大企業では自分にブレーキをかけがち。行動を起こすためのマインドセットとは
HIP:需要を確信したとはいえ、シェアサービスは日本特殊陶業としても手掛けたことがないビジネスモデルですよね。どのようにして、やり方を見出したのでしょうか?
長谷川:「体当たり」で模索しました。それを象徴するような1日があったのを、いまでも覚えています。自分たちのビジネスは中小企業が相手。ビジネスモデルとして問題がないかを確認するために、まずは中小企業庁や経済省の方にお話をうかがいました。
次に、シェアリングエコノミー協会(シェアサービスの普及と発展を目的とする協会)の方のお話も聞きたくて、アポを取りお会いしました。午前中から午後にかけて、その3箇所をぶっ通しで訪ねたあと、夜には印刷業界でシェアリングサービスを展開している企業に飛び込みでお話をうかがったんです。
HIP:なぜ印刷業界の企業の話をうかがったのでしょう?
長谷川:その企業は多数の印刷会社と提携しており、お客さまから注文があったら、その時間に機械が空いている会社を選んで印刷するビジネスモデルで成功しています。
業界は違えど、われわれの目指すビジネスモデルとも近いので、どうしてもお話をうかがいたかった。住所を調べて飛び込んだところ、広報の方が快く対応してくださって、いろいろとお話を聞くことができました。
HIP: 1日に4箇所も訪ねるとは、かなりアグレッシブですね。たしかに、印象的な1日です。
長谷川:その日に限らず、基本的には「体当たり」のスタンスを貫いてビジネスモデルを模索していきました。大企業で事業を推進する場合、特有のルールやしがらみがあります。すると、知らず知らずのうちに、自分の心にブレーキを掛けてしまいます。
しかし、真っ当な手段で会社を成長させる行動なら、何も問題ないはず。ルールはコントロールできなくても、自分が行動するかどうかは、自分で選べる。だったら、行動したほうが良いですよね。
私のように先に動いて物事を進めてしまうのも、ときには必要だと思うんです。大企業にいるときは会社の名前も背負っているので、「動いて何か問題が起きたらどうしよう」と思う気持ちもわかります。ですが、実際に動いてみると、意外に大丈夫なものです。万が一問題になっても、最悪クビになるくらいで、命が取られるわけではありませんからね(笑)。
既存事業の考え方を捨てる。新規事業の推進に必要な思考とは?
HIP:長谷川さんのその大胆さは、もともとの性格なのでしょうか?
長谷川:いえ、性格というよりは、プロジェクトに応募したときにマインドセットを切り替えたのが大きいですね。たとえば、既存事業はノウハウや技術が備わっているので、100時間作業したら、何かしらの結果が出ることが多い。しかし、新規事業は何もないところから始まるので、1,000時間費やしても結果が出ないかもしれない。
だから、自分が主体となって新規事業を進める以上、「いままでの既存事業の考え方を捨てて、とにかく行動して模索しよう」と覚悟を決めたのです。
HIP:なるほど。シェアリングファクトリーを日本特殊陶業の一部署ではなく、初の社内ベンチャー企業にしたのも「既存事業の思考」からの脱却が理由のひとつとしてあるのでしょうか。
長谷川:一理ありますね。一部署にしてしまったら、お金周りの取引などに大企業の社内ルールが適用されるので、事業スピードが遅くなります。身軽な状態で動きたいので、こちらからも子会社にしてほしいと経営層にお願いしました。
HIP:子会社化するにあたり、苦労されたことはありますか?
長谷川:これまでBtoBの取引がメインだった日本特殊陶業にはない業態だったので、社内へのサービス説明が難しかったです。プラットフォームのサービスは、始めてみないと需要が掴めません。結果を出すには、多くのユーザーを集めるための時間と費用がかかります。
だから、CtoCでシェアリングサービスのプラットフォームを提供している他企業の事例をもとに、成功までの道筋とそこに到達するまでにかかりそうなコストを予測して社内に説明しました。
どのくらいのコストがかかるのかわからない事業を承認するのは、経営層にとってもチャレンジングだったと思います。最後は、「絶対に結果を出します」という覚悟で押し切ったところもありますね。
良い意味で実験台。社内ベンチャーが企業に貢献できること
HIP:初の社内ベンチャー企業として、社内でもかなり注目されたのでは?
長谷川:始めた頃は、社内であまり興味を持ってもらえなかったですが、いまはかなりポジティブに捉えてもらっていると思います。やはり実際に会社をつくったことが大きかったですね。そもそも、社員は誰もそこまでやると思っていませんでしたから。
これによって、ほかの新規事業にもフォーカスが当たるようになりました。良い意味で、実験台になっていることは間違いありませんね。われわれがうまくいけば、次に新規事業を起ち上げる際にも同じスキームを使うことができる。経験値を高めるという意味では、本体の日本特殊陶業にも貢献しているのかもしれません。
HIP:最後に現在の手ごたえと、今後の目標を聞かせて下さい。
長谷川:実際に取引が行われて、お金が動いて価値が生まれているのがいちばんの手応えです。当初、登録していたのは30社でしたが、約1年半で400社まで増えました。実際に使っているお客さまに喜んでいただけていることはやはり嬉しいですね。
とはいえ、まだ爆発的に広まっていないので、細かい部分を改善してさらに使いやすさを向上させる必要があると感じています。将来的には設備機器類だけでなく、人手不足の課題解決まで手を広げていきたいですね。