日本で「インド型」のEコマースが流行? ヤフー小澤隆生氏が考える、消費の今と未来— 「HIP Conference vol.2」イベントレポート(3)
小澤隆生(ヤフー株式会社 執行役員 ショッピングカンパニー長) / 佐々木紀彦(株式会社ニューズピックス 取締役 NewsPicks編集長)
2015.12.23

HIPとビジネス系ニュースアプリ「NewsPicks」のコラボレーションイベント『HIP Conference』。初回のテーマ「モータリゼーション2.0×都市」に続き、第2回目は「消費×ビッグデータ×センス」というテーマで開催された。テクノロジーの進化やビッグデータの発展により、科学的に消費の分析が可能になっている一方で、これまで以上に人間的な「センス」も重要になってきている。今回のHIP Conferenceでは、「ビッグデータ」「センス」それぞれのキーワードにおける第一人者がゲストとして登壇した。

ラップアップには、ヤフー株式会社 執行役員 ショッピングカンパニー長の小澤隆生氏が登壇。株式会社ニューズピックス 取締役 NewsPicks編集長の佐々木紀彦氏が公開インタビューを行った。


取材・文:HIP編集部 写真:御厨慎一郎

キーは自動車と不動産。ネット取引の法改正が起これば、Eコマースの成長曲線も変わる

佐々木「これまでEコマースをずっと見てこられた小澤さんから見て、最近のEコマースの動きはどんな印象を抱かれますか?」

小澤「今もヤフー株式会社でYahoo!ショッピングの担当をしていますが、1997年からEコマースに関わっているので、かれこれ18年間関わっていることになりますね。長く経験しているだけ難しさも感じているのですが、やはり一番感じるのは、18年前から可能性はあると思っていたものの、ここまで成長するとは思っていなかったということです。まだまだ伸びていくでしょうね。」

佐々木「どういった点がそこまでEコマースの成長を感じさせているのでしょうか?」

小澤「以前はどのメーカーもお店に卸してから商品を売っていましたよね。それが、Eコマースで直接売ることができるようになった。さらに、中国であれば阿里巴巴集団の『タオバオ』や『天猫(Tmall)』といった現地のマーケットプレイスを使って直接売ってしまうことが可能になりました。Eコマースに関わり始めた当時は『本当に売れるのか?』という疑問もありましたが、実際に蓋を開けてみると、信じられないくらい売れる。しかも、以前はPCしかありませんでしたが、今はスマホもある。Eコマースへの接触時間が増えているんですね。あらゆる側面がEコマースの成長を指し示しています。」

佐々木「日本のEコマースの市場は現在約13兆円ですが、2025年には約60兆円になると小澤さんは宣言されています。今はまだ、海外に比べると日本のEC化率は低いですよね。日本の市場が伸びる可能性はあるんでしょうか?」

小澤「たしかに、海外のほうがEC化率は高いです。一体いくらになると思います? 阿里巴巴グループは、流通総額が約30兆円と言われていて、2014年11月11日には1日で1兆円をも売り上げました。2015年には、2兆円を売り上げることを目標にしています。2兆円というと、楽天の国内EC流通総額と同じくらいですから、その規模が伺えますね。なぜこれだけの規模になっているかというと、中国では小売が発達する前にECが成長したからなんです。日本はスーパーや百貨店、コンビニといった小売が成長した後に、Eコマースの波がやってきました。中国ではスーパーや百貨店の発展を抜いて、いきなりEコマースの成長の波が来ている。日本はコンビニもあり、家の近くで買ったほうが早いこともありますが、中国ではECで頼むほうが早い。」

佐々木「国によって小売の成長の仕方が異なるんですね。」

小澤「そうです。インドはもっとすごいことになっています。インドの小売は昔の日本における『三河屋』のようなものがあり、全ての家庭に出入り業者がいるんです。これがいきなりEコマースになった。三河屋モデルの物流が残っているため、インドではEコマースに『地域』という概念があるんです。家の近くから配送してくれるECで注文すると、値段は少し高いですがすぐに届く。このように、国ごとの商習慣と、どのステップでインターネット化したかで、各国のEコマースの発展状況は異なります。日本ではコンビニやスーパーが既に発展しているので、これから遅れてEC化が進んでいくでしょうね。10年後には、流通額全体の20%ほどをEコマースが占めるまで成長すると予測されています。」

