高齢者の本音を追求した新たな手押し車。スズキが実践したデザイン思考とは
ラジャ・ゴピナス(スズキ株式会社 電動モビリティ開発部 eモビリティ開発課) / 和田昌祥(スズキ株式会社 電動モビリティ開発部 eモビリティ開発課)
2019.05.10

批判は課題を浮き彫りにする。本音を引き出すことがインタビューでは重要

HIP:シリコンバレーの高齢者のご意見が、kupoの原型をつくったんですね。

和田:はい。ただ、日本に帰ってからも、国内の高齢者に意見を聞き、試作品をつくり直す日々が続きました。

ラジャ:シリコンバレーと日本では、生活習慣も大きく違いますからね。

たとえば、アメリカでの買い物は、車でコストコのような大型スーパーに行って、一度に済ませるのが一般的です。よって、高齢者の方が散歩のついでに買い物をすることはほとんどありません。

しかし、日本の高齢者は近くのスーパーや商店街に行って、頻繁に買い物をします。実際インタビューすると、シリコンバレーで制作したプロトタイプは、いわゆる「買い物袋」や「買い物かご」を置くスペースがないので不便そうという声をたくさんいただいたんです。大きなバスケットを搭載可能にしたのは、日本でのユーザーアンケートを反映した結果ですね。

HIP:日本に帰ってきてからも、シリコンバレーで学んだデザイン思考を実践したんですね。

ラジャ:はい。多くのトライ&エラーを繰り返しました。シリコンバレーの試作品から数えると、帰国後に少なくとも3回は大きなバージョンアップを経ています。小さなものまで含めると、数十回のバージョンアップを行なっていますね。

HIP:日本でもたくさんの高齢者のご意見をうかがいながら改良していったんですね。ただ、アメリカとは違い、日本だと街中で突然インタビューをしてもなかなか取り合ってもらえない印象があります。

和田:たしかに、アメリカ人は良い点も悪い点も包み隠さず話してくれました。一方で、日本人はインタビューに応じてくれないことや、仮に応じてもお世辞のようなコメントばかりで批判をしてくれないことも多かったです。

批判は課題を浮き彫りにするので、インタビューではいかに本心を引き出すかが重要。そのために試行錯誤しましたね。

日本人の本音を引き出す第一歩は、「言いづらいことも言える環境」をつくること

HIP:どのように、ユーザーの本音を引き出したのでしょうか?

ラジャ:「第三者のふりをする」のがいちばん有効でした。たとえば、公園の真ん中にプロトタイプを置いて、人が集まってきたら「これ、なんでしょうね。なんかこの辺りが変だと思いませんか?」と自分も知らないふりして、言いづらいことも同調しやすくなる言葉をかけるんです(笑)。

すると、なかなか素直な意見を出してくれなかった日本人からも「すぐに倒れそうだよね」など批判がたくさん出てくるんです。まずは「批判を言ってもいいんだ」という環境をつくることが、日本人の本音を引き出す第一歩だと実感しました。

最後には「じつは私が開発者なんです。貴重な意見ありがとうございます」と、お礼とともに種明かしをしました。みんな、驚いていましたよ(笑)。

和田:まさに、「倒れやすそう」という意見も参考にしましたね。高齢者のご意見から明らかになったのは、実際の安全面はもちろんのこと、乗車した際に自分を守ってくれそうな「安心感がほしい」という思いでした。

それをデザイン面で表現しようと、アームレスト(肘かけ)のデザインは100回以上、調整を繰り返しました。最終的に、角度を少し内向きにして上部に出っ張りを加えたんです。もし車体が前のめりに傾いても体を保護してくれますし、自力でパッと捕まりやすいかたちになりました。

高齢者が元気でいられる社会をつくることは、日本全体を明るくすることにつながる

HIP:お話をうかがっていると、お二人はこのプロジェクトに相当な熱量をかけているように感じます。

ラジャ:シリコンバレーに発つ前から意欲はありましたが、現地で高齢者の方にインタビューを重ねるうちに、より熱意が高まりました。

カフェでご意見をうかがったあとに連絡先を交換してくれた人からは、いまも「その後、良い製品はできたかい?」と連絡をいただきます。そうしたやり取りをしているうちに、会社のミッション以上に「直接ご意見をうかがった人のため」にkupoをつくろうと思うようになりました。

和田:私は、シリコンバレーでの働き方だけでなく、一緒に働くラジャの姿勢にも大きく影響を受けました。高齢者の方にインタビューするなかで、有名な先人の言葉やフレームワークを瞬時に引用していたんです。

幅広い知識があればあるほど、人を惹きつける引き出しが増えるということを思い知りました。自分ももっと幅広い分野のことを勉強しなければと思い、いまは読書する時間が増えましたね。

HIP:最後に、いまの日本は超高齢社会といわれています。この時代において、kupoはどのような存在を目指したいですか。

ラジャ:多くの高齢者の方々にとって、青空の下を歩くきっかけになってほしい。そんな願いを込めて、「空歩=kupo」と名づけました。その願いを実現できるといいですね。

和田:私の祖母は歳をとってから、外を歩いてもあまり爽快感を味わえないそうで、引きこもりがちになってしまいました。元気のない祖母を見ていると、私自身、とてもつらかった。

高齢者が増えるということは、「祖父母にはいつまでも元気でいてほしい」と願う中年層や若者も増えるということ。だから、高齢者がいつまでも元気でいられる社会になれば、日本はより明るくなると思うんです。そのために、kupoが役立てば嬉しいですね。

Profile

プロフィール

ラジャ・ゴピナス(スズキ株式会社 電動モビリティ開発部 eモビリティ開発課)

2012年にインド工科大学を卒業。2014年に早稲田大学大学院を卒業後、スズキ株式会社に入社。四輪電動車設計部門でプログラミング系の仕事に従事。2017年より電動モビリティ開発部で次世代モビリティを開発。

和田昌祥(スズキ株式会社 電動モビリティ開発部 eモビリティ開発課)

2012年、スズキ株式会社に入社。研究開発部に所属した後、電動モビリティ開発企画課、セニアカーの設計課を経て、2017年のシリコンバレープロジェクトに志願した。2018年4月より現職。

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