高齢化や人口減少が進む日本では、あらゆる業種において生産性の向上が喫緊の課題となっている。もちろん、われわれが常日頃からお世話になっているコンビニも類に漏れない。各社が「無人コンビニ」の可能性を探るなか、業界最大手の株式会社セブン‐イレブン・ジャパン(以下、セブン‐イレブン)は日本電気株式会社(以下、NEC)と組んで「省人型(少人数で生産性が上げられる)コンビニ」の実証実験を始めた。
面積は一般的なコンビニの4分の1程度にあたる、約26平方メートル。取扱商品も、6分の1程度の約400品目に絞った店舗。顔認証による決済やAIを活用した発注提案など、NECが持つ最先端技術を活用して、顧客の利便性を高めつつ従業員を支える。
じつはこの実証実験、セブン‐イレブンもNECも、それぞれが社内のさまざまな部署を巻き込み実現に至ったという。プロジェクトの始まりから実現、ビジネスモデルの構築、「無人」ではなく「省人」にこだわった理由まで、プロジェクトのキーマンである4人に話を聞いた。
取材:文:笹林司 写真:玉村敬太
「コンビニに行きたいけど面倒くさい」。オフィスビル内の潜在ニーズにアプローチ
HIP編集部(以下、HIP):2018年12月に、「省人型コンビニ」の実証実験店舗がオープンしましたね。どういったコンセプトの店舗でしょうか?
田澤遼氏(以下、セブン‐イレブン田澤):今回の店舗は地上26階、地下3階建てのオフィスビルの20階にオープンしました。地下1階にもセブン‐イレブンの店舗が入っているのですが、上層階から地下に行くには大混雑のエレベーターに乗る必要がありました。
「コンビニに行きたくても、時間がない、面倒くさい」。そういった上層階の購買ニーズを拾うためにオープンしたのが、20階の店舗です。ビル内の限られたスペースで営業するため、品数は厳選。また、店舗を運営しているオーナーさまが離れていても楽にメンテナンスできるよう、さまざまな技術を導入して省人化を目指しました。
4人で始まった小さな取り組みが、100人規模のプロジェクトへ
HIP:NECからセブン‐イレブンに話を持ちかけて、プロジェクトが始まったそうですね。てっきりセブン‐イレブンの発案で、導入する技術をNECに相談したのだと思いました。
田原裕司氏(以下、NEC田原):私が、セブン‐イレブンさんと一緒に取り組んでみたい、と熱望しました。きっかけは個人的な話なんですよ。もともと売店のある本社ビルで勤務していたのですが、2014年頃に別のビルへ異動したところ、そこには売店がなかった。ちょっとした食べ物や飲み物まで、外のコンビニに買いに出なければならない。これがとても不便。オフィスビル内にコンビニがあって、もっと身近で買えればいいのにと常々考えていました。
じつは、大規模なオフィスビル内に消費需要を見込む考え方は、「マイクロマーケット(小規模商圏)」と呼ばれており、当時すでにアメリカでは注目されているキーワードでした。「日本でも流行るはずなのに」という思いをずっと持ちながら2年。徐々に日本でもマイクロマーケットの存在が認知されてきた頃、当時の上司に直訴しました。結果、もといた営業から新規ビジネスを考える部署に異動となり、マイクロマーケット事業を手掛けることになったんです。
HIP:上司はどうやって口説いたのでしょうか。
NEC田原:一緒にアメリカ出張に行く機会があり、そこで実際にマイクロマーケットに対応した店舗を見学して、日本でもやってみたいという話で盛り上がったんです。NECには固いイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、社風はかなり自由なんですよ。
セブン‐イレブン田澤:NECさんとは、われわれが店舗に本格的なITシステムを導入した頃から40年以上続く長いおつき合いです。田原さんも数年前から弊社の担当として一緒にお仕事をしてきた仲で、その関係でご一緒することになりました。セブン‐イレブンもマイクロマーケットには注目しており、特別な技術を使ったものではないものの、オフィスビル内で小規模コンビニを運営していたので、ある程度のノウハウはありました。
最初は私と田原さんの二人だけで、その後に森崎さん、そして佐藤が入ってきた感じですね。最終的には他部署も含め100人規模が携わるプロジェクトになったのですが、当初はまさかそんな大ごとになるとは思っていませんでした。
セブン‐イレブン システム担当とNEC新規事業担当。全員、プロジェクトに「ワクワクした」
HIP:田原さんはプロジェクトに深く関わり、最初から最後までさまざまなことに携われたそうですが、ほかの皆さんは、それぞれ、どういった役割を担われたのでしょうか。
セブン‐イレブン田澤:私はコンセプトから制度設計まで、すべてに関わりました。もともとは店舗に出向いてオペレーションのアドバイスを行う部署にいたのですが、そこでシステムの使いにくさを実感。「だったら自分でなんとかしよう」とシステム部に異動して経験を積んだのち、このプロジェクトを任せていただくことになりました。最初に話を聞いたときに、「これは面白い仕事ができるぞ」とワクワクしたのを覚えています。
佐藤毅氏(以下、セブン‐イレブン佐藤):私は主に、オープンに向けてのタスクの洗い出しや進捗管理、発生した課題事項の取りまとめなど、プロジェクトマネジメントを行っていました。
セブン‐イレブン佐藤:「新しくて大きなプロジェクトがやりたい」とシステムエンジニアから転職してきて2年。セブン‐イレブンの仕組みはかなり完成されており、日々の業務は保守管理、他部門からの改善要望への対応に追われることになりがちですが、今回は初めてゼロからつくり上げるプロジェクトで、興奮しましたね。
森崎充敬氏(以下、NEC森崎):私は店舗の立ち上げに必要なシステムや技術を、NECのさまざまな部署にかけあって集めてきました。プロジェクトの噂を聞きつけ、参加したいと自ら志願して異動してきました。