INTERVIEW
富士ゼロックスで20年続くイノベーション文化。キーマンが語る秘訣とは?
森谷幸代(富士ゼロックス株式会社 バーチャルハリウッド・プラットフォーム グループ長)

INFORMATION

2018.06.29

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いまでこそ当たり前のように行われているオープンイノベーション。その言葉がまだ世の中に浸透する前の1999年から、率先して社内外の人たちとともに新たな価値創造に取り組んでいるのが、富士ゼロックス株式会社(以下、富士ゼロックス)だ。同社は「Virtual HollywoodⓇ Platform(以下VHP)」というプログラムのもと、新規ビジネス創出や社会課題解決などへの思いを持つ社員が、自ら手を上げて具現化に向け実践する場を設けている。

この取り組みを支えているのが、VHPの推進組織でグループ長を務める森谷幸代氏だ。2012年に現職に就いて以来、さまざまなテコ入れを実施。2010年の時点で128人だった参加者数を2018年までに5倍以上に増やし、100以上のテーマが動くプロジェクトへと活性化させた。

約20年ものあいだ発展を続けるイノベーションプラットフォームの背景には、どのような活動があるのだろうか。「『見せ方』が大事」と語る森谷氏に、取り組みのポイントを伺った。


取材・文:村上広大 写真:大畑陽子

もともとは、志をもって自発的に行動できる社員を育むための人材開発プログラムとして始まった。

HIP編集部(以下、HIP):VHPが立ち上がった1999年当時は、まだオープンイノベーションという言葉も世の中にほとんど浸透していなかったと思います。そんななか、どういった経緯でこのプログラムは生まれたのでしょうか?

森谷幸代(以下、森谷):VHPはもともと、経営者の思いから始まりました。1990年代前半のバブル崩壊後、日本経済が悪化し、お客さまのニーズも多様化していくなかで、富士ゼロックスとしても従来のやり方では大きな企業成長は見込めないという危機感を感じていました。そこで、あらためてお客さま志向で新たな価値を創造していこうという指針を立てたのです。

しかしそこで浮き彫りになったのが、組織の下流と上流で、それぞれに抱く「お客さま」の概念が違っていたという課題でした。営業部門の社員はエンドユーザーと接することが多いですが、技術開発部門はその機会がほとんどありません。その結果、接点を持つ社内部門を「お客さま」と認識するようになってしまっていたのです。

富士ゼロックス株式会社 バーチャルハリウッド・プラットフォーム グループ長 森谷幸代

HIP:いわゆるセクショナリズムの弊害ですね。

森谷:そこで全社が本当の意味で「お客さま=エンドユーザー」志向に立ち返るためには、社員の意識変革・行動変革が必要であると考え、その施策のひとつとして発足したのが「VHP」でした。社員一人ひとりが与えられたことをこなすだけでなく、自ら考えてできることを行動に移せるようになる。そんな意識の改革がなければ新しい価値創造はできないという考えが、根底にありました。VHPはそのための、人材開発プログラムとしてスタートしたのです。

単なる研修との違いは、実践型であること。座学だと頭では理解できても、ひとたび組織に戻ると業務に忙殺されて学んだことを忘れてしまいがちです。さらに実践のなかでも、トップダウンにより「やらされる」のではなく、自分が「自らやる」。こうした経験によって、これからの富士ゼロックスに必要な人材が育っていく、という考えのもとに始まったプログラムでした。

実現に向け、ゼロから本気で考えながら課題を解決していくことで、身につく知恵や経験がある。

HIP:森谷さんご自身は2012年に、研究部門から現在の部門に異動されたそうですね。当時のVHPはどのような状況だったのでしょうか?

森谷:これはどんな企業にも通じることだと思いますが、新しいことを仕掛けると最初は活気があっても、3年くらい経つと次第に動きが鈍化してくるんですね。そこでトップダウン的に施策を行うと少しは盛り返すのですが、またしばらくするとくすぶってきてしまう。

VHPもその繰り返しのなかにあって、本質的な改革の必要が出てきていました。世の中にもオープンイノベーションという言葉が普及し始めた時期で、会社としてもVHPのあり方を大きく変えるにはベストなタイミングだったのではないでしょうか。

HIP:その改革の担い手として、森谷さんに白羽の矢が立ったのはなぜだったのでしょうか?

森谷:当時のVHP推進組織は、営業部門出身者を中心とした構成でした。そのためか、参加者も営業部門のメンバーが多かったんです。しかし当時の社長は、イノベーションの核となる技術開発部門からも多くのメンバーを集めたいという理想があったのだと思います。

HIP:VHPのテーマ活動は、「本業プラスワンの活動とし、評価とは非連動とする」「必要資金は交通費以外自分たちで調達すること」など、会社が全力で新規事業の創出をサポートする昨今の潮流とは真逆の、一見厳しいルールで本プログラムを運営していると伺いました。

森谷:新しいコトって、最初はそもそも本当に価値があるのかどうか誰もわからないのが当たり前ですよね。魅力があるものでなければ投資はされないし、協力者や仲間も集まらない。その厳しい前提に立ったうえで、「じゃあ資金援助をしてもらうにはどうしたらいいのか?」「人に共感してもらうには?」と、ゼロから本気で考えながら具現化していくことで、身につく知識や知恵、経験、人脈があると思っているんです。

HIP:確かに実践的にプロジェクトを進めていくなかでさまざまな学びがありそうです。

森谷:でも、私は「教育」とか「育成」という言葉は使いたくなくて。VHPのメンバーはあくまでも、自分たちの思いを具現化するために活動しています。そういう志のある人たちに対して、私たちが「育成」というスタンスで接するのは違う気がして。私がVHPグループに来てからは、「イノベーションを起こしたい人をバックアップするプロジェクト」として活動を続けています。

VHPは、お客さまそして社会のために新しい価値創出を目指し、会社に貢献する活動である。そうPRすることで、やっていることは同じでも、周囲が一目置いてくれるようになりました。そして周囲の理解や支援は、企業のなかで自ら新しいことにチャレンジする社員の活動を守り、加速させるためには必要不可欠なものです。

大切なのは「巻き込むこと」。理解者を増やすために森谷氏がとった施策は?

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