INTERVIEW
世界に1本のワインを創る。キッコーマンの新規事業は「3分45秒」が決め手
禰冝田英司(キッコーマン株式会社 経営企画部) / 加嶋雄一郎(キッコーマン株式会社 経営企画部 副参事)

INFORMATION

2019.08.22

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専任でないと無理だった。右も左もわからない状態で着手した仕事は?

禰冝田:しかしながら、結果的には専任にしてもらえてよかったです。というより、専任でないと事業化は絶対に無理だった。アイデアがあっても、「本業」の忙しさを前にいつの間にかフェードアウトしてしまうというのは、当社に限らず「新規事業あるある」ですよね。本気で新規事業をかたちにするなら、どこかで切り離して専任にしないと、ローンチまではとてもたどり着けないと思います。

加嶋:「WINE BLEND PALETTE」は、事業として切り出しやすかった点も魅力ですね。サービスの方向性が明確でしたし、「マンズワイン」のノウハウや設備などのリソースを活用することができますから。

HIP:新規事業の経験がないなか、たった一人でアイデアをかたちにするという大仕事です。プレッシャーもあったのではないでしょうか?

禰冝田:右も左もわからない海の真ん中に、一人放り込まれたような感覚でした(笑)。何から始めたらよいかわからないなかで、最初に取りかかったのはワークショップのテスト開催です。「アッサンブラージュで自由にワインを創る」ということを本当に楽しんでいただけるのかを、まずは確かめてみようと。

異動してすぐに取り掛かり、2か月後には初めてワークショップを開催しました。小規模なものでしたが、参加者の方々は「自分でワインを創りあげる」ことに熱中し、ものすごく楽しんでくださいました。早い段階で、「自由にワインを創る、新しい楽しみ方」というサービスの根幹部分を受け入れてもらえる手ごたえや確信が持てたのは大きかったですね。事業化を進めていくうえで、心の拠りどころになりました。

実際にアッサンブラージュを行い、味わいのさまざまな変化や、自身でワインを創りあげる楽しさを体験できるワークショップも定期的に開催されている(画像提供:キッコーマン)

社内でスムーズに協力が得られたのは、経営陣の覚悟が行き届いていたから

HIP:事業化を推し進めるうえでは、関連部署の協力も不可欠だったかと思います。社内の反応はいかがでしたか?

禰冝田:想像されるような「老舗企業ならでは」の苦労や反対意見はありませんでしたね。「K-VIP」は2010年からスタートし、社内にも広く浸透していたので、ありがたいことに各所でスムーズに受け入れてもらうことができました。

半期に一度行われる社員向けの経営報告会でも、「K-VIP」や私の取り組みをトップから発信してくれていたので、初めて会う方にも協力を求めやすかったです。

HIP:協力的だったとはいえ、ほかに本業を持つ従業員の協力を得るのは大変だったのでは?

禰冝田:そうですね。私は専任ですが、ご協力いただく方々には本業があるわけです。相談に乗ってくださった社内の方々には、本当に感謝しています。彼らの協力がなかったら、事業化は絶対に叶わなかったですから。

相談させていただく方々には、最初に数分だけお時間をいただき、ピッチをさせてもらいました。事業計画を説明するのではなく、まずは「1本単位で自分だけのワインをつくれたら、すごく楽しいと思いませんか?」と、お客さまにとってどのような新しい価値・楽しみを提供するのかを共有しました。それから「そのために、この点をご相談したいんです」とお話しし、ご理解いただきました。

会社にとっての価値を理詰めでお願いしても、本業で忙しい方には「そうはいっても……」と思われてしまうかもしれません。まずはどのような新しい楽しみを提供できるか、といったお客さまにとっての価値をお話しさせていただきました。

加嶋:禰冝田は、周囲を巻き込むのが本当に上手なんですよ。実際、体当たりで関係者を口説き落として、どんどん事業を前に進めていった。先ほど「一人で海に放り込まれた」と言っていましたが、会社としては「禰冝田なら自力で泳いで帰ってこられる」という判断もありました。

加嶋:企画が採択された理由もそこにあるのではないでしょうか。アイデアが優れていたことだけでなく、熱意や実行力、巻き込み力、折れない気持ちなど、起業家としてあるべき素養を備えていた。経営層も、アイデアと素質の双方で判断したのだと思います。

禰冝田:そう言ってもらえるのはありがたいです。ただ、順調に泳いでいるように見えて、じつは何度も溺れかけたりしているんですけどね(笑)。

新規事業が実を結んだ背景に、100年以上続く「挑戦」の歴史

HIP:これまでのお話から、経営層も「K-VIP」や新規事業に対して意欲的であることがうかがえます。キッコーマンは、2018年に打ち出した長期ビジョン「グローバルビジョン2030」でも「新しい価値創造への挑戦」を掲げていますね。

加嶋:意外かもしれませんが、「挑戦」はつねにキッコーマンのテーマであるといっても過言ではありません。もともとは江戸時代に野田で始めたしょうゆ製造ですが、市場を国内全体に広げたのもひとつの挑戦。さらにワインやトマトケチャップ、豆乳など国内における事業の多角化、さらに海外展開と、100年以上の歴史のなかで、何度も大きな挑戦を重ねてきました。

トップが変わっても、「挑戦」というメッセージはいつも社内に共有されている。社員も、心のどこかでつねに「挑戦しなければ」という意識を持っていると思います。

HIP:今後はどのような「挑戦」をしていくのでしょうか?

加嶋:「グローバルビジョン2030」で打ち出した目標を実現するためには、より一層イノベーティブな企業になる必要があります。各事業会社で革新的な取り組みをしていくことはもちろん、やはり「K-VIP」のような取り組みも必要であると思います。

じつは「WINE BLEND PALETTE」以外にも第3回で採択された企画があり、水面下で検証や準備を進めています。社長の堀切みずから「今後も続けていく」と明言していますし、経営企画部としても「WINE BLEND PALETTE」に続く新規事業をサポートしていきたいと考えています。

HIP:禰冝田さんは、今後「WINE BLEND PALETTE」をどのようなサービスに育てていきたいと考えていますか?

禰冝田:自分で創ったワインには、それを楽しむ場を、より特別にする力があると思います。それによって新しいコミュニケーションを生んだり、人と人をつないだりすることもできると思っています。たとえば、地域のコミュニティなどで創ったワインを住民みんなで楽しむことで、いままでにない交流が生まれる、といったこともあるのではないでしょうか。今後は、そうした「特別な時間を創り出す」ツールとして使っていただけるような仕掛けを考えていきたいです。

Profile

プロフィール

禰冝田英司(キッコーマン株式会社 経営企画部)

1998年、キッコーマン株式会社に入社。営業、商品企画、営業企画、販促企画などを担当したのち、社内ベンチャー制度「K-VIP」への応募をきっかけに2017年5月より現職。「WINE BLEND PALETTE」事業のリーダーを務める。

加嶋雄一郎(キッコーマン株式会社 経営企画部 副参事)

1996年、キッコーマン株式会社に入社。営業、営業企画、経営トップの政策秘書業務を務めたのち、2012年12月より現職。

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