お堅い印象から一転。経営トップと社員のディスカッションが盛り上がる場に
HIP:カルビーでは早い時期からイントラネットで社内報を読めるようにしていたそうですね。
間瀬:イントラネット版の社内報は、2003年から始めました。当時の内容は、トップのメッセージを伝えることが中心で、デザインを含めかなりお堅い印象だったと思います。
そこで、読んでいて楽しいものを目指すべく、2012年にデザインやコンテンツをフルリニューアルしました。読者が気に入った記事には「いいね」をつけられる仕様にしたので、気軽なコミュニケーションが生まれるようになりました。「いいね」の数で人気の記事がわかるので、発信側の意欲にもつながり、おのずと原稿の質も上がりましたね。
また、トップのメッセージをより浸透させることがリニューアルの最大の目的でもあったので、特にトップのメッセージは、肩肘を張らずに楽しめるように工夫しました。
HIP:どのような工夫でしょうか?
間瀬:ブログの形式にして、匿名でコメントをつけられる仕様にしたんです。誰が書いたかわからない状態だと、批判的な内容も含め、みんな意外と積極的に意見を述べてくれます。ある記事が炎上し、それがきっかけでさらに読まれることも。そういった意味では、炎上も効果的だと捉えています(笑)。
なかでも印象深かったのは、前CEOの松本晃が「夏休みにクルーズに行くよ」という記事をアップしたときのことです。そこに「カルビーはLWB(ライフワークバランスの略)を大事にしている会社です」と書いてあったのですが、「ライフの時間が少なすぎます」「製造工場の現場では、ライフを優先して考えられる環境ではありません」とか、辛辣なコメントがたくさん届いたんです。
それに対して松本が、「来年の夏休みに連休を取るための工夫を、いまから考えませんか?」と返事をしたところ、社員から休暇制度の新たなアイデアがコメントとして多く寄せられました。これは、紙の社内報では発生しないコミュニケーションですよね。
タイトルやキャッチにも技が光る。「読まれる社内報」をつくる工夫とは
HIP:カルビーがブログにコメント欄を設けたのは、「読ませる社内報」にするための工夫のひとつですね。ローソンでも、社員に読んでもらうために工夫していることはありますか。
松林:できるだけ「人」にフォーカスしながら、取り組みを紹介するようにしています。各記事の閲覧数を分析すると、社員の頑張りや現場の施策を紹介する記事が読まれる傾向にあるためです。
「人」を取り上げるときに大事なのは、写真のクオリティーですね。男性社員に登場してもらう場合、かっこよく撮ることは意識しています。また、女性社員が登場すると画面に華やかさが出て閲覧数が伸びるので、戦略的に取り上げることもあります。やはり、社内報は読んでもらってこそですから。
間瀬:キャッチコピーも、工夫するべきポイントですよね。たとえば「あの芸能人が登場」「あの有名社長が語る」など、タイトルに名前を入れず、「あの」で興味を引く。すると、「誰が出ているんだ?」と気になって、読んでもらえることが多いですね。
松林:たしかに、タイトルは大事ですよね。私たちは、タイトル付近に3行の簡単なまとめを掲載することで、記事の概要がわかるようにしています。忙しい日でも、その3行を見るだけで最低限の情報が得られるようにするための工夫です。
当初は社員から取材NGも。積極的な社内協力を得られるメディアに、どう育てた?
HIP:もはや完全にメディアとして成立していますね。勉強になります(笑)。制作の苦労点などはありますか。
松林:軌道に乗るまでは大変でした。そもそも、スマホで社内報を読むという文化がありませんでしたから。社員に取材を断られることもありました。コンテンツが浸透するまでに、およそ1年はかかりましたね。
浸透してからは、記事に取り上げてほしい取り組みや面白い人財の売り込みも増えました。いまでは、コンテンツの約8割が寄稿で成り立っています。
間瀬:私たちも投稿記事が多いのですが、最初はなかなか記事が集まらず、苦労した時期がありました。
転機のひとつは、ある事業所が送ってきたコラム。なんというか、本当にただの日常を書いただけで、特に気づきやオチもなかった。ちょっと迷ったのですが、それでも掲載してみました。
すると「あ、こんな気軽な感じで投稿してもいいんだ」と安心してもらえたのか、そこから投稿記事が増えたんです。もちろん、オフィシャルの社内報として一定のクオリティーを保つことは大事ですが、社員に積極的に参加してもらうためには、少し敷居を下げることも大切だと感じましたね。
浪木:両社とも制作側の工夫の効果もあって、社員さんが協力的ですよね。でも、一般の企業では、社内の協力を得ることに苦労しているケースが多いんです。その際に重要なのは、トップが社内報の意義を理解しているか、協力的かどうか。
トップが協力的なら、自然と社員も協力しやすくなり、いろいろな情報を社内報で発信できます。そうなると、記事も面白くなり、「読まれる社内報」としてインナーブランディングに役立つツールになりますね。