INTERVIEW
オフィス家具の老舗がイノベーション事業。そのキーマンに迫る
戸田裕昭(株式会社イトーキ CSW事業部 総括プロデューサー)

INFORMATION

2017.12.18

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1962年に日本初のスチール製の子ども用学習机をつくり、「学習机」という概念を、広く一般に普及させたイトーキ。オフィスにおいても、いまでは当たり前になった、文書の管理や、オフィスレイアウトといった概念をいち早く取り入れたことでも知られている。さらに遡れば、1902年にホッチキスを日本で初めて販売したのも、このイトーキだ。

最近では、俳優の伊勢谷友介氏が代表を務める「リバースプロジェクト」と共同で「CSW(Corporate Social Will)事業」をスタート。フットサル選手のサポートや地場産業のブランド化など、一見するとバラバラなジャンルの事業が行われているが、それらには共通して、「あるべき未来をつくる」という大きな目的があるという。

そして、この「CSW事業」をゼロから立ち上げたのが、今回登場する戸田裕昭氏。営業として入社したのち、自ら上司に新規事業の立ち上げと異動を直訴。「地方創生担当」として、地方を活性化させるビジネスを生み出した。この彼の行動力とモチベーションは、いったいどこからくるものなのか。「CSW事業」に込められた思いを聞いた。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

「社会を良くしたい」という理念を持っている会社同士が一緒にやったほうがいい

HIP編集部(以下、HIP):戸田さんが立ち上げられたCSW事業は、企業と社会のあり方を問うものだと聞きました。詳しく教えていただいてもよいでしょうか。

戸田裕昭氏(以下、戸田):CSWは、俳優の伊勢谷友介氏が代表取締役を務める「リバースプロジェクト」との共同事業です。メッセージは、「企業が社会の未来を創ることにコミットすべき」ということ。イトーキも含めて、「社会を良くしたい」という理念を掲げる企業は数多くあると思います。しかし、本当にその理念を叶えるためにビジネスをやっているかといったら、どの企業もまずは売上や利益が先になってしまう。

本来、理念の実現が企業活動の目的で、それを持続可能にするためにお金という手段が必要だったのに、手段と目的が入れ替わってしまっている。これは私の個人的な意見ですが、いま社会はどんどん悪くなっていると思うんです。そのなかで多くの企業が「社会を良くしたい」という理念を掲げた多くの企業が力を合わせてできることはないだろうかと。

株式会社イトーキ CSW事業部 総括プロデューサー 戸田裕昭氏

HIP:CSW事業は、イトーキとほかの企業がコラボレーションをして、社会を良くするビジネスを生み出す場ということですか?

戸田:さまざまな企業と連携し、社会問題を解決するアイデアを実現する事業を創出するための、共創プラットフォームと考えてください。具体的には、新規事業開発に必要となるフレームワークの提供やアドバイザーによる助言、マーケット調査、実行支援を行います。最終的には、そこで創出された製品やサービスの事業化も視野に入れ、社会課題を解決しながら、収益も得ていければと考えています。

大企業で新しいビジネスが生まれないのは、人自体が変わっていないから

HIP:新規事業開発に必要なフレームワークとは、具体的にどのようなものでしょうか?

戸田:3つのステップがあります。ステップAは人の育成。イトーキは、社外メンバーと新しいビジネスのかたちを模索、創出、実践するためのオープンスペース「SYNQA(シンカ)」を2012年にオープンしたのですが、場所をつくるだけでは新しいビジネスはなかなか生まれなかった。そこで、CSWではまず、新規事業を創出できる人を育てるための「人財育成プログラム」を開催しています。

ステップBでは、育てた人たちが描いた未来を実現するための新規事業を考えて、実行する。そして、ステップCでその事業をスケール化します。

HIP:実際に事業化するときの予算や、責任、決定権の所在は、どこに属しているのでしょうか?

戸田:新規事業を創出したい企業の担当者が、CSWに出向する、というイメージで考えるとわかりやすいかもしれません。「出向」に関しては参加企業に責任を持ってもらい、費用を捻出してもらう。そこから事業立ち上げに必要な投資を行い、CSWが一緒に事業化に向けて活動する。そして、CSWで得た成果、つまりゼロからイチにしたそのイチを持って、企業に戻ってもらうんです。

大企業で新規事業をやりたい人はたくさんいると思います。しかし、自社でゼロからイチを生み出すのは難しい。ベンチャーと組むケースも多いと思いますが、本来は自社でゼロイチをやったほうが絶対に速い。自社内でできないなら、まずはCSWでやってみればいいじゃないですか、ということです。

HIP:新規事業が成功したとき、イトーキにはどういったメリットがあるのですか? マネタイズの仕組みを教えて下さい。

戸田:会社としては3年で黒字化するよう求められているのですが、現時点ではマネタイズのことは考えられていないんです。スタートから1年が経ち、今後の課題として考えてはいますが、マネタイズありきで考えると、本当にやりたいことができなくなるでしょう。役員からも「3年あるのだから、焦る必要はない」と言ってもらっていますし、本当に価値があるものなら、結果的にお金はついてくると考えています。

現実的には、CSWを活用して生まれた事業のオフィスでは、イトーキの製品やサービスを使ってくれるかもしれません。間接的に利益を生む可能性はありますね。

理想論を語るのではなく、まず行動を起こせ。戸田氏を一変させた総務省官僚による一喝

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