日本のトイレは、訪日外国人が驚くポイントとして取り上げられることも多い。温水洗浄便座に代表される、過剰とも思えるこだわりとテクノロジーは「トイレのガラパゴス化」と言われる一方で、日本人のおもてなし精神の象徴ともなっている。
なぜ、日本人はこんなにもトイレにこだわるのか? 以前、日本科学未来館で開催された企画展『トイレ?行っトイレ! ボクらのうんちと地球のみらい』で演出の一部に携わった、放送作家の鈴木おさむ氏に、日本人とトイレの関わりや未来のトイレなど、トイレにまつわるさまざまな話を伺った。
取材・文:笹林司 写真:大畑陽子
下水技術を知ったとき、正直に「すげーな、日本」と感じました。これって、もっとアピールすべきポイントなんじゃないのかな。
HIP編集部(以下HIP):鈴木さんは、2014年の夏に日本科学未来館で開催された企画展『トイレ?行っトイレ! ボクらのうんちと地球のみらい』で、プロローグとエピローグの演出を担当されましたよね。もともとトイレについてはお詳しかったのでしょうか?
鈴木おさむ氏(以下鈴木):詳しいわけではなかったので、企画展のお話をいただいたときに、トイレについて勉強したんです。そうしたら、知らないことが多すぎてビックリしました。たとえば、「肥だめ」って知っていますか。
HIP:肥料にする糞尿を溜めておくものですよね。
鈴木:そう。あれって、溜めておくだけではなく、発酵させて毒素を抜く役目もあるんです。ぼく、それを知るまでは、糞尿は肥やしになるから、溜めずにそのまま撒いてしまえばいいと思っていたんですよ。でも、そのまま海に捨てれば赤潮(プランクトンが異常発生して海などが変色する現象)が発生して環境破壊になるし、畑に捨てれば作物の根腐れや赤痢などの病気の原因にもなるんです。
HIP:先日、「衛生的なトイレの未整備がもたらす経済損失が、2015年に世界で2229億ドル(約22兆円)にのぼった」との報道もありました。
鈴木:そう、トイレの未整備って、世界的にみると深刻な問題ですよ。でも、下水処理の技術が発達している日本では、多分ほとんどの人が気にしたことがないと思います。ぼくは、糞尿を無害化する下水技術を知ったとき、正直に「すげーな、日本」と感じました。これって、もっとアピールすべきポイントなんじゃないのかな。
トイレはインプットの場所だと思っているんです。集中して読むことを利用すれば、広告にも活用できますよね。
HIP:トイレは日常に溶け込みすぎているせいか、関心を持っている人自体少ないのではないかと思います。2014年の企画展もトイレをアピールするひとつの機会だったと思いますが、より多くの人に関心を持ってもらうためにはどうしたらいいのでしょうか?
鈴木:トイレの個室に、下水道の仕組みや効果などを解説した貼り紙を貼ったり、マガジンを置いたりしたらいいですよね。ぼく、トイレはインプットの場所だと思っているんです。自宅にはトイレが2つあって、ぼくが使うほうのトイレには、常に複数の雑誌が置いてあります。ただ座っているだけではもったいないから、情報をインプットしたい。ただ、小難しいのはダメ。だから雑誌くらいがちょうど良いんですよね。
HIP:居酒屋さんのなかでは、教訓的な貼り紙をしているところも見かけますよね。
鈴木:「オヤジの小言」みたいなやつだ。ぼく、あれ大好きなんです。日本だけかと思ったら、中国でも同じようなことをやっている。(スマホの写真を見せながら)ほら、「向前一小歩 文明一大歩」って書いてあるでしょう。これ、日本語訳すると「一歩前にお進み下さい」という意味ですが、漢字をそのまま読むと、「あなたの小さい一歩は文明にとっての大きな一歩」。もう、人類で初めて宇宙に行った宇宙飛行士、ユーリイ・ガガーリンの「人類にとっては大きな一歩」のような一言ですよ。
HIP:たしかに(笑)。トイレに読みものがあると、集中して読んじゃいます。
鈴木:集中して読むことを利用すれば、広告にも活用できると思っています。そもそも、トイレはターゲットの絞り込みがしやすい場所ですから。まず、男女がしっかり分かれているでしょう。それに、設置してある場所によって、どんな人が使うかも想定しやすい。高級レストランなら、富裕層向けの広告を打つなんてことも考えられますよね。