INTERVIEW
高島屋に「ものを売らない店」が誕生。D2Cブランドと協力した百貨店の成長戦略
川口貴明(TAKASHIMAYA TRANSCOSMOS INTERNATIONAL COMMERCE PTE. LTD.)

INFORMATION

2022.06.20

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高島屋に「ものを売らない店」が誕生した。2022年4月29日、高島屋新宿店2Fにオープンしたショールーミングストア「Meetz STORE」だ。店頭で商品の販売は行なわず、店舗をショールームとして位置づけ、専用のオンラインサイトで商品を販売する。これまで手に取ることができなかったD2Cブランドや企業の商品を取りそろえ、リアル店舗ならではの「体験」を提供する。

老舗百貨店である高島屋は果たして、この場所でどんな顧客体験を生み出そうとしているのか? 出展するD2Cブランドと百貨店、それぞれが抱える課題について、Meetz STORE の事業を推進するTAKASHIMAYA TRANSCOSMOS INTERNATIONAL COMMERCE PTE. LTD.マネージングダイレクター兼CEOの川口貴明氏にうかがった。


文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

百貨店でショールミングストアは成功する?B2BとB2Cを合わせたビジネスに挑戦

HIP編集部(以下、HIP):高島屋新宿店の2Fにオープンした「Meetz STORE」は「ショールーミングストア」というビジネスモデルを採用しています。まずはどのような形態のお店なのか教えてください。

川口貴明(以下、川口):Meetz STOREは、実店舗に商品の在庫を持たず、展示見本の品を触ったり、体験したりしながら購入を検討できるショールーム型の店舗です。

商品自体は専用オンラインサイトでご購入いただき、ご自宅などに配送します。実店舗とECサイトの機能を掛け合わせた、いわゆる「OMO(Online Merges with Offline)ストア」の新業態ですね。

「新たな出会い」がテーマのMeetz STORE

HIP:どのようなブランドが出展しているのでしょうか?

川口:出展者は仲介業者を介さないD2Cブランドや企業、SNSなどで活動する個人クリエイターの方が中心で、来店されるお客さまにとっては「実店舗を持たないブランド」の商品を実際に手に取って確かめられるのが最大の特徴です。

ちなみに、ショールーミングストアのビジネス自体は2015年頃にアメリカでガジェットなどを扱う「b8ta」が台頭し始め、日本に上陸したのは2020年ぐらいからですね。

TAKASHIMAYA TRANSCOSMOS INTERNATIONAL COMMERCE PTE. LTD.マネージングダイレクター兼CEOの川口貴明氏

HIP:なるほど。では、高島屋初となるショールーミングストア「Meetz STORE」には、どんな特徴があるのでしょうか?

川口:それには、アメリカで先行しているショールーミングストアの事例から説明したほうがわかりやすいかもしれません。アメリカの場合、百貨店のようなさまざまなお客さまが訪れる場所ではなく、どちらかというと専門店としてショールームがオープンすることが多いです。代表的なのはガジェットを中心に扱う「b8ta」のようなお店ですね。

そうしたお店は、実店舗で接客時のコミュニケーションからお客さまの心理や潜在意識といったユーザーインサイトの定性データを収集するんです。ブランドにとって、こうしたデータは商品開発やマーケティングに活用できる、いわば「宝」になります。

つまり、実店舗を「テストマーケティングに活用するための場」と位置づけ、出展ブランドに活用してもらう側面が強い。ですから、ショールーミングストア事業はどちらかというと、B2B寄りのビジネスであるといえます。

一方、「Meetz STORE」は百貨店のなかにあることもあり、B2BだけでなくB2Cにも目を向ける必要があります。なぜなら、百貨店には長年にわたって足を運んでいただいている多くのお客さまがいるからです。

HIP:既存のお客さまと出展ブランドの両方をターゲットにする必要があるから、B2BとB2Cを掛け合わせるということでしょうか。

川口:そうです。企業のテストマーケティングの場であると同時に、既存のお客さまに対しても、われわれは「百貨店の新しい価値」を提供していく。高島屋ならではのショールーミングストアにしたいと考えました。

若者の利用の促進とD2Cブランドの負担を軽減する、Meetz STOREの特徴

HIP:「百貨店の新しい価値」とは、具体的になんでしょうか?

