日テレが本気の「eスポーツ」参戦。新たな市場のビジネスモデルとは?
小林大祐(アックスエンターテインメント株式会社 代表取締役社長)
2019.07.22

チームづくりや選手契約、マネジメント。プロチーム運営の土地勘はすでに持っていた

HIP:日本テレビならではのノウハウは、ほかにどのような場面で活かされているのですか。

小林:読売巨人軍やヴェルディに携わった経験のあるメンバーから経験談を聞きました。なかでも興味深かったのは、「トップチームがビジネスとして成功するとは限らない」という言葉です。

トップチームは選手の獲得費用や年俸なども高く、ビジネス的には赤字であることが多い。一方、利益が出るチームは、見込みのある選手にいち早く目をつけて育成し、活躍してもらう。その選手がほかのチームに移籍したら、移籍金を得られる。そして移籍金を利用して、若い選手を育成する。このサイクルを回せるチームであれば、ビジネスとして継続できると聞きました。

「AXIZ」も、スター選手を買い揃えて一気に強くするのではなく、トライ&エラーでチーム編成と育成のノウハウを身につけながら、地道に強化サイクルを回すことでトップを目指しています。

契約面でも、勧められてプロスポーツの前例を勉強しました。たとえばJリーグでは、チームと選手の契約書が標準化されており、誰でも読めるように契約書の雛形も公開されている。これらを読んで、「AXIZ」に所属する選手との契約でも参考にしました。

HIP:選手の育成やマネジメントの面ではいかがですか。

小林:eスポーツの大会は、選手とスタッフでつくるひとつのイベントであり、その中継番組でもありますから、選手のマネジメントや育成は番組づくりに通じる部分があります。試合や番組配信で人前に出るときには、何をしてはダメなのか。そのリスク防止のノウハウが活かされました。若い選手が多いので、「時間や約束を守る」「忘れ物をしない」といった社会人として当たり前のプロ意識も、あらためて教育していきました。

計画時に完璧でなくてもいいのが新規事業。大切なのは、トライ&エラーを積み上げること

HIP:新規事業を立ち上げるうえで苦労したことは何ですか。

小林:通常業務をやりながら市場調査や研究活動をしていたので、大変なことだらけでした。なかでもeスポーツは、市場やビジネスモデルを見つけるのが非常に難しい。eスポーツはそもそもビジネスとして成立しているのか。成立しているならば、その理由は何か。われわれでも再現可能なのか。これを分析したうえで、上層部やステークホルダーを説得する必要がありましたね。なかには「eスポーツはスポーツじゃない」という意見もあり、eスポーツの競技性の高さや市場の現況を説明する勉強会を開催しました。

会社を興してからも大変です。経理や法的な手続きなども自分たちでやらなければいけない。私も書類とハンコを揃え、みずから登記所に持っていきました(笑)。

ただ、些末なことでも「まずは自分たちでやってみる」マインドはつねに意識していますね。何より、自分でやれば仕組みとかかる労力がわかる。たとえば自分で登記書類を揃えることで、「行政書士に依頼しなければ、節約できるお金はいくらで、引き換えとなる時間はどれぐらいか」と理解できます。一回経験しておくことは、その後何回も行うビジネス判断に役立ちます。

新規事業の立ち上げ期において、まず優先すべきはメンバーのノウハウ習得と創意工夫で、お金による解決は最終手段です。ノウハウや工夫もなくお金を使うと、散財になってしまいますから。

HIP:実際に事業を回していくフェーズではいかがですか。

小林:プロリーグへの参戦、選手の募集、契約、マネジメント、試合やイベントの告知、配信番組の制作……すべてが初めてで、手探りでした。もちろん日本テレビ内に蓄積していた知見も活用しましたが、事例はあっても実際に動く自分たちにとっては未経験のこと。真似をしつつ、自分たちになりにアレンジしながらかたちにしていきました。

