メンバーの得意分野を可視化。それが、会社のストロングポイントになる
HIP:その資料、ニュースにもなっていましたよね。10人のプロデューサーたちを動物に例えて特色を説明する「クリエイティブ動物園」という資料で、Yahoo!トピックスにも上がっていました。
工藤:そうなんです。あの記事を読んだ知り合いからも電話がかかってきましたからね。やり方としては、いまだにどうかと思いますが……(笑)。しかも伊藤さん、自分をちゃっかりライオンにしてるんですよ。
伊藤:佐久間※にもラジオでいじられたからね。「普通、自分で百獣の王を名乗る?」って。
※佐久間宣行氏。2021年3月までクリエイティブビジネス制作チームに所属していたプロデューサー。テレビ東京を退社後も、フリーのテレビマンとして引き続き同局の『ゴッドタン』などに携わっており、『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』ではパーソナリティも務める。
HIP:ちなみに、工藤さんはコアラでしたね。
工藤:ある日、急に「工藤はコアラで良いか?」って聞かれました。なんですかそれ? って。
伊藤:「コアラ好きか?」なんつってね。まあ、結果的にそれでクリエイティブビジネス制作チームの存在が社内には知れ渡ったんですよ。どんなメンバーがいるのか、これまでどんな番組を担当してきたのか、これからなにをやりたいのか。資料を見れば個々の特色がすぐにわかるから発注もしやすくなるじゃないですか。
集めたメンバーは器用ではないけど、なにかしらの筋肉は異常に発達している人たちばかり。それぞれの得意分野を可視化することが、そのままテレビ東京のストロングポイントになるんじゃないかと考えました。実際、すごい反響がありましたよ。社内外から相談や問合せが殺到しましたから。
HIP:具体的に、どのような案件につながりましたか?
伊藤:たとえば、昨年6月に池袋のMixalive TOKYO(以下、ミクサライブ)で開催した『テレ東無観客フェス2020』という配信イベントにつながりましたね。ミクサライブはテレビ東京を含む複数社が運営するLIVEエンターテインメントビルとして昨年オープンしたのですが、コロナ禍で有人イベントが開催できず、厳しい状況だったんです。
そこで、担当部署の責任者から力を貸してほしいと言われ、チーム総出で企画を考えました。準備期間は3週間しかなく、プロデューサー自らが演者として顔出しするイベントというのも初の試みでしたが、結果的に9日間で17,940枚のチケットが売れたんです。このミクサライブでの成功は、大きな自信につながりました。
HIP:そこで勢いがつき、ほかにもさまざまな案件が生まれていったと。
伊藤:そうですね。YouTubeのコンテンツをつくったり、CM制作や講演の話なんかもあったりしました。いずれもこれまで制作局が手がけてこなかった領域ですが、アイデアの発想力や番組づくりの知見、瞬発力などは媒体を問わず応用できます。テレビ番組一辺倒ではなく、コンテンツメーカーとしてやっていける手応えを感じた一年でしたね。
「メッセージ」さえあれば、テレビ局でやる意義はあるはず
HIP:『巨大企業の日本改革3.0』第2回の放送で伊藤さんは、「テレビを捨てる」と発言されました。それは、今後はコンテンツメーカーとして、テレビ番組以外の領域にもどんどん進出していくという意味ですか?
