来たるスーパーシティの時代に。街を衛るサービス「town」が描く未来とは
又江原恭彦(株式会社ラック 新規事業開発部長)
2020.08.25

「インフラをやる覚悟はあるか」。新役員からの言葉が推進力に

HIP:長いスパンの事業構想とのことなので、長期にわたり事業を続けるためのビジネスモデルをつくるのが難しそうですね。

又江原:そうですね。ただ、社風的にまず、ビジネスモデルよりもビジョンが優先されるのです。いまでこそ中核となっているセキュリティ事業も1995年にはじまり、10年間は赤字でしたから。ラックは企業規模が大きくなったいまでも、いまも「社員2,000人400億円のベンチャー企業」という気概でやっています。

HIP:今回の「town」もビジョンからということですね。

HIP:はい。そのため、はじめはビジネスモデルのことはあまり考えていませんでした。私も含め、セキュリティーに携わるエンジニアは、自分のことをどこかで正義の味方でありたい思っている。まずはビジョンを実現できるプランの具体化の実行を優先し、最終的なビジネスモデルはあとで考えることにしています(笑)。

又江原:ありがたいことに、新規事業開発部が立ち上がった際、異分野から新たにラックの取締役に就任した川本の助言や指摘は、私のなかで非常に大きな影響がありました。彼からビジネスモデルの仮説をはじめとして、構想のブラッシュアップにつながる指摘がたくさん入りました。「『town』の発表までに最も大変だったことは何か」と聞かれたら、それらの指摘をクリアし、何よりも自身が納得することだったかもしれません。

HIP:具体的には、どのような指摘があったのでしょうか。

又江原:川本自身もエネルギー事業に携わっていた経験があるので、「town」が長期視点に立ったビジネスであることは理解してくれていました。そのうえで、長期的なビジネスを手がける上での「現実」を問われましたね。

私は、「town」を「電気・ガス・水道というインフラのような存在に育てたい」と考えているのですが、川本からは「インフラは甘くないよ」と。アイデアレベルでインフラと口にした私に、「20年、30年先、自分が引退したあと、いまの20代が事業を継続できるかどうかを考えているのか」とか「もしラックが倒産したり買収されたりしても『town』を持続させて社会に対する責任をまっとうする算段はあるのか」などと問われました。この問いを飲み込んで自分なりに答えを出し、覚悟を決めるまでに1年もかかりましたよ。

川本の指摘は否定ではなく、真摯に事業に向き合った考えでした。これまでのラックにはない中長期な視点で、本当にありがたかったです。

HIP:自分とは違う意見を受け入れて答えを見つけるのは、事業のブラッシュアップには重要なことですね。

又江原:正直、社内からはほかにも反対意見がありました。なかには、感情論に近いものも。ただ、それも含めて反対意見は大歓迎。どんな反対意見でも、何かしらの理由はあります。その視点を知ることは勉強になるし意味がありますから。

新規事業は若手育成の場。ラックに受け継がれるエンジニア哲学とは

HIP:新規事業開発部のメンバーは何人いらっしゃるのですか。

又江原:10人で、ほぼ全員がエンジニアです。社内でも変わり者扱いをされていて、既存の部署に収まりきらないようなエッジの立った人間ばかり。だからこそ、新しい事業へのチャレンジには、ぴったりの人材でした。それこそ、「town」の未来を担える中堅・新人も社内には多数いますよ。

HIP:今年ははじめての公募でメンバー募集もされるそうですね。

又江原:そうですね。条件は若手であることです。私たちがセキュリティ事業をはじめたときは、競合もおらず、お手本もなかった。まさにゼロからのチャレンジでした。当然、失敗もたくさんしたけれど、振り返ると、その苦労のお陰で、事業に対する当事者意識がつきましたよ。

又江原:いまは会社の規模も大きくなり、セキュリティ事業では一定の評価をいただいています。しかし、その分、若手がゼロからチャレンジする機会も減っている気がするんです。今回のプロジェクトは、まさにゼロからの挑戦かつ長期の事業。自分で考え開発して、そして失敗して見直す。こういった経験を何十年にもわたるプロジェクトを遂行することで積んでほしいと思っています。