新規事業において誤解してはいけないのは、「最初から完璧さを求めてはいけない」ということ。新しいことを完璧にできる組織や人はいません。だから、まずはチャレンジすることが重要です。たとえ失敗しても、そこから学んだことを少しずつ積み上げていき、大きくなったら横に広げるというやり方も大切だと思います。

私たちもまずは『シャドウバース』というゲームの公式プロリーグに参加し、そこで得た経験を武器に、次の目標としていた『リーグ・オブ・レジェンド』に参戦。そして『ストリートファイターV』の国際プロツアー参加と、トライ&エラーで得た知見を徐々につなげて、実績にしていきました。

HIP:発足から1年が経ちました。日本テレビ内での反応はいかがですか。

小林:おおむね良好だと感じています。新規事業は「何やっているの?」と思われがちなので、社内でお披露目会などを開催し、私もみずからビラ配りをしました。「なんで社長が配っているんだ」と言われましたが(笑)、「自分たちの趣味に会社のお金を使っているだけじゃないか」と言われないためには、そのくらいしたほうがいい。

小林:収支面ではまだ赤字ですが、それも予算の範囲内で収まっています。新規事業を立ち上げて、想定どおりに進むことはほぼない。その点、事業計画どおりに展開できでいるのは良かったですね。チームが目標としていた公式リーグへの参戦も実現できましたから。

いまは「プチバブル」の真っ只中。見据えているのは、市場が成熟する未来

HIP:最後に、eスポーツ市場やアックスエンターテインメントの今後の展望を教えてください。

小林:eスポーツへの一時的な関心の高まり、すなわち「プチバブル」はいまがピークだと感じています。そしてどんな市場でも一度盛り上がったあとはバブルが弾ける。ここで浮かれて過大な投資をしたり、本来のeスポーツの実力以上のことをしようとしたりすると、世間の関心が下火になったときに苦しくなり、不本意な撤退が視野に入ります。

「派手に投資して派手に散った」という事態は避けたいですし、何より私はゲームやeスポーツの可能性を信じている。市場が成長する速度感や仕掛けるタイミングを、冷静に見据えるように心掛けています。短期投資ではなく、中長期で粘り強く事業を育てる方針で、大企業で取り組む強みを活かしていきたいのです。

地に足を着けて進むために、リーグのオーナー会議では「日テレならこういうこともできる」というアイデアを積極的に共有するようにしています。「AXIZ」の利害だけにこだわるのではなく、みんなで力をあわせてeスポーツ市場を盛り上げたい。「競合」ではなく「仲間」として、お互いに足りないところを補う姿勢を大切にしていきたいと思っています。

HIP:「市場が盛り上がっているから投資した」というわけではないのですね。

小林:私たちが見据えるのはもっと先の、いまの「eスポーツプチバブル」が弾けたあとです。鍵となるのは子どもたち。いまの子どもたちは、eスポーツ的な対戦型のゲームに慣れ親しんでいる。彼らが大人になれば、当然eスポーツのプレイヤー人口や観戦人口も増えますし、プロゲーマーとして大成する人も出てくるでしょう。そのとき初めて、日本にeスポーツという文化が定着するはずです。市場が成熟する未来のために、eスポーツの普及活動を続けていくことが大事だと思っています。

そのころには、「AXIZ」が日本を代表するチームになっていてほしいですね。ゲームの魅力は、国境を越えられるところ。日本はもちろん、世界で認知されるチームにならなくてはいけません。日本テレビとしても、ニュース番組や朝の情報番組で、スポーツコーナーと並んでeスポーツコーナーができるような未来が理想ですよね。

Profile

プロフィール

小林大祐(アックスエンターテインメント株式会社 代表取締役社長)

リクルートに新卒で入社。在職中に米国でMBAを取得し、マッキンゼー・アンド・カンパニー、グリーを経て2014年に日本テレビ放送網に入社。社長室企画部で戦略的投資や新規事業の開発支援に携わったのち、2018年6月より現職。

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