伊藤:はい。極端なことを言えばテレビ局がTシャツをつくったって良いし、全国のおいしい野菜を「テレ東野菜」として販売しても良い。
工藤が担当している番組『昼めし旅』もそうですが、テレビ東京にはこれまで全国津々浦々を飛び回って得た情報やつながりがあります。そのネットワークと蓄積した知見をうまく使えば、いろんなことができるんじゃないかな。なんでもコンテンツにできるというのは、テレビ局ならではの強みだと思います。
HIP:これはやる・やらないという線引きも、とくにないのでしょうか。
伊藤:線引きはないですね。ただ、なにをやるにせよ、テレビ局が手がけるからには社会に対する「メッセージ」が必要です。テレビって、受け手がそこからなにかを得たり、文化に貢献したりする要素がなければいけないと思うんです。
それは別に「立派なもの」である必要はなくて、たとえば『ゴッドタン』のように超絶くだらないバラエティー番組だって良い。くだらないものの面白さを知れば、感性の幅は広がりますからね。そういうなにかしらの意義がないと、テレ東がやる意味はないし、やるべきではないと考えています。それこそ、ぼくらのパーパスはそこなのかなと。
HIP:メッセージさえあれば、テレビ東京でやる意義はあると。
伊藤:はい。そういう意味では、ぼくらがメッセージを込めてつくるコンテンツは、媒体や領域に関係なく「これがテレビのやり方です」と言えるのが最大の強みかもしれません。たとえば、Tシャツづくりや野菜の販売の独自コンテンツも、それぞれ並走しながらテレビ番組をつくることができる。
一方で、発信するデバイスは「テレビ家電」にこだわっていないので、テレビ番組の企画力や編集力などのクオリティーを担保しつつ、YouTubeやイベント配信はもちろん、映像のない音声コンテンツにも応用できるはず。これからは「テレビ=映像」という固定観念を捨て、テレビ東京やそれぞれのプロデューサーが持つ個性と強みを活かし、面白いコンテンツをさまざまな手段でリーチできる集団になりたいと考えています。
HIP:テレビという固定概念を問い直すということですね。ちなみに、クリエイティブビジネス制作チームとして、会社から言い渡されているミッションはあるのでしょうか?
伊藤:厳密にコレをやれ、というものはないですね。ただ、あえてミッションを挙げるなら「社内の意識改革」でしょうか。現状は、社員の多くがテレビ業界の古いビジネスモデルに浸り切っています。ですから、社内に向けて「新しい仕事のやり方」を見せることで、一人ひとりがより自由に挑戦できるような会社にしていきたい。そして、テレビ東京全体の考え方がアップデートされた暁には、このチームは解散しても良いのかなと思います。
HIP:実際に、この1年で会社内の変化は感じますか?
伊藤:感じますね。たとえば、他部署の若い社員から「企画書を見てほしい」と言われることが増えました。これは、いままでにない変化です。
工藤:私たちのチームが、これまで表に出てこなかった企画の受け皿になっているところもあるように感じます。これまでは編成局が年に2回ほど行う番組の企画募集しか窓口がなかったけど、クリエイティブビジネス制作チームの新設により「365日いつでも企画を出せるルート」ができました。
テレビ番組の編成表の都合などに関係なく、なにか企画を思いついたらすぐに受け付けてもらえる場があるというのは、テレビ局に務める社員にとってすごくモチベーションになると思います。
大企業との向き合い方も模索。番組のスポンサーから、ともに成長するパートナーへ
HIP:今後、『巨大企業の日本改革3.0』は、どういう番組になっていくのでしょうか?
工藤:正直、わかりません(笑)。先ほど伊藤も言っていましたが、第一回の放送時点で、すでに思いもよらぬ方向に進んでいますから。なので、これはもう模索しながらやっていくしかないのかなと。最初に描いた図はいったん捨てて、加藤さんやARCHのスタッフさん、ここですれ違う各企業の方々も含め、みんなでつくっていく番組なのだと思います。
HIP:テレビ東京自体が、ARCHにいる大企業を含む他社と協業して、新規事業をつくっていく可能性も考えられますか?
伊藤:それは、ぜひやりたいですね。これまでは大企業というと、われわれにとっては「番組のスポンサー」でした。しかし、今後はそれだけでなく、ともにタッグを組んで新しい事業をつくっていくパートナーにもなり得ます。今年の4月からはクリエイティブビジネス制作チームのメンバーもARCHに入居することになりましたし、テレビ東京にとっても大きなチャンスになると感じています。