杉浦太一(CINRA)×谷川佳(OWNERS) インターネットを通じて、「食」の生産者を支えるしくみ
次に登壇したのが、トップバッターに登場した児玉氏とともにHIPを運営している、株式会社CINRA代表・杉浦太一氏。CINRAは音楽・アート・デザイン・映画・演劇のニュースを届けるカルチャーサイト「CINRA.NET」や、アジアを統括するシティガイド「HereNow(ヒアナウ)」といった自社メディアを展開し、カルチャーや旅の力を使って、世界中の人たちに幸せのきっかけを届けることをビジョンに掲げている。
そんな杉浦氏が招いた人は、全国の農家と消費者をつなぐ ウェブプラットフォーム「OWNERS」を展開する株式会社エル・エス・ピーの谷川佳氏だ。地方創生の機運が高まるなかで、民間の個人の情熱から一つの解決策をかたちにしている稀有な事例として杉浦氏は紹介した。
「OWNERS」は「食」を軸に、農業、水産、そして加工品のオーナーになれるというしくみを用いて生産者と消費者を直接つなげるサービスだ。産地や生産者のこだわりをストーリーで紹介し、食材のオーナーになることができる「プラン」をウェブサイトに掲載している。OWNERSでは、単に商品を買うだけではなく、関係までを届けることをコンセプトにしている。
新卒で入社した会社で、地域活性のPRや企画に従事していたという谷川氏は「PRや企画は、単発のイベントだけで終わることも多く、生産者と都市部の生活者との経済活動にまで発展せず、もったいないことが多かった」と語る。しかし、ブランド食材ではなくても、生産している人や産地の魅力を伝えることで共感してもらえるのではないかと思い立ち、そうしたことを個人の生産者でも参加できる仕組みとして構想したのがこのOWNERS。現在は、サービスを開始してから1年が経過している。
杉浦:サイトで私たちが選択できるプランの一つひとつに、産地や農家の方々のストーリーが紹介されていて、これがOWNERSのコンテンツにもなっていると思います。このプランは、谷川さんが実際に生産者の人たちを訪ねているんですか?
谷川:立ち上げ当初は、自宅で一人で作っていました。そのときは気になった農家さんや、「この人すごいよ」とか「この地域の人とつながればやりたいことができるよ」という方を人づてに紹介していただいて、とにかく営業を行いました。場合によっては現地に行って、「こういうことを考えています」と企画書を携えて説明を繰り返していましたね。それでも、多くの生産者の方にインターネットには抵抗感が根強くあって、インターネットの「イ」と言っただけで断られてしまうことも多く、最初はかなり敷居の高さを感じました。
たとえば、青森県平川市のりんご生産者が提供するプランがある。1年の最初に代金を支払うことにより、季節に応じて、複数の品種のリンゴが年4回に分けて届く。それも市場ではなかなか買うことができない、生産者が一番納得のいくリンゴが届けられるのだという。各プランには「コミュニケーションぺージ」という生産者と交流できるフォームが用意されており、例えば「リンゴの花が咲きました」といった小さな報告を含めたプロセスも楽しむことができるのだとか。
杉浦:ほんといい仕組みですよね。ちなみに、ビジネスモデルとしてもうまく回っているんですか?
谷川:クラウドファンディングと同じく、売上に対しての手数料というモデルで現在は成り立っています。供給面のボリュームが各プランでまだまだ小さいので、ビジネス的にこの1年間は正直しんどかったです。今後は個人の農家ではなく、産地全体が都市と面で結ばれるためのしくみを考えています。2年目に関しては、OWNERSという価値づくりの1年を経て、本格的な事業展開の方向性が見えてきています。
杉浦:「全国の農家さんを応援する」というビジョンは、きっとみんなが受け入れやすいものですよね。最近はメディアの問題が取り沙汰されていますが、今後サービスを運営していくうえではより一層、谷川さんのようにメディアに情熱や愛情を注いでいく姿勢が求められていくと思います。最後に一言どうぞ!
谷川:いまはモノの豊かさというよりは、自分が何に納得して、どんな背景のモノを食べているのかをお客さんが求めていると感じています。こうしたニーズにお応えできるような、単純なお取り寄せではないしくみに力を入れて作っていきたいと思っています。ぜひ、OWNERSのサイトを一度覗いていただき、気に入ったプランがあれば登録いただければ嬉しいです。
『HIP Fireside Chat 2017』では続いて津田大介氏(ジャーナリスト・メディアアクティビスト)、南條史生氏(森美術館館長)、若林恵氏(WIRED日本版 編集長)が登壇。それぞれ社会活動家、メディアアーティスト、写真家といったバラエティーに富んだゲストを紹介し、話が盛り上がりを見せる様子を、中編でお届けする。