佐々木「日本のEコマースの成長曲線は、この先どのような軌道を描いていくのでしょうか?」

小澤「2000〜2008年頃までは年率40〜50%で成長していて、それ以降はどんどん伸び率が落ち、現在は8〜12%の成長率で落ち着いている。今後はこの伸び率を維持するものと見られていますが、ここにインターネット化率が低く、市場規模の大きい自動車と不動産がどう入ってくるかが重要です。タクシーの相乗りがどこまで解消されるか。Airbnbが民泊解放されたらどうなるか。自動車はまだわかりませんが、不動産は法改正によってネット取引が可能になると見られています。こうした法改正が起こると、成長の曲線は変わるでしょうね。法改正を見越してどういうサービスを提供していくべきなのか? それを考えていかなくてはいけない。」

将来的には日本で「インド型」の物流システムが成長する

佐々木「日本は物流網が発達していますし、Amazonがファミリーマートと提携するなど、リアルとネットの融合が進んでいます。日本なりのEコマースの発展の仕方は今後どうなっていくと見られていますか?」

小澤「これに関しては持論があるんです。全国に倉庫を作り、商品を集中させてそこから配送を行う集中型の物流は、一定レベルまで発展していくと考えています。Amazonや、私たちヤフーが出資をしているアスクルのような会社はこの形態です。一方、将来的に一定のシェアをとりそうだと考えているのは、先ほどお話したインド型。家の近くから配送してくれて、少し値段は高いけれど30分で届くというパターンですね。」

佐々木「インド型の配送は、従来の配送とどういった点が異なるのでしょうか?」

小澤「たとえば、明日ゴルフに行くのに道具がないとき。集中型のEコマースで注文すると間に合わないし、まだオフィスで仕事をしているので直接お店に買いに行くこともできない。そのような場合に、インド型であれば近くのお店から30分以内に配送してもらえるので、次の日に間に合わせることができます。集中型のようにコストパフォーマンスを下げられない分価格は高くなりますが、とにかく早い。集中配送型は価格こそがすべてで、Amazonの一人勝ちになってしまうのではないかと言われていました。インド型の配送が成立すると価格とは別の価値を提供できることになり、集中配送型からの揺り戻しがあるのではないかと考えられます。」

佐々木「なるほど。小林さん(※『ビッグデータと消費』のゲスト、株式会社ローソン 営業戦略部 マネージャー)、インド型配送のような、地域配送のハブになる可能性が高いコンビニエンスストアとしては、どうお考えでしょうか。」

小林「私は元々、ネットショッピングがやりたくてローソンに入社しました。物流を持っていて、コンピューターもありますから。社内では、お客さんのところに物を届けることを『御用聞き』と言っています※1。まさに三河屋モデルですよね。」

佐々木「小澤さんはコンビニの可能性についてどうお考えですか?」

小澤「ローソンは最高ですよ。コンビニはものすごくポテンシャルが高いと思います。住んでいる人の近くに物流拠点があるんですから。」

※1 2015年6月、ローソン店舗を起点にしたご自宅等への配送・御用聞きサービスなどを行う『SGローソン マチの暮らしサポート』がスタートしている。

1億8000万個の商品の中から10品を選んでレコメンデーションするのは、とうてい人の力ではできない。

佐々木「たとえばですが、コンビニがEコマースに対応すると、リアルで売れているものとEコマースで売れているもののデータが取得できるようになって、データの量が増えてきますよね。こうしたデータが増えることによって広がる可能性も大きいのでしょうか?」

小澤「それは間違いありませんね。データは多ければ多いほど良いアウトプットが出せますから。リアルでは良い店作りができるようになり、Eコマースではワントゥーワンで訪問者に合わせた表示をすることが可能になります。人に合わせてどのページを表示させるかを決める際に、3個のデータより3万個のデータから割り出すほうが良いに決まっていますよね。」

