大事なことは、自分たちの手で正しいものを正しい形でしっかりと伝えること。
HIP:丸さんにお話した内容は、具体的にどのようなビジネスモデルに落とし込まれていったのでしょうか。
福田:個々人の便の分析から腸内環境の状態を知り、その人の腸内環境に合う適切なソリューションを提案する事業です。日本には、腸内環境を改善するとされる食品やサプリメントがたくさんあります。メタジェンでは、それらの商品が実際に人の腸内でどのように作用しているのかを徹底的に調べる独自技術、メタボロゲノミクス®を有しています。
ある食品やサプリメントを摂取した人の便を分析して腸内環境の変化を知ることで、販売した企業側にとっては、自社の商品がポジティブな作用をもたらすことを裏付けでき、さらにはその商品の新たな効用が見つかるかもしれないというメリットがあります。また、どういった腸内環境の人に効果がなかったのかも分析し、それらの人に対する新商品開発につなげることもできます。
HIP:企業から商品の分析を頼まれて、どのように作用するかを調べるということですか?
福田:一見そういったやり方に思われがちなのですが、いわゆる受託分析サービスとはまったく異なります。メタジェンでは将来、エビデンスベースの食習慣改善アドバイスを提供することを目指しています。その基盤となる腸内環境情報を取得するため、個々の企業が有する商品がヒト腸内環境へ与える効果を分析しているんです。
HIP:どういうことでしょう?
福田:例えば、ある商品を摂取したときのヒト内環境情報を取得し、それを商品ごとに集めていってデータベースを構築します。そうすることで、そのデータをもとに個々人によって異なる腸内環境それぞれに最適な商品を提案することが可能になると考えています。さらに、提案した商品を食べてもらったのちに再度便を分析すれば、提案した商品が実際にその人の腸内環境改善に役立ったかどうかを評価することができます。
大事なことは、エビデンス(証拠・根拠)に基づいて、自分たちの手で、正しいものを正しい形でしっかりと伝えること。これを繰り返すことで、より多くの人々の腸内環境を最適化することができる。これがメタジェンの「腸内デザイン戦略」です。
病気にならずに楽しい人生を送る。それがメタジェンの目指す未来
HIP:2016年度に製薬企業や食品企業、乳製品企業など、大手企業19社が参加する「腸内デザイン応援プロジェクト」が発足したそうですが、これら大企業と仕事をしていて、福田さんのなかで変化したことはありますか。
福田:大企業に限らずですが、起業をして良かったと思うことは、会社の代表という立場になり各企業の社長さまと直接会える機会が増えたことです。社長同士であれば、話がすぐに決まることもあります。トップダウンで決まったことは、動きも速い。私たちが本当にやりたい、実現したい未来に対して最短路線で突き進める。
HIP:経営者としての視点は、研究にも活かされていますか?
福田:これまでは自らの興味を軸に「これはどうかな」「あれはどうかな」と研究を進めていましたが、経営という視点が入ることで、やらないことを決めるようになりました。本当に大切なことを見極めて、力を注ぐ重要さを学びましたね。
HIP:「やらないこと」を見極める基準とはどのようなものでしょう?
福田:現在の私の視点では、社会にとって役に立つかどうか、そして実用化できるかどうか、です。私は究極的には「健康を意識しない健康社会」を実現したいと考えています。
HIP:意識しない……ですか?
福田:健康は若いうちから意識したほうが病気のリスクは低くなると思いますが、高校生に「健康に気をつけましょう」と言ってもほとんど誰も気にしないでしょう。でも例えば高校生の頃、学校帰りにコンビニに立ち寄ってポテトチップスを買った経験はありませんか? ポテトチップスの原料となるじゃがいもには、デンプンがたくさん含まれている。じゃがいものデンプンの一部を腸内細菌の餌になる難消化性デンプンに置き換えてポテトチップスをつくるとします。それがコンビニに並んでいれば、本人は健康になろうなんて思わなくても、自然と腸内環境が整えられる。
HIP:なるほど、「意識しない」とは、健康に気をつかわない社会ではなく、そもそも「健康に気をつかう必要がなくなる」ということなんですね。
福田:はい。そんな未来をつくっていきたいですね。そして人は健康になれば、やりたいことがたくさん出てくる。キーワードは「長寿ハピネス」です。病気にならないうえに、楽しい人生を送る。それがメタジェンの目指す未来です。