若きリーダーを支える秘訣は「余計な口出しをしない」こと
HIP:「澤田経営道場」の道場生には2年間のカリキュラムが用意され、寮や研修・活動資金も支給されます。沖杉さんも選考を通過後、H.I.S.の業務を離れ、道場での学びに専念することになったのですね。
沖杉:はい。最初の半年は、朝の9時から17時まで毎日座学を受け、経営の基礎を学びました。その後は実地研修です。私の場合はハウステンボスの土産物屋に店長として就任し、座学で学んだランチェスター戦略などのメソッドを活かしながら、経営やマネジメントを実習しました。
HIP:徹底的に経営を学んだなかで、リーダーにはどんな資質が必要だと感じましたか?
沖杉:いちばんは「あきらめず、やり続けること」ではないでしょうか。澤田からも繰り返し教えられた言葉です。月並みに感じられるかもしれませんが、道場を卒業し、実際に事業を興したいまは、その言葉の重みがわかります。
「No Food Loss」をリリースする前、最初に立ち上げたサービスがあまりうまく進まず、悩んだ時期もありました。それでも澤田の言葉を思い出し、「食で世の中を変える」という志だけは持ち続けていようと誓ったのです。
その頃、赤尾が相談に乗ってくれたことも心強かったですね。道筋を照らしてくれるような存在でした。
HIP:どのようなヒントをもらったのですか?
沖杉:ひとりで取り組んでいると、考えすぎて視野が狭くなり「いま、これをやるべき」という簡単な答えにたどり着けなくなってしまうんです。そんなとき、俯瞰した視点から簡潔なアドバイスをもらえたのはありがたかったです。じつはコンビニに協力を仰ぐというアイデアも「食の社会解決を解決するなら、やっぱり食品ロスが深刻なコンビニだろう」という赤尾との会話がヒントになりましたし、精神的にも、心をぐっと前に押してもらいました。
HIP:赤尾さんは当時、沖杉さんが悩んでいることに気づいていたのですか?
赤尾:そうですね。起業したいまも同じオフィスで仕事をしていますし、私とは席が近かったこともあって、積極的に声をかけるようにしていました。事業がうまくいっているかどうかは、会話や表情、電話の声などでわかるものなんですよ。それに、何といっても1期生ですし、始めたのであれば必ず成功してほしいと願っていましたから。
ただ、もともと部下だったとはいえ、いまの沖杉は経営者という立場。そのプライドは大切にしてあげないといけません。基本的には余計な口出しをせず、求められたことに応えるというスタンスを保っています。経営者は計り知れないプレッシャーを背負って事業に挑んでいるわけですから、そのプライドを絶対に侵害してはいけないな、と。
「やりがいを持って挑戦してほしい」。澤田氏がみずから体現してきたメッセージ
HIP:沖杉さんを筆頭に、すでにリーダーとしてビジネスの大海に乗り出し始めている卒業生も多いかと思います。「澤田経営道場」の存在は、H.I.S.自体にも影響を与えていますか?
赤尾:設立以来、新規事業に対する社内の機運が高まってきていると感じます。特に最近は、1期生、2期生のビジネスがメディアで紹介されたり、立ち上げ時に記者会見を行ったりするまでに成長しました。澤田自身も道場をきっかけに新たな事業が生まれていることを評価していますし、社内の認知も上がっています。
それらを30代の若手が仕掛けているとあって、同世代の社員には特に刺激になっているのではないでしょうか。
HIP:H.I.Sは今後の事業展開について、エネルギーや金融といったチャレンジ領域の推進も掲げていますね。
赤尾:既存の事業で長く収益を得てきた大企業には、新規事業を生み出す土壌がなかなか育っていないのではないでしょうか。H.I.S.も、まったくの例外ではないと思います。
ですが、弊社の場合は澤田自身がこれまでにもさまざまな事業に挑戦してきましたし、役員会や朝礼などの場でも、つねに「やりがいを持って新しいことに挑戦してほしい」というメッセージを発してきた。ほかでもない澤田自身が体現してきたことなので、この流れは誰にもさえぎれません。
赤尾:大企業のなかには過去の成功体験に頼り、ひとつの事業に固執した結果、つまずいてしまった例もあります。澤田にもまた「旅行事業だけに頼っていてはいけない」という危機感があるのでしょう。それが社員たちにも浸透していると思います。
私自身、チャレンジングな新規事業がいろいろなところから立ち上がっていくことを期待していますし、挑戦する社員を応援していきたいですね。
まずは事業を軌道に乗せる。「世界平和」実現に向けて、挑戦は続く
HIP:最後に、沖杉さんから「No Food Loss」の今後の展望をうかがえますか。
沖杉: 当面の目標としては、再来年までに「No Food Loss」を通じて100万食を販売したいと考えています。100万食に到達すれば、10万食分を海外の子どもたちの給食費として寄付することができるので、まずはそこを目指しています。
また、提携先の店舗も増やしていきたいです。仮に全国のコンビニ5万店舗で導入できれば、年間1000万食を寄付に回すことができるんですよ。大きな目標に向けて、組織や仕組みづくり、システムの改修を進めているところです。
HIP:会社自体の展望はいかがですか。
沖杉:まずは「No Food Loss」事業をしっかりと軌道に乗せなければならない。それが実現できれば、H.I.S.の企業理念である「世界平和」にもつながるでしょう。
現在のみなとく株式会社はH.I.S.の関連会社という位置づけで出資を受けていますが、「H.I.S.グループであること」にあぐらをかくつもりはありません。まずは事業を大きくし、広げていくこと。いまはそれしか考えていないです。将来的には別の企業から出資を受ける可能性もありますし、別の企業と組んだほうがH.I.S.にとってもユーザーさまにとってもメリットが大きいと判断すれば、その選択肢も視野に入れています。