HIP:今回、大企業で事業改革や新規事業創出をミッションに掲げる組織が入居するインキュベーションセンター「ARCH」にもオフィスを構えました。どういった目的があるのか聞かせてください。

又江原:一番の目的は、外部との交流です。私が社会人人生で最初に部長職になったのは29歳のときでした。「部長とは」みたいな教育も受けたことは無かったですし、成長のために、否応なしに外に出ていました。しかし、会社の規模が大きくなるにつれ、社外の意見を聞く機会、自ら飛び出す機会が減ってきたことを危惧しています。特に、若手や中堅が内にこもって、社内の会議対応等に時間を取られていると感じ、強い問題意識を持っています。

同僚や業界からの反発を恐れずに言いますと、セキュリティ事業に関わっていると、業界全体的に、なんだか偉そうになってしまうんです。かなり専門的な分野なので、経験のない相手に対してマウンティングをしてしまう傾向があるのです。会社の規模が大きくなり、それなりに評価を得るようになったことも関係しているのではないでしょうか。まったく異なる業種・業界にも高いレベルで仕事をしている人たちが大勢いることを認識しないと、エンジニアとしてはレベルが落ちていくばかりです。

とはいえ、急に「外に出ろ」と言っても、すぐには難しいでしょう。だったら、外部と交流しやすい環境を整えてやればいい。そう考えて、「ARCH」への入居を決めました。今後公募で集まる若手は「ARCH」に配置しようと考えています。エンジニアはパソコンのモニターに向き合いがちですが、まずは人と向き合ってほしいですね。

医療機関と連携し、健康診断サービスも。多角的に人々の「安心」をつくっていく

HIP:最後に、新規事業開発部として「town」をどのように推進していくのか教えてください。

又江原:共創・協業が加速すると思います。スマートシティの実現には、地域自治体や事業者との共創は不可欠です。われわれは、IoT機器から得られるデータの分析に特化しますが、最終ゴールである「街の安全」の実現には地図情報や天候情報や、各団体が保有しているデータ、地域の事情も加味しなくてはいけません。

さらに事業が進めば、センサー自体の開発・製造も視野に入れるかもしれません。先ほど積雪センサーが足りていない話をしましたが、いろいろな分野においてIoT機器は未整備です。データ収集に必要なIoT機器製作の技術を保有する日本の「モノづくり」のスタートアップ企業を発掘し、共創・協業することはあるでしょうね。

HIP:「town」以外でも推進している事業はありますか?

又江原:PHR(Personal Health Record)の分野です。人間ドックや通院などによる健康や医療の情報、いわゆる「健診」データを収集・管理し、医療機関同士で共有する仕組みです。われわれが考えているのは、ご本人の同意のもと、データを複数の医療機関や関連サービスと連携し、健康状態を持続的に利用者本人が把握でき、万が一の受診の際にも、医療関係者に効果的な情報が提供できるサービス。

じつは健康診断の結果というのは、病院によって少しずつ変わるんですよ。そこで、多角的な視点から検証された信頼度の高い結果をユーザーに提供できたらと考えています。ここに普段の食事や運動習慣などの情報も統合されれば、病気の可能性やその予防にも活用できるはず。これを事業のひとつに育ててきたいですね。

HIP:医療機関との連携というテーマであれば、ゆくゆくは、「town」とも連携してきそうですね。

又江原:そうですね。ラックはこれまで、それこそ企業がホームページも持たないような時代から、「セキュリティーサービス」の社会的必要性を感じシステムをつくってきました。この「社会に必要とされるものをつくりたい」という思いは変わりません。だからこそ、インターネットが普及したこれからの時代は、街に住む人たちを偶発的・突発的な脅威から守りたい。そんな「セーフティーサービス」を提供する事業を目指していきます。

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又江原恭彦(株式会社ラック 新規事業開発部長)

1997年株式会社ラック入社。エンジニアとしてセキュリティ診断や、セキュアなインフラシステム構築、緊急対応に従事後、社内外において各種セキュリティサービス企画開発と立上げ等に関わる。2016年よりセキュリティーコンサルティング部門を担当し、2018年より新規事業開発部門を担当、現在に至る。

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