川口:Meetz STOREの大きな特徴として挙げられるのが、「ギフト包装機能」と「キュレーターによる商品セレクト」です。まずギフト包装機能ですが、百貨店はほかの小売業態と比べてギフトの需要が多いので、贈りものに適した商品を数多く用意し、お客さまのご希望に応じたギフト包装での配送が可能です。

いま、若年層を中心に利用が増えている「ソーシャルギフト」という、相手の住所を知らなくてもSNSでギフトが贈れるサービスがあるのですが、そちらにも対応しています。OMOストアとソーシャルギフトの掛け合わせは、業界初ではないでしょうか。

出展しているD2Cブランドのなかには、ギフト包装に対応していない場合も多々ありますし、また、ECサイトでの商品紹介の説明を魅力的につくれていないという課題もあります。

しかし、Meetz STOREのプラットフォームでは、ギフト包装にも対応していますし、商品の背景にあるストーリーやおすすめポイントのつくり込みもサポートします。ですので、ブランド側の負担を軽減し、商品をより魅力的に届けるという点でも役立てるかと思います。

HIP:キュレーターによる商品セレクトはどうでしょうか?

川口:「食」や「ビューティー」「日本アート&クラフト」などの5つのテーマに精通する著名なキュレーターに、商品をセレクトいただいています。

百貨店は昔からバイヤーが世界中を飛びまわり、優れた商品を集めてきました。こうした百貨店の強みである、人を軸にしたマーチャンダイジング、発信というのも、Meetz STOREの大きな魅力になるのではないでしょうか。

寺門ジモン氏、サリー楓氏、浦浜アリサ氏、坂口真生氏、天野譲滋氏が商品をセレクト

HIP:売り場のデザインやディスプレイも、従来の百貨店とはかなり印象が異なりますね。

川口:はい。Meetz STOREには30のブースがありますが、ジャンルごとにコーナーを分けず、真っ白いキャンバスのような空間デザインにしています。

まっ白にしたのは商品映えするという意図のほかに、まったく違うジャンルの商品をミックスさせながら陳列することで、これまでの百貨店にない提案をしていきたい狙いもありました。

たとえば、「母の日」や「父の日」をテーマに売り場をつくり、「このギフトとこのギフトを組み合わせたら面白い」といった陳列の仕方もできる。「ファッションとガジェット」「コスメと食品」のような違うジャンルの商品を組み合わせる楽しさを味わっていただくために、これまでの百貨店の常識に捉われず、顧客の視点で新しい発見がある売り場づくりを意識しています。

衆議院会館のなかで提供されている「国会カレー」
寺門ジモン氏が手がける焼肉警察の「焼肉トング」
デザイナーの佐藤可士和氏がパッケージデザインを担当した「伊丹米」

販売力強化のために。世界各国のECプラットフォームとのネットワークを持つ企業と協業した理由

HIP:Meetz STOREを運営するTAKASHIMAYA TRANSCOSMOS INTERNATIONAL COMMERCE PTE.LTD.(以下、TTIC)は、高島屋とトランスコスモスの合弁会社ということですが、どのような経緯で協業に至ったのでしょうか?

川口:TTICを設立した2015年は「地方創生」や「クールジャパン」といったキーワードのもと、全国各地の名品を世界に売り込んでいく気運が高まっていた時期でした。

当時、高島屋はシンガポールと上海に百貨店があり、バンコクとホーチミンにも出店するタイミングでしたので、ここを拠点として海外に日本のブランドを売っていく体制を構築していくことになりました。

そこで、オンラインでの販売力をさらに強化するために、世界各国のECプラットフォームとネットワークを持つトランスコスモスと組み、実店舗によるフィジカルな販路とデジタルの販路を組み合わせた商社機能を持つ、新しい会社をつくることになったんです。

若者をどうやって百貨店に呼び込む?高島屋がショールミングストアに共感した理由

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