オフィス家具の老舗がイノベーション事業。そのキーマンに迫る
戸田裕昭(株式会社イトーキ CSW事業部 総括プロデューサー)
2017.12.18

娘のために、お金より「良い社会」を残したい。そこで会社を使ってやろうと考えた

HIP:戸田さんはCSW事業を立ち上げる以前も、新規事業で地方創生を担当していたとうかがいました。もともとは営業職として入社し、地方創生、CSW。その経緯をお聞かせ頂けますか。

戸田:営業職のときには、CSWで掲げているような「社会を良くする」なんてことは1ミリも考えていませんでした。大事なのは、いかに自分が出世して、年収を上げるか。その考えが変わったのは30歳のとき。きっかけは、娘が生まれたことでした。

自分より大切だと思える娘のためになにをしてあげられるか。それは、たくさんのお金を残してあげることではないと思うんです。お金にこれから先も価値があるかどうかわからない。彼女にとって一番役に立つことは、より良い社会を残してあげることのはず。ただ、個人では、社会を変えるのは容易ではないので、会社をうまく使ってやろうと考えたんです。ちょうどそのとき、地方営業から東京の企画部門へと異動になり、地方創生事業を手掛けることになりました。

HIP:地方創生事業は、会社からのミッションだったんですか?

戸田:いえ、これも自発的に始めたことでした。弟が学生時代に山梨で起業して、行政を巻き込みながら地域のために働いているんです。イトーキでは、地域材を活用して、その町の庁舎をつくるなどの取り組みも行っていたので、なにか仕事で一緒にできることはないかと弟に聞くと、「山梨には山が多いが、木の活用に困っている」という答えが返ってきました。

そこで、関係者と直接話をする機会をつくり、「やまなし水源地ブランド推進協議会」を立ち上げました。木材がうまく活用されていないと、林業の衰退につながり、森林の荒廃や土砂災害リスクの増加などを招きます。ですから、地域の木材を使って家具をつくり、ブランド化することで、それらの課題を解決につなげようと思ったんです。

課題を見つけて「こうあるべき」と話すだけでは、単なる評論家。行動を起こさなくては意味がない

HIP:そのときからCSWと同じように、社外の力も巻き込みながら、新しい事業を始めていたのですね。

戸田:そうですね。地域活性化は、会社としてオフィシャルにやるべき事業だと考えたので、上司に直接かけあって、地方創生担当という私一人だけの役職をつくってもらいました。そこから本格的に地方創生事業に取り組み、いろいろな地域に関わらせていただきました。各地に、その地域を良くしようと考え、奮闘している人はいたのですが、多くの場合、2つのパターンに陥ってうまくいっていなかったんです。

ひとつは、「国の補助金ありき」の考え方になっているというパターン。地域の課題を解決することだけを考え、資金は補助金でまかなうものだと思い込んでしまっているため、サービスや製品を誰が買ってくれるのか、どうすればビジネスとして続けていけるのかを考えていない。結果的に、補助金の終了とともにその取り組みも終わってしまう。せっかくの良い取り組みなのに、これはもったいないと感じていました。

もうひとつが、「リソースが足りない」というパターン。大企業を辞めたビジネスパーソンが地域活性化に携わっているケースも多くあるのですが、事業自体をうまく回すことはできても、リソースが足りずにスケール化させられない。これでは、いつまで立っても社会は良くなりません。

この2つのパターンを解消し、社会的インパクトを与える事業を実現させるためには、大企業が動くのが絶対に速い。大企業の新規事業部には、優秀な人がたくさんいます。そういう人たちが現地のプレイヤーとタッグを組めば、社会を変えられるのではないかと考え、その仕組みをイトーキがつくったのが、地方創生事業です。

HIP:一人で二度も新規事業を創出するなんて、すごい行動力ですね。

戸田:もちろん、いろいろな方々の助けがあってこそですが、行動を起こさなくては意味がないですから。課題を見つけて、あるべき姿だけを話すだけでは単なる評論家です。それはカッコ悪いですよね。そう思えるようになったのは、こっぴどく怒られた経験があったからなのですが。

HIP:会社の上司に、ということですか?

戸田:いえ、当時、総務省で地方活性化を担当していた山口祥義さん(現・佐賀県知事)です。私が山梨で協議会を立ち上げた頃に出会い、地域活性化のためにやるべきことや、地域のあるべき姿という理想論をよく話していました。そんなことが続いていたある日、「お前はいつになったら、やったことを話すんだ? 構想は聞き飽きた!」と一喝されました。そこから、まずは行動に移すようになったんです。

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