ソニー流が加わったベンチャー始動。社内異文化の融合で得られた手応えとは
増田哲朗(ギリア株式会社 取締役) / 近田慎一郎(ギリア株式会社 HE事業部 知能技術開発部 部長)
2019.02.13

「誰にでもAIをつくれる環境の構築」を目指し、2017年に設立されたギリア株式会社。各業界のリーダー企業と組み、業界構造を変える革新的なAIソリューションの提供を進めている。AIを活用して、すでに多様な業界の課題解決を行っており、注目を集める企業だ。

もともとギリアは、人工知能の開発に取り組むスタートアップの株式会社UEIと、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下ソニーCSL)、ベンチャーキャピタルである株式会社WiLの三社の合弁会社として立ち上がった。現在は、UEIとソニーの出身者が中心となって事業展開を進めている。

気鋭のスタートアップと、歴史あるソニー。文化も思想も違うスタートアップと大企業が一緒になると、あらゆるズレが生じそうだが、ギリアではお互いの文化を理解し、うまく融合させることができているという。

今回話を伺ったのは、UEI出身の増田哲朗氏とソニー出身の近田慎一郎氏。両者に聞く、新会社としての文化づくりの秘訣、そしてスタートアップと大企業の融合により得られたものとは?


取材・文:市來孝人 写真:豊島望

共同開発により、ソニーだけではできなかったことも可能に。

HIP編集部(以下、HIP):まずは、ギリアという会社が設立されるに至った経緯を教えてください。

増田哲朗氏(以下、増田):ギリアができる4年ほど前、UEIが、手書きメモに特化した独自開発のタブレット「enchantMOON」を発売したんです。その製品をご覧になったソニーCSL所長の北野宏明さんから、「面白そうなことをやっている会社だな」と言っていただき、コンタクトを取り合ったのが始まりです。

ギリア株式会社 取締役 増田哲朗氏

近田慎一郎氏(以下、近田):ちょうどその頃のソニーCSLは、「NWSプロジェクト」というものを立ち上げたタイミングでした。「NWS」は「ネットワークサービス」の略。AmazonやFacebookなどデジタルを駆使したベンチャービジネスが続々と誕生していくなかで、このままだと時流に乗り遅れてしまうという危機感があったんです。そこで、ソニーでは展開できない新たなデジタル事業を創出するべく発足したのがこのチームです。

その一環として、のちのギリアの前身となる「デルタ・プロジェクト」が、UEIと共同で2014年に始まりました。このプロジェクトは「enchantMOON」からヒントを得て、「手書き」と「人工知能」を掛け合わせたサービスを模索することからスタートしました。

いまでこそ、手書き文字をイメージスキャナやデジタルカメラで読みとり、デジタルの文字コードに変換するAI技術を応用する事例が多数ありますが、当時はようやくディープラーニングという言葉が認知され始めて、画像の識別で飛躍的な成果が出始めたころでした。プロジェクトではこうした最先端のAIを応用した手書き文字処理をはじめ、革新的なAIソリューションを共同開発していたんです。

そして、その活動に共感してくれたWiLが出資元になり、2017年、UEIとソニーCSLを主体にしたジョイントベンチャーとしてギリアが誕生しました。

ギリア株式会社 HE事業部 知能技術開発部 部長 近田慎一郎氏

HIP:両社が組んだことで、どんなメリットを感じていますか。

近田:UEIの出身者に、個性豊かなエンジニアがたくさんいることですね。大企業になると採用プロセスが画一化してしまい、人材の質や雰囲気が似てくる傾向にあります。でも、スタートアップは少数精鋭のため、それぞれに個性を持ったエンジニアが集まってきやすい。彼らと一緒に開発を行うことで、ソニーだけではできなかったことも、できるようになったと感じています。

増田:ぼくらUEI側がソニーと組んだことで感じる一番のメリットは、大企業ならではの組織力ですね。組織として人材をどう活かしてプロダクトをつくり、会社を成長させていくかというノウハウは、組織規模の小さいスタートアップだけでは育てにくいものだと感じます。

また、「ソニー」という「誰もが知っている会社」と一緒になることで、クライアントの安心感も確実に増したと思います。

近田:また、UEI側のスピードはすべての面で、ソニーとは比べものにならないほど早いと感じました。とくに、プロトタイピングの早さには驚きました。

大企業のエンジニアだと「一つのソフトウェアをつくるのに、自分が携わった部分はとても小さい」というケースがあります。一方、UEI出身のエンジニア陣は、自分で製品企画して、それを動かす原型をつくりあげ、実際に触ってもらうところまで一気通貫でできてしまう人がたくさんいるんです。

そういう人が社内にいると、早い段階から先方との実証実験に入れる。本当に使える技術かどうかを早期にデモストレーションで示せれば、クライアントの信頼感にもつながるので、ありがたいですね。

前任者のメソッドは気にしない。目的さえ達成できれば、手段は自由であるべきです。

HIP:もともとはスタートアップと大企業、それぞれまったく違う環境や文化を持っていたと思います。一緒に仕事をするうえで感じたギャップはありましたか。

増田:「仕事の進め方」には、根本的なギャップを感じましたね。UEIのメンバーは「まずやってみよう」というスタンス。一方、ソニー側は最初にゴールを設定して、そこに向かってブレイクダウンしていくやり方なんです。だから、どう折り合いをつけていくかは当初から課題でした。

ソニーの出身者は、それまで組織化された体系のなかで仕事をしていたので、上長からタスクがおりてくるケースにも対応できました。一方、ベンチャーであるギリアでは、UEI同様に最初から最後まで自分で考えて行動することが求められる。UEI出身者のなかには当初「プロジェクトの進みが悪いな」と思った人も多かったかもしれません。

近田:ぼくも含めてソニーから参画したメンバーは、何か課題があったときに、まず「前の人がどうやったのか」「定型のやり方はどんなものか」と考えてしまいがちなんです。

しかし、UEI出身の人たちと仕事を進めていくなかで、これが大企業特有の固定観念だったと気づきました。本来は、顧客の合意を得ることさえできれば、手段は二の次。「目的を達成するための手段は、すべて自分で決めていいんだ」というマインドセットになるための努力が必要だと感じましたね。

増田:ただ、そこはソニー側の努力に任せきりにするのではなく、UEI側も歩み寄るように意識しました。たとえば、UEIとギリアの代表取締役社長を兼任している清水は、スピード感や顧客ファーストを大事にしているので、その意思を積極的に伝えたり。一つの案件に対して複数の上長から指示が出ることがないよう、指示命令系統の最適化にも取り組みました。

お互いの文化のギャップを埋めるように歩み寄った結果、いまではソニーの人にもUEIのマインドが浸透し、全体的な仕事の速度も上がりました。

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両社の考え方や価値観を融合させることで、成り立っているギリアの文化とは?

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