違う考え方や問題意識を持った人と出会うことで、環境にひもづく課題が可視化される。そこから環境問題の解決につながる新たなサービスが生まれたら理想的ですね。
HIP:前田さんは、「環境スタートアップ大賞」やCIC Tokyoでさまざまなスタートアップと実際に交流してみて、なにか発見はありましたか?
前田:なにより大きかったのは、問題に対する解決のアプローチを無数に知れたことですね。いろんな企業と交流するなかで、私たちがいままでやってこなかったり、そもそも知らなかったりするパターンのアプローチを知ることができました。
それによって、さまざまな仮説が立てられるため、とても身になっています。仮に私たちが同じやり方で課題にチャレンジするとき、どんなリスクがあるのか事前に把握できますから。とくに、成功体験だけでなく、身近にいるスタートアップから失敗体験を聞けるのは本当に貴重。失敗も回避できますし、回り道もなくなるのでありがたいです。
HIP:最短ルートで課題解決に向かっていけると。
前田:はい。環境問題は長いスパンで結果を見ていくことも大事ですが、それでは手遅れになってしまうテーマもある。だからこそ、なるべくコンパクトにいろんなことを試し、細かく検証を積み重ねていく必要があります。
その意味でも、今後もより多くのプレイヤーと交流したいです。お互いの仮説や検証を疑似体験するというか、仮想的に理解して学び合うことで、日本の環境課題に対するイノベーションが加速するのではないでしょうか。
HIP:最後に、WOTAの今後の目標や目指す未来について教えてください。
前田:まずは、環境問題の解決に関わりたいと思う人をいかに増やすかがカギですね。環境問題に対する活動の多くは参加者が増えれば増えるほど、問題解決の速度が上がります。私たちのようなプレーヤーだけでなく、資源を使うすべての人を巻き込んでいく必要があると考えています。
人は生きているだけで資源にアクセスしているわけですが、それを使った際の「後始末」まで意識している人はそう多くありません。その環境意識を変容させるためには、一人ひとりが日常的に水を循環利用するような体験を増やしていかなくてはならない。
その体験の積み重ねによって「地球や社会が良くなっている」という実感を持つ人が増えていけば、おのずといろんな環境問題も解決していくかもしれません。その一助になれるように、WOTAの活動を広げていきたいです。
名倉:CIC Tokyoとしても、WOTAをはじめとする環境系スタートアップの取り組みをより多くの人や企業に知ってもらい、環境課題への意識自体を広めていくのが理想です。
ただ、その意識を社会全体にスケールさせていくためには、大企業の協力も必要になってくるはず。社会課題の発見や解決の糸口はスタートアップが模索し、そこから大企業や行政なども巻き込んで社会にムーブメントを起こす。そうした流れを環境系スタートアップに提供できるよう、CIC Tokyoも伴走していきたいです。