働き方の多様化や社員満足度の向上が、経営課題として挙げられている昨今。インナーブランディングを通じて、企業が進むべき方向や理念を社内に浸透させる重要性が見直されている。そのための代表的な施策のひとつが「社内報」である。
企業のインナーブランディングのコンサルティング事業をはじめ、全国の優秀な社内報を表彰する『社内報アワード』を主催するウィズワークスの代表 浪木克文氏いわく、社内報によるインナーコミュニケーションは、イノベーティブな企業づくりを促進するという。
実際に社内報の活用に成功している企業として、浪木氏が名前を挙げたのが、ローソンとカルビーだ。二社では社内報を起点として、新しい取り組みが生まれているそう。
今回は、両社の社内報制作の担当者とウィズワークスの浪木氏をお迎えし、社内報によってインナーコミュニケーションが活性化した事例や、そこからイノベーティブな組織づくりにつなげるヒントを聞いた。
取材・文:笹林司 写真:玉村敬太
社内報は、「縦、横、斜め」のコミュニケーションにつながる優秀なツール
HIP編集部(以下、HIP):多くの企業で発行されている「社内報」。毎月配られるけれど、読まずについついデスクに放置しがち……という人も多いかもしれません。あらためて、社内報がなんのためにつくられているのか教えていただけますか?
浪木克文氏(以下、浪木):大きな役割のひとつとなるのが、企業の理念やビジョンをメッセージとして発信し、社員に浸透させることです。社内向けのブランディングという意味で「インナーブランディング」といいますが、これがしっかりできていないと、社員や部署、拠点ごとに進む方向がバラバラになり、顧客へのサービスの水準を一定に保つことができません。
多くの社員にしっかり読まれる社内報をつくれれば、強力なインナーブランディングツールとなるばかりか、「縦、横、斜め」のコミュニケーションにもつながります。それが結果的に、イノベーティブな組織づくりにも大きく貢献すると考えています。
HIP:社内報がイノベーションにつながる。興味深いお話ですね。
浪木:一社員や一部署の力だけで、イノベーションを起こすのはなかなか難しい。でも、自分の強みと、ほかの社員や部署の強みを掛け合わせれば、これまで思いつかなかった事業展開も可能になるかもしれないですよね。そのためには、まず、各部署や個人が持つ強みを社内で共有することが必要なんです。
社内報のいいところは、ほかの社員や部署がどんな仕事をしているのかなど思わぬ情報を得られること。その情報は、必ずしも新しい技術やアイデアでなくても構いません。イノベーションが起きる企業は、往々にして社員同士がお互いのことをよく知っています。社員の「人となり」を知ることが、イノベーションを起こすための第一歩。
ただ、社内報の内容自体が面白くなければ読まれないし、読まれなければ影響力も発揮されない。そのため、単に情報を載せるだけでなく、コンテンツの選び方や編集に工夫が必要になります。
HIP:できるだけ多くの社員に読んでもらうために、社内報の形態も多様化していると聞きました。カルビーは、ウェブでも社内報を発行しているそうですね。
間瀬理恵(以下、間瀬):カルビーでは、紙版とイントラネット版(組織内におけるプライベートネットワーク)の両方で社内報を発行しています。紙版は2か月に一回、じっくり読んでもらいたい記事や経営課題に合わせた特集を中心として発行し、イントラ版はニュース性がある記事を随時アップするといったすみ分けをしています。
間瀬:ちなみに、紙版の名前は「LOOP(ループ)」で、イントラ版は「LOOP plus WEB」。グループ会社も含めて、社員全員を巻き込んでループ(輪)をつくろうという思いで名づけました。
社内報はトップが経営理念を伝える場であり、工場や各営業拠点への情報伝達の場でもあります。「LOOP」という名前の通り、トップと社員や、社員同士のコミュニケーションツールとして、重要な役割を担っています。
HIP:ローソンでは、社内報の目的をどのように定義していますか。
松林千宏(以下、松林):カルビーさんと近いですが、トップの考えを伝えることはもちろん、一緒に働く仲間がどういった考えを持って仕事をしているのかを共有する目的があります。ローソンは47都道府県に拠点を持っているので、各部署やエリアの取り組みを広く共有することは特に重視していますね。
松林:また、従業員の雇用形態や働き方も、正社員だけでなく、加盟店オーナーや店長、クルーと呼ばれるパート・アルバイトなどさまざま。それぞれに対して最適なツールで、内容も変えて情報発信しています。なかでも、正社員に向けた「The LAWSON」が、いわゆる社内報にあたりますね。これは、スマホアプリとイントラネットで読むことができ、通常は紙版での発行はしていません。
松林:じつは「The LAWSON」という名前の「The」にはこだわりがあるんです。「I’m going to the convenience store」と「I’m going to a convenience store」では、微妙に意味が違いますよね。「a」を「The」に変えることで、「私は“あの”コンビニに行きます」という意味になります。「The LAWSON」には、「選ばれるコンビニになる」というビジョンを込めているのです。
ライバルは「LINE NEWS」や「SmartNews」。スマホで読める社内報の実態
HIP:一般的に社内報といえば、定期的に冊子が配られるイメージですが、スマホアプリで読めるというのは、かなり先進的だと思います。導入のきっかけを教えてください。
松林:もともとは、トップの意向で始まりました。紙版やイントラネット版は、ニュース性もあまりなく内容もやや堅かったため、正直多くの社員に読まれている実感がありませんでした。だからこそ、「もっとカジュアルにトップの考えを社員に伝えて、会社全体を元気にしたい」と。それで、もっと気軽に見てもらえる手段を模索した結果、スマホアプリ版の社内報を導入することになったんです。
実際、カジュアルに情報発信ができるようになったことで、トップと社員のあいだの距離がより近くなった気がします。以前、おにぎりの発売イベントを渋谷109で開催したとき、トップがおにぎりの被り物をつけて商品配布を行ったことがありました。その様子を撮影して、すぐに「The LAWSON」にアップしたところ、社員からの反響がすごくあったんです。
HIP:トップが率先してカジュアルに情報発信をしたことで、社員が親しみを持ったんですね。
松林:はい。カジュアルさだけでなく、情報発信の「スピード感」も普段から重要視していますね。紙版はページをめくりながら読まないといけないですし、イントラネット版はわざわざパソコンを立ち上げないと見られません。その動作が面倒で、読まない社員も多かったんです。しかし、スマホで社内報が読めるようになり、SNSみたいにクリックひとつでつねに新しい情報を共有することが可能になりました。
コンビニは、とにかくスピードが求められる業態。毎週100を超える新商品が発売されますし、周辺環境や時期によって、来店されるお客さまも異なります。売れ筋や客層が変化するスピードに合わせて、企業の方向性や理念、アイデアを素早く共有するには、スマホアプリというツールはかなり有効ですね。
「社員がいつでも気軽にチェックしてしまうアプリ」を目指すという意味で、「The LAWSON」のライバルは、「LINE NEWS」や「SmartNews」だと思っています。