佐々木「今日のテーマは『消費とビッグデータ』なわけですが、こうしたビッグデータをどういった場面で利用されていますか?」

小澤「ビッグデータはあらゆるところで使用しています。Yahoo!ショッピングでは、訪問者に対して、過去買ってもらったものや関心のあるものを参考に商品を選んで並べています。最初に表示させる商品が重要なのですが、1億8000万個の商品の中から10品を選ばなくてはならない。これはコンピューターに計算させたほうがいいですよね。もちろん、人のセンスは重要です。そのため、10品選ぶとしたら、2品は人のセンスで。残りの8品は行動履歴に基いて計算したほうがいい。さらに、アクセスする時間によっても出す商品を変えたほうがいいかもしれない。そして、在庫量も自動で計算しなくてはいけないので、そうなってくると人が対応できる作業を越えていますよね。」

佐々木「それはとても人にはできなさそうな作業ですね……。」

小澤「そうですよね。店舗での商品陳列とは異なり、膨大な商品の数から訪問者に合わせて表示させることができるのがEコマースの特徴です。ただ、Eコマースは商品数が無限にあるかのように言う人もいますが、それは違う。人の目と脳は素晴らしいので、リアルな店舗では勝手に欲しい商品を見つけてくれますが、PCやスマートフォンの画面では視覚が限られている。限られた画面内にどの商品を表示させるかは極めて重要で、それを決めるためにはデータが必要なんです。」

佐々木「中村さん(※『ビッグデータと消費』のゲスト、クックパッド株式会社 トレンド調査ラボ 調査室長)は、ビッグデータの専門家として何かコメントなどあったりされますか?」

中村「私たちも、レコメンデーションにチャレンジしています。ただ、毎日の料理におけるレコメンデーションで難しいのは、昨日肉を食べたからといって、今日も肉を食べるとは限らないということです。検索だけでなく、作ったレシピや、購入している商品といった情報を収集し、統合的に分析できるようになればそういったことも可能になるかもしれません。」

テレビの影響力は、SNSによって今まで以上に高くなっている

佐々木「本日のテーマは『ビッグデータ』に加えて、『センス』というものがあります。InstagramなどのSNSからトレンドが生まれることもあるようですが、小澤さんはネット空間のトレンドを作る力についてどう思われますか?」

小澤「トレンドをつかむ上で検索はすごく有効ですよね。テレビで放送されるなどで人に注目されたものは、検索数が増えていきますから。検索の傾向を見ているとトレンドの萌芽をいち早くキャッチすることができ、それをメディアとしてどう露出させるか、マーケッターが絡むことによって、トレンドにレバレッジを効かせることはできると思います。」

佐々木「『トレンドにレバレッジを効かせる』とはどういったことなのでしょう?」

小澤「トレンドのきっかけはテレビかもしれません。ただ、その後の伝搬力に注目すべきです。ネットがなかった頃は情報が露出するのは一瞬だったので、その後は視聴者の記憶を頼りに口コミで広まっていくしかなかった。今では、視聴者が写真を撮影し、情報をネットで調べ、そのページをSNSで拡散するので、ずっとレバレッジが効きやすくなっています。持続性がありますよね。テレビを見てなかった人が、Twitterを経由してテレビの情報を知るというのは。」

佐々木「なるほど。中村さん(※『センスと消費』のゲスト、株式会社トランジットジェネラルオフィス代表)は、ウェブメディアのトレンドを生み出す力に対して、どう思われますか?」

中村「情報の拡散を考えると、ネットはなくてはならないものだと思います。15年ほど前に起業したときは、カルチャー誌のトップにどう取り上げられるかが重要で、限られたクローズドな世界に知られることがステータスでした。今は、より多くのメディアに出ることの優先順位を高くしています。お店はテレビの影響力が強く、取り上げられると行列ができたりしますが、ウェブメディアだけではなかなか行列はできません。ただ、ネットは拡散力が強い。多くの人にリーチできればできるほど話題が広がるので、ネットはどうしても外せないですね。」

小澤「インターネットとテレビの組み合わせは強いですね。テレビで紹介されると、それがきっかけとなってSNSで拡散される。テレビで紹介されることの効果が、SNSによって今まで以上に高くなっているんです。だから、インターネット企業がこぞってCMを出す。インターネットとテレビを組み合わせることの可能性はこれからも広がっていきそうですよね。」

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