INTERVIEW
元マジシャンの異色プロデューサー・安藤晃弘が語る、VRで「脳を騙す」テクニック
安藤晃弘(株式会社ハシラス 代表)

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2016.11.07

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VRは自分だけの世界に没頭しがちな印象がありますが、周りの人がどう楽しめるのかも重要です。

HIP:たとえば、手妻師のどういった経験が役立ったのでしょうか?

安藤:舞台の上では、お客さまのリアクションを見ながら、出し物を変えたり、掛け合いを変えたりして、場を盛り上げていきます。それと同様に、私たちが作るVRアトラクションでも、お客さまのリアクションを見ながら、内容を微妙に変えているんです。積極的なお客さまなら、よりハードな体験ができるルートを選択する。その姿を周りで見ているお客さまもパブリックビューイングディスプレイを見て盛りあがる。これなら、待っている人も退屈しないし、近くを通った人が興味を持って新たなお客さまになってくれますよね。

HIP:VRというと自分だけの世界に没頭しがちな印象がありますが、安藤さんが考えるVRはそうではないのですね。

安藤:VRは体験するとすごさがわかるのですが、多くの人にその魅力を伝える術がない。それで、ヘッドマウントディスプレイを装着するお客さまが見ている「主観画面」に加え、より俯瞰した視点から映している「パブリックビューイング画面」を周りのお客さまに見てもらおうと思ったんです。そこでどうおもしろく見えるのかも重要なんですね。

HIP:パブリックビューイングの要素を取り入れたと。

安藤:はい。それともう一つ、手妻の経験が活かされていることがあります。それは、「体感のデザイン」ができること。平たく言えば、VRにおいてどういった工夫をすれば、真に迫れる体験ができるかを分析する力が備わっているということです。

VRはマジックと一緒で、「現実を現実たらしめる部分」を見極めて、取捨選択することが必要なのです。

HIP:手妻もVRと同じで、真実ではないものを真実のように見せる技術。そこはつながるのですね。

安藤:VRとは少し離れるかもしれませんが、世界で初めてSFX(特殊撮影)を行ったと言われるフランスの映画監督、ジョルジュ・メリエスの前職もマジシャンです。マジシャンであるメリエスが当時の最先端技術である映画に触れたとき、平面上に映し出される映像で、どうやって人を騙して楽しませるかを考えたらSFXが生まれた。これって、いまのVRにも通じると思いませんか?

HIP:安藤さんは現代のジョルジュ・メリエスといったところでしょうか。

安藤:ありがとうございます(笑)。たとえば、トランプのマジックには、手札の上から2枚目のカードを一番上のカードであるかのように配るテクニックがあります。どうすれば、バレないと思いますか?

HIP:できるだけ、手元に目線をやらないように気をつけるとか?

安藤:通常通り一番上のカードを配るときに、自分がどんな手つきとタイミングで配っているのかを撮影しておき、それとまったく同じ動作で上から2枚目のカードを配れるようになるまで練習するんです。まったく同じ動作ならば違和感を与えないので、決してバレない。VRもこの考え方と同じで、まず本物の体感をお手本に、どのような要素が本物らしくさせているかを知るのが重要です。

HIP:VRを突き詰めていくと、よりリアリティをトレースすることが必要になるのでしょうか。

安藤:そうなんですが、ここが難しいところで、ただ再現することだけが重要なのではありません。マジックも同じなのですが、「現実を現実たらしめる部分」を見極めて、取捨選択することが必要なのです。必要な部分だけを選択し、デフォルメすることで、虚像であっても現実を体感することができる。

HIP:取捨選択の基準はどこにあるのですか?

安藤:もちろんリアリティのある映像やサウンドも大事ですが、まずは「体感の不一致をなくすこと」を考えることが重要だと思います。体感として面白い、視覚的に楽しいといったプラスの要素も大事ではありますが、体感の不一致というマイナスの要素を排除することのほうが優先順位が高くなります。

また、VRでやるべきことは2つあると考えています。一つは、現実では不可能なことをやる。もう一つは、現実ではすごくお金がかかることをやる。たとえば、乗用車を運転する体感をVRで完璧にシミュレーションしようとすれば、莫大なコストになります。普通に運転すれば得られる体験を再現することにそこまでお金をかけるのは割に合わないですね。一方で、現実ではできないことをVRで体験するというのは、VRならではの価値になると思っています。

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