スタートアップシーンを見渡すと近年、国内外で「ヘルスケア」領域が大きく伸びている。多様化する「ヘルスケアテック」のなかでも、日本のスタートアップ「デジリハ」がフォーカスしているのは、「リハビリ」。ビジネスコンテストでも激賞されたそのサービスを支えるミッションを、同社ボードメンバーの2人、代表の岡勇樹、執行役員の仲村佳奈子に訊いた。インタビューには慶應義塾大学医学部が主催する「健康医療ベンチャー大賞」の実行委員長を務める大岡令奈も参加。大賞の審査員がデジリハをどう評価しているかも語ってもらった。
ヘルステックが広がっている
米アマゾン・ドット・コムは今年11月、月額9ドルを支払うAmazon Prime会員であればいつでも医師の診療を受けられるという新サービスを発表しました。メンタルヘルスを自身で管理するアプリだけみても、2022年時点で51億ドルだった市場規模が2030年には約2.8倍の142億ドルにまで達するとする予測もあります。また、医療領域におけるテック企業の参入はコンシューマー向けのサービスだけでなく、例えばグーグルは昨年、医療機関向けのAIツールを発表し、医療従事者の生産性向上にコミットするとしています。
サブスクやAIから、ウェアラブルデバイス、モバイルコミュニケーション、ドローンまで。ヘルスケア領域の多様化は、まさにテクノロジーの数だけ生まれているといってもいいでしょう。
では「リハビリテック」と聞いて、どのようなサービスを思いつくでしょうか。ロボティクスに関心のある人であれば、介護従事者をサポートするための介護ロボットを想像するかもしれませんし、コロナ禍を経て一気に普及した遠隔医療ツールを用いたリハビリテーションサービスも実現できそうです。あるいは、とくに要介護者の増加が懸念される日本においては、デイサービスなど既存の介護サービスと連携しDX化をはかるSaaSアプリケーションを開発することで、相応の市場規模を期待できるかもしれません。
しかし、日本・東京のデジリハが提供するのは、そのいずれでもありません。社員8人の、規模こそ決して大きくはないスタートアップが謳うのは、「すべての人の主体性を引き出す」リハビリツール。デジタルアートとセンサーを活用した、まるでゲームのようなサービスです。
デジリハは今年、慶應義塾大学の医学部が主催する「健康医療ベンチャー大賞」のウェルネスリーグ(※)にエントリーし、リーグ優勝を経て、12月10日に行われたリーグ横断最終審査部門で見事総合優勝を果たした。その名の通り「未来の医療」を生み出すベンチャーを支援するビジネスコンテストにおいて、審査員から多くの期待の声を集めて注目を集めています。
※慶應医療ベンチャー大賞は、「ウェルネスリーグ」「創薬・SaMDリーグ」「医療機関リーグ」の3つのリーグに分かれて実施されている。
それは24億人のためのサービス
- HIP編集部
(以下、HIP) - 今年の健康医療ベンチャー大賞(以下、ベンチャー大賞)では、予選選考を勝ち抜いた4社のヘルスケア系ベンチャーがプレゼンテーションを行いました。岡さんは壇上での5分間、どのようなお話をされたのですか?
- 岡勇樹
(以下、岡) -
ピッチの冒頭でお話ししたのは、多くの人がリハビリを「機能回復のための訓練」だと捉えているけれど実際はそうではない、ということでした。リハビリの語源をたどると「全人間的復権」ということばが出てきますが、この発想の転換が大事だと訴えることからスタートしました。
世界の人口はいま80億に上りますが、その30%がリハビリを必要としているというデータもあります。つまり、ぼくらがつくっているのは、24億人の日常を革新しうるプロダクトだといえます。
- HIP
- それは大きなマーケットだといえますね。
- 岡
- それなのに、さまざまな課題を抱えています。大きく分けると3つの課題があります。まず、提供されるリハビリのメニューそのものが、モチベーションを保ちづらい受動的な内容になっていること。また、支援職に就いている人口も不足しています。さらに、医療費をはじめとする問題から、リハビリを受けられる時間が圧倒的に少ないのです。
- HIP
- デジリハのプロダクトは、主に児童を対象としていますよね。
- 岡
-
ええ。子どもは成長していくと、年齢に応じて支援先も変わってしまいます。そして、新たな支援先には、それまでどんなリハビリを受けてきたのかという重要な情報が引き継がれないことが多いのです。
良質な支援を受け続けるために必要な環境が得られない状況を解決するためには、子どもたちが主体的に取り組めるコンテンツが必要だと考えました。さらに、リハビリのためのデバイスも簡易的なもの──病院に限らずどこでも使えるものを目指し、かつリハビリの記録が残るデータベースも一生伴走してくれるものをつくってきました。
コンテンツの種類を増やすためにさまざまなアプリを開発してきましたし、デバイスに内蔵されているセンサーも子どもたちの多様な動きに対応できるようになっています。さらに、大きな課題である情報の引き継ぎについても、データベース構築をはじめとする実装を進めています。