INTERVIEW
田辺三菱製薬発、新発想の生活習慣改善サポートアプリ。DXで描くヘルスケアの未来像
岩﨑聡(田辺三菱製薬株式会社 デジタルトランスフォーメーション部 PCS推進グループ長) / 木野ゆりか(田辺三菱製薬株式会社 デジタルトランスフォーメーション部 担当課長)

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2025.02.04
取材・文:中野慧 写真:加藤史人 編集:包國文朗(CINRA)

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恋愛シミュレーションゲームも参考に?TOMOCO開発の裏側

HIP
TOMOCOのお話に戻りますが、プロジェクトとしてはいつ頃スタートしたのでしょうか?
木野
プロジェクトの種になるアイデアは2015年頃に生まれ、2017年に「アプリでやっていこう」という構想が本格化しました。
HIP
医療や健康に関わる事業は、特に慎重さが求められると思います。開発にあたってどんな課題があり、それをどうクリアしていったのでしょうか。
木野

TOMOCOは医療機器に該当しないため、治療や診断を行うことはありません。そのためコンシェルジュが発する言葉の1つ1つに治療や診断にあたるものがないか、自分たちも知識をつけつつ、医師・管理栄養士の先生方の監修をいただきながら開発を進める必要がありました。

また、アプリといえども臨床研究を実施する際は、専門部署であるメディカルチーム、そしてデータサイエンスの部門など、多岐にわたる部署に連携していただきました。

岩﨑

新規事業は、当事者の熱意や関係者の好意だけではなかなか事業として継続できないものだと思うんです。特に社内連携という観点では、各部署のミッションに対し、TOMOCOの開発・推進によってどんなメリットがあるかを説明し、理解をいただくことが求められます。

また、このアプリの開発・実装が会社の方針と合致することを丁寧に説明し、協力をお願いするという手続きも欠かせないですね。

HIP
社内だけでなく、外部パートナーとの協業も不可欠だったわけですよね。
木野
外部の医師、管理栄養士の方々にも内容をしっかりと監修していただきました。また、社内にアプリ開発のノウハウはないので、制作会社に依頼する際の要件定義には苦労しました。生活習慣改善を目指すベンチャー企業である株式会社ハビタスケア(現:株式会社JMDC)さんには大変お世話になりました。
HIP
TOMOCOの特徴であるコンシェルジュも、9体もいるとビジュアルや性格などキャラクターデザインがカギになりますよね。
木野
キャラクターデザインは、ゲーム会社での経験があるデザイナーの方にお願いしました。打ち合わせの際には、「恋愛シミュレーションゲームのキャラクターのような感じで」など、イメージを明確に伝えることを心がけました。これまでの田辺三菱製薬ではあまり手がけることがなかった分野だと思いますが、だからこそ「新しさ」を打ち出すことができたように思います。

「薬がなくてもよい世界」を目指しつつ、身近な世界の「困りごと」を解消していく

HIP
今後のTOMOCOは、どんなことを目指していくのでしょうか?
岩﨑
多くの方に使っていただくなかでニーズをより正確に把握し、機能のアップデートを考えていきたいですね。もう1つ、業界の垣根を越えた横断的研究組織である日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)での活動を通じて、より多くの方に使ってもらえるような制度作りを進めていきたいです。JaDHAで進めている国際的な協業体制からもヒントをもらえればと思っています。
HIP
たとえば将来、「生活習慣病の予防がアプリによって進むと、薬が使われなくなる」という懸念はないのでしょうか。
木野

田辺三菱製薬の「患者一人ひとりに、最適な医療を届けるヘルスケアカンパニー」というビジョンに立ち戻ることが重要だと考えています。

まず、アプリなどの手段で防ぐことのできる生活習慣病は防ぐ。それでも重症化してしまった人たちや、さらに防ぎようのない遺伝性疾患などの難病を患ってしまった方々に向けて、薬をお届けしていくことが重要だと考えています。

岩﨑
「薬がなくてもよい世界」の実現は、実際にはまだイメージできないのが現状です。木野が言うような、重症患者や難病患者に対してのソリューションがまだまだ十分ではありません。その意味で、製薬会社にはやれることがたくさんあります。
HIP
木野さんは近々転職なさり、キャリアを次のステージに進めるとうかがっていますが、これからどんなことに取り組んでみたいですか。
木野

今後も引き続きヘルスケア分野での新規事業に取り組んでいく予定です。今回、田辺三菱製薬からもポジティブなかたちで送り出していただけることになりましたので、この会社で経験したことをさらに発展させて生かしていきたいです。

いまの私自身としては、子育てをしながら仕事をしつつ、組合活動やPTA活動にも参加しているという状況なのですが、それぞれの環境で出会う方々の困りごとは共通していたりするわけです。そういった意味でも、職場や家庭など、さまざまな環境でのお父さんお母さんのヘルスケアの困りごとを解決できる事業をやっていきたいですね。

HIP
DX部としての今後の展望やビジョンについて、岩﨑さんはどう考えていらっしゃいますか。
岩﨑

木野の言っていることには私も同感で、DX部としてもまずはデジタルの力を使って「会社のなかで起こっている困りごと」を解決することから進めていければと考えています。デジタルを活用してさまざまな仕組みを自動化することで、「人がやらなくていいことをやらなくて済む」ようにしたいですね。

多様なテクノロジーが普及している現在、それらを自然に使ってもらえる環境を整備していきたいと思います。そのような環境から新規事業のアイデアも生まれてくるはずだと思っています。

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プロフィール

岩﨑聡(田辺三菱製薬株式会社 デジタルトランスフォーメーション部 PCS推進グループ長)

1998年、三菱化学医薬部門(現・田辺三菱製薬)入社。14年間の薬理研究、アメリカでの6年間のデジタルヘルスケア戦略部門などを経て、現職。業界の垣根を越えた横断的研究組織「日本デジタルヘルス・アライアンス」特命副会長を兼任。

木野ゆりか(田辺三菱製薬株式会社 デジタルトランスフォーメーション部 担当課長)

2006年、田辺三菱製薬入社。創薬研究に従事したのち、2018年、フューチャーデザイン部(現・DX部)に異動。ソーシャルイノベーションフォーラム2018では企業・官公庁混合のチーム「クスリナクス」としてソーシャルイノベーターに選出。2025年に会社を移り、ヘルスケア関連の新規事業に従事する予定。

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