終身雇用が曲がり角を迎えるなか、存在意義が増すビジネスコミュニティ
- HIP
- 機会の創出以外に、コミュニティの役割はあるのですか。
- 小村
- ビジネス関連のコミュニティは、セーフティーネットの役目も担っていると思います。わかりやすく言うと、ある人が起業や失業をした際に手を差し伸べてくれる存在です。
- HIP
- 起業だと、創業期の資金の調達先、従業員、顧客などの紹介といった話ですか。
- 小村
- そのとおりです。また失業の話でいうと、コミュニティを通じて新たな就職先が見つかるケースもあります。特に米国は日本より雇用が流動的で、かつレイオフ(業績悪化などに伴う解雇)なんかも珍しくないため、そうしたセーフティーネットの機能は大事にされているのではないないでしょうか。
- HIP
- 米国といえば、スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)などによるコミュニティが大きな影響力を持っている印象です。
- 小村
- はい。コミュニティが起業家を生み、育んで、そこから飛躍したスタートアップが、コミュニティをさらに発展させる。そうした好循環から、コミュニティを出発点としたエコシステム(多様な参画者が相互に協調しながら発展していく仕組み)の事例がいくつも生じています。
また、シリアルアントレプレナー(連続起業家)たちは同じ仲間と、すなわち自身が所属するコミュニティのメンバーとともに起業を繰り返すというのも、有名な話です。
- HIP
- 雇用の流動性の話が出ましたが、日本でも(流動性が)高まっていますよね。
- 小村
- そうですね。かつては、長期的に就業機会を保障する終身雇用の仕組みが、日本における「安心」のためのセーフティーネットだったのだと思います。しかしながら、その仕組みが昨今機能しなくなってきている。
だからこそ、所属する組織の枠を越えて交流できるコミュニティは、日本でも存在意義が高まっていると思うんです。
コミュニティ運営の難点が資金面。大事なのは社会に存在意義を伝えること
- HIP
- 小村さんの考える良質なビジネスコミュニティとはどのようなものでしょうか。
- 小村
- コミュニティに対する愛着やアイデンティティを持っている人がたくさんいて、熱量が保たれているコミュニティですね。それによって、Giveがどんどん積み上がっていく。特に大事なのが、参加者がどれくらい自身をそのコミュニティの一員だと認識しているのかという「アイデンティティ」の部分ですね。
どう認知してもらうか、どういうかたちで参加してもらうか、どのようにアイデンティティ形成につなげていくのか。この一連の流れをうまくデザインできていると、よいコミュニティが生まれるのだと思います。
ベンチャー・カフェ東京には「アンバサダー」という、ボランティアのかたちで運営に参加できる仕組みがあります。これも、コミュニティをデザインするうえでの工夫です。
もう1つの工夫として、2024年からは「COMMUNITY CAMPUS」という起業家教育プログラムを実施しています。学生、現役の社会人、リタイア後に新たな挑戦を始める人まであらゆる人に、これからの時代の必須素養であるアントレプレナーシップを身につけてもらうプログラムです。
第1期COMMUNITY CAMPUSの集合写真
- 小村
- いままでのベンチャー・カフェ東京のイベントでは、アクションを起こしている人に憧れつつ、受動的な参加にとどまっている人もいました。学びの場を提供することで、より能動的に参加する人を増やしたいと思っています。
あと、シンプルに「学び舎」ってコミュニティになりやすいんですよね。 - HIP
- コミュニティ運営で難しいのはどんな点ですか。
- 小村
- 資金面は課題になりがちだと思います。たとえば、ベンチャー・カフェ東京は非営利団体として企業からの協賛金で運営していますが、この協賛金集めがとても難しい。毎年、ベンチャー・カフェ東京が社会にどういう貢献をしているかをレポートで発信していますが、われわれのやっていることの価値をどう世の中に伝えるかについては、絶えず悩んでいます。
- HIP
- ベンチャーカフェ東京の展望についても聞かせてください。
- 小村
- われわれの取り組みは東京にとどまらず、茨城県つくば市で実施するTSUKUBA CONNÉCT、名古屋市が舞台のNAGOYA CONNÉCT、立命館大学大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)でのOIC CONNÉCT、岐阜市のGIFU IGNITEと各地に広がっています。2024年2月にはベンチャーカフェ福岡(福岡市)のプレローンチイベントを実施、同年8月には横浜市を舞台としたYOKOHAMA CONNÉCTのオープンを発表しました。場所は違えど、共通したビジョンで横展開しています。
誰でも、どこにいても参画できるインフラを作ることで、日本全体を盛り上げていきたい。COMMUNITY CAMPUSで学んで、Thursday Gatheringでつながって、ROCKET PITCHで共有するという「Learn、Connect、Share」のサイクルが出来上がってきました。これらを最大限に活用しつつ、日本から世界中で注目される有望なエコシステムをつくっていきたいと思います。