「UXデザインを重視しない企業に未来はない」。その重要性を安藤昌也氏が語る
安藤 昌也(千葉工業大学 先進工学部知能メディア工学科教授)
2018.03.05

UXデザインのような新しい概念は、仕組みとして根づかなければ、組織の変化につながりません。

HIP:安藤さんはUXの研究と並行して、企業におけるUXデザイン部門のコンサルティングを行っているそうですね。具体的にはどのような仕事を行なっているのでしょうか?

安藤:企業によって異なるので、一概にはいえないのですが、軸となる業務のひとつは担当者の支援です。企業内にUXデザインを取り扱う部署ができたとしても、急に組織が変わるわけではありません。

まずは、社内にその「概念」を認知させていく活動が必要になりますが、社内の人間だけで取り組んでもうまくいかないことがある。そこで、ぼくがセミナーやワークショップを開いたり、役員向けにUXやUXデザインの必要性について説明をしたりしています。

でも、正直それだけでは成果につながらないことがほとんどです。UXデザインのような新しい考え方を組織にインストールするには、社内制度などの仕組みとして根づかせなければならないんです。

なので、UXデザインに関する業務を進めるための開発プロセスのあり方や、予算確保のルール、あるいは人材教育プログラムや人材の認証制度、もっといえば人事の評価制度なども含めて改革していく。会社の戦略や文化などを考慮したうえで幅広い部署に働きかけていかないと、UXデザインの概念は真の意味では浸透していきません。

HIP:うまくUXデザインの考え方が浸透していくと、会社はどのように変化していくのでしょうか?

安藤:たとえば、ある事務機器のメーカーでは、社内のUXデザインをリードできる人材を育成する制度に取り組んでいます。最近発売された製品では、全面的にUXデザインの考え方を採用し、デザインのチームが、商品企画・販売促進とも協業しながら、横断的な活動を進めることができました。通常、大きな組織では、企画、開発、販売は縦割りになりがちです。すると設定したユーザー像や提供する体験価値も、社内であっても共有しにくいんですね。しかし、UXデザインのことがわかっている人が増えることで、こうした横断的な取組みもしやすくなります。ちなみに、こうしてつくられた製品は、1年余りで当初の計画より2倍の売上を達成したと聞いています。

HIP:反対に、トップの理解が得られないとどのような事態が起きるのでしょうか?

安藤:UXデザインのプロセスでは、企画の初期段階の調査や探索を重視します。そのため、決裁者に当たる上司の理解が不十分だと、予算や開発期間が十分に取れず、結局は従来通りの開発になってしまいます。これまでとは違ったやり方をしなければ、発明は生まれないのに、新たな方法で進めることに不安を覚え、中途半端な意思決定をしてしまうことが本当に多いですね。新しいことをしたいなら、新しいものを評価する環境をつくらないと。

HIP:お話を伺っていると、担当者レベルでの改革はなかなか難しいように思えてもきます。

安藤:いえいえ、現場でパッションを持って動く人がいれば大きく変わることもありますよ。ある大手企業のコンサルティングを行っていたとき、熱意のある担当者がUXデザインに関する取り組みの報告会に副社長を招き、出席いただけるように調整してくれたんです。

報告会では、ぼくの発表の直後に副社長に登壇いただいて「UXデザインは大事なので進めていこう」との発言をいただきました。トップが発言したことで翌日から変化が起きはじめます。

たとえば、営業の方が私のところまで過去の商品の提案資料を持ってきて、「UXデザインの取り組みとしてアピールすることはできるか」と相談に来たんです。もともと、顧客のことを考えた製品開発を行ってきた企業でしたし、その商品にもUXデザイン的な視点はありましたので、もちろん問題ありませんでした。

つまりトップの発言をきっかけにUXデザインという観点のもと企業全体の意思統一がされ、事業を整理することができたのです。その結果、議場全体としてUXデザインの取り組みを強みに変えていくことができました。ボトムアップと、トップダウンの両方のアプローチがうまく噛み合った瞬間でもありましたね。

HIP:大企業がそのスピード感を持って変われるのはすごいですね。

安藤:いまはUXデザインをはじめとする「デザイン思考」が市民権を得はじめ、ビジネスにもインパクトを与えることが社会的に認められつつある時代です。ぼくのところにも「上司を説得したい」「会社を変えたい」という具体的な変化を求める相談が多くなってきていますし、現場レベルでは多くの方がUXデザインの重要性に気づいていると感じます。

なぜならUXデザインは、顧客のことを考えた製品・サービスづくりそのものだからです。これを軽視できる企業はないと考えています。UXデザインを重視しようとする現場の声に耳を傾けず、柔軟に変化できない企業は今後遅れをとっていくでしょうね。

誰かのために「やってあげようかな」という気持ちにさせるUXをデザインしていきたい。

HIP:今後UXの概念が広まることで、社会に求められるサービスはどのように変化すると思いますか?

安藤:これからの社会では、利他的な行動を促すサービスがますます必要になってくるし、注目を浴びると思っています。ぼくは「利他的UX」と呼んでいるんですけれど。

HIP:「利他的UX」……ですか?

安藤:一言で言うならば、誰かのために「やってあげたい」「手助けしてあげたい」「譲ってあげたい」という気持ちを導くUXのことですね。通常のUXは、ユーザーと製品との関係における「良い体験」を考えていくものですが、利他的UXはユーザーを他者の援助のために行動させることが目的です。

人間は社会性を持った動物なので、利他的に振る舞うことが自分のメリットになることを知っているんですよ。その気持ちをうまく喚起させてあげることで、ユーザー自身も満足しながら、さまざまな社会問題を解決する体験を生み出せるんじゃないかなと。

HIP:「ソーシャルグッド」のように社会的な利益を目指すことが、企業活動の利益にもつながる考え方ですね。おもしろいです。

安藤:街頭で寄付を募ったりチラシを配っている人をたまに見かけるじゃないですか。その活動を悪いことだと考える人ってほとんどいないと思うんです。でも、大多数の人は寄付もしなければ、チラシも受け取りません。そういった人間の心理を解読して「やってあげようかな」という気持ちにさせるUXをデザインしていきたいんです。そうした連続の先に、優しい社会が生まれたらいいなと思いますね。

Profile

プロフィール

安藤 昌也(千葉工業大学 先進工学部知能メディア工学科教授)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。NTTデータ通信株式会社(現株式会社NTTデータ)を経て、経営コンサルティング会社取締役に就任。2011年より千葉工業大学工学部デザイン科学科准教授。2015年より教授。2016年4月より現職。ユーザーエクスペリエンス、人間中心デザインが専門。現在は「利他的UX」を提唱し、「やってあげるデザイン」の原理の研究などに注力している。主著に『UXデザインの教科書』(丸善出版, 2016)がある。

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