すべての失敗を学びに変える。だから、失敗という概念はない
HIP:イノベーションを生み出すためのルールはあるのでしょうか?
宇野:2030年に「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニー」になるのが会社の目標ですので、「イノベーションラボ」もそこを目指したものでありたい。とはいえ「次世代ヘルスケア」の範囲は幅広いので、アイデアの時点で否定することはしません。「本当にその課題で困っている人がいるのか」「本当にその課題を解決できるのか」というお客さま視点にこだわるデザイン思考が基本です。
宇野:組織づくりでは、フラットな関係性を保つようにしています。ぼくを「所長」と呼ぶのも禁止です(笑)。プロジェクトのリーダーも年次で決めるのではなく、手を挙げた人間が責任を持ち、メンバーを集めます。つねに複数のプロジェクトが並列で動いており、兼任しているメンバーもいますよ。現在は数十個のプロジェクトが進行しています。
HIP:挑戦を重ねる組織だからこそ、失敗も生まれてしまうと思います。メンバーやプロジェクトの失敗に対して、宇野さんはどのように向き合っていますか?
宇野:ぼくらのビジョンであり行動指針は、「新たな学びを得る経験として、失敗を尊重する」こと。なので、どんどん失敗していいんです。そこから得た学びを大切にして、つぎに活かす文化を根づかせたいと思っています。
そのためには、失敗を失敗と呼ばないことが大事ではないでしょうか。気持ちの問題ではありますが、たとえば「失敗」ではなく「方向転換」と言ったほうが、そこまでで得られた成果をラボ内で共有しやすいですよね。
HIP:そもそも失敗という概念がない、と。
宇野:そうですね。「市場がないからこっちの市場に変更する」「お客さまの求めているものが違ったからやり方を変える」という結果は、一発勝負なら「失敗」ですが、ここでは「つぎへの学び」ということにしてしまう。みんな、諦めは悪いです(笑)。
HIP:「失敗してもいい」となると、メンバーを評価する判断基準がつくりづらいのでは?
宇野:評価基準はシンプルですよ。社内ベンチャーですので、ここでは「起業家たる能力」を評価します。たとえば「チャレンジを何回繰り返したか」とか「どれだけのスピードでプロジェクトを回せているのか」などですね。進捗や成果をぼくにアピールすることも大事です。起業家として事業を立ち上げるつもりなら、投資家に対して自分のプロジェクトをアピールすることくらいは、当然やるべきですから。
デニムのユニフォームも、「見えない枷」を取り外すための第一歩
HIP:ラボの設立から約1年半が経ちましたが、ほかの部署からはどのように見られているのでしょうか?
宇野:最初は、「何をやっているのかわからない」と言われていましたね(笑)。
石田:そうですね。でもいまは、だんだん認められてきていると感じています。
宇野:「イノベーションラボ」のメンバーだけでなく、新しいことにチャレンジしたい社員は各部署にいます。そういった人から、「一緒にやりませんか」と声をかけられる事例も出てきました。まさに、ハブとしての役割が生まれつつあります。
社内での認知という意味では、ユニフォームも大きかったですね。研究職といえば白衣ですが、「イノベーションラボ」は、デニム地で青色にしました。仕上がった日、全員で着用して朝礼に出たら、ものすごく目立ちました(笑)。
宇野:もちろん、ただ目立つだけではありません。「いままでにないことをやろう」と言っても、メンバーは「本当にライオンでこんなことをしてもいいの?」と、「見えない枷」に縛られている部分もある。その枷をはずすためにも、このユニフォームは有効だと思っています。
「イノベーションラボ」に所属しても、白衣を着たままだと、意識が前と変わらない。自由な服装とデニム地のユニフォーム、かたちから入ることで意識は変わります。周りも「ちょっと変わった新しいコトをする集団」として見てくれるようになりますし。
ライオン自体がイノベーティブな会社になれば、ラボの役割も終了
HIP:最後に石田さんは『リペロ』について、宇野さんは「イノベーションラボ」について、これからの展望を教えてください。
石田:『リペロ』はBtoBでのサービスが実証実験として始まったばかりですので、まずはお客さまとの対話を重ねてサービスをブラッシュアップし、事業化することが目標です。
いまはアプリだけですが、いずれは付帯サービスやオプションも加えて、お客さまの業種にあわせたサービスを提供していきたいですね。将来的には、『リペロ』で得られた知見を活かし、オーラルケアに限らず、ヘルスケア全体の新規事業を生み出せるようしたいです。
宇野:1年半で、アイデアを生み出せる体制は整いつつあります。社内からは多様性のあるメンバーも集まり、外部の会社とのつながりも構築できました。
今後は、アイデアから生まれたプロジェクトの新陳代謝を活性化させて、スピード感を上げていきたいですね。ですが、実際にプロジェクトを進めるのはメンバーなので、ぼくがトップダウンでやり方を決めるのは違う。新陳代謝を活性化させる方法についても、プロジェクトをつくってみんなで考えていこうと思っています。
もちろん、最終的な目標は、ライオン全体をイノベーティブな会社にすること。それが達成されたときは、「イノベーションラボ」も必要なくなるでしょう(笑)。