INTERVIEW
企業イノベーションの根回しオヤジ。ANA・DD-Lab流マネジメント術
津田佳明(ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター)

INFORMATION

2018.11.30

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2016年、ANAホールディングス株式会社(以下ANA HD)で新たに組織された「DD-Lab(テジタルデザインラボ)」。

航空会社としての「強み」を生かしつつ、まったく新しい事業を生み出すための、いわゆる「イノベーション創出」の部署だが、ドローンから宇宙事業、さらにはVRやハプティクス(触覚技術)を使った瞬間移動の実現など、かなり攻めた取り組みが注目されている。

大企業は、その規模や築き上げたノウハウが強みとなる一方、既存の枠組みを外れたイノベーションを生み出す際には、それらが障壁になる場合も少なくない。

新たなものを生み出すための組織を立ち上げ、ワークさせるために意識すべき点はどのようなものなのか。そしてどのようにチームを運営しているのか、DD-Labのチーフ・ディレクターを務める津田佳明氏に話を聞いた。


取材:小野いこ 文:市來孝人 写真:玉村敬太

新しいことに挑戦し続けるための、治外法権的な部署「DD-Lab」

HIP編集部(以下、HIP):まずは、DD-Lab立ち上げの経緯について教えてください。

津田佳明氏(以下、津田):いまでこそANAは大企業といわれていますが、創業した1952年当時は、ヘリコプター2機と、16人の社員によるベンチャー企業でした。

その後、ANAは66年かけて一つひとつチャレンジを重ね、規制の枠を超えて国際線事業に進出したり、ビジネスクラスに全席通路アクセス可能なレイアウトを導入したり、自社にとって破壊的な存在であるLCCを企業グループ内に立ち上げるなどに取り組んできました。「チャレンジを続けることが存在意義」というDNAが社内に根づいているのです。

ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ チーフ / ディレクター 津田佳明氏

津田:しかし当然ながら、航空事業は安全運行が至上命令なので、厳密なピラミッド型の組織体制が敷かれています。また従業員数も4万人を超えてくると、どうしてもルールで管理しなければいけない部分も出てくる。

そのなかで新しいことに挑戦し続けるために、ある種の治外法権的な部署を設立することが、「2016〜2020年度中期経営戦略」に盛り込まれました。それが2016年の4月に発足したDD-Labです。

シリコンバレーのリラックスした雰囲気を取り入れるため、「もうスーツを着ない」と宣言

HIP:DD-Labのチーフとして津田さんに白羽の矢が立ったのは、どのような経緯だったのでしょうか?

津田:理由は聞いていませんが、個人的には、当社が出資しているベンチャーキャピタル、WiLが主催するシリコンバレー研修に参加できたことが大きなきっかけだったと思っています。

当時、私は経営企画部に所属していて、経営戦略をつくるお手伝いをしたり、役員会の事務局を担当したりしていました。本当は別の社員がシリコンバレー研修に参加する予定だったのですが、「都合で行けないから津田が行け」ということになって。

でも、そこで体験したシリコンバレーの雰囲気に感銘を受けました。世界最先端の技術やビジネスモデルが生まれる場所なので、みんなライバル関係のなかでピリピリしながら生き残りをかけてやっていると思ったら、まったく違った。

「こんなところで話して大丈夫?」という内容のミーティングがカフェで堂々と繰り広げられていて、非常にオープンでリラックスした環境だったんです。

研修の最後に、参加者一人ひとりが目標を宣言するパートがあって、ある人は「新規事業を1年以内に立ち上げます」などと掲げていましたが、私はこのリラックスした空気感を日本に持って帰るためにどうすればいいのかと考えていました。それで、「もう会社にはスーツを着て行きません」と宣言したのです。

津田:実際、帰国してすぐに、役員会にポロシャツとチノパンで参加したのですが、1週目はみんなに心配されて、2週目くらいから怒られ始めて。3週目以降も続けていたら、誰も何も言わなくなりました(笑)。

また、ちょうどこの頃に担当していた「2016〜2020年度中期経営戦略」の策定にも、「イノベーションを起こすには出島が必要」と盛り込んだのですが、その計画が実行されるにあたって、「だったら、お前がやってみろ」ということになったのかもしれません。

少しはみ出している個性派社員のほうがDD-Labには向いている

HIP:DD-Lab立ち上げ時のメンバーはどのような構成だったのでしょうか?

津田:私を含めてメンバーは4人で、1人は兼務だったので実質3.5人でした。かなり尖ったメンバーでしたね。一人はアメリカ国籍を持つ元航空機メーカーの優秀なエンジニアで、日本人の女性と結婚したのをきっかけに来日し、当社に入ったメンバーです。

もう一人はANAグループのLCCであるPeach航空の立ち上げにかかわった人で、もう一人の兼務者は業務プロセスの改革をやっていた人です。

現在は、公募やグループからの出向を含めて13人になりました。エンジニアや整備技師、客室業務員、グループの旅行会社など、さまざまなキャリアを持ったメンバーが集まっています。

DD-Labの初期メンバー、左から津田佳明、野村泰一、ケビン・カジタニ、荒牧秀知

HIP:DD-Labでは、どういうタイプのメンバーを求めているのですか?

津田:誤解を恐れずにいえば、既存事業のなかで「エース級の社員じゃない人」「ちょっともてあましている人」です。

既存事業のエース級社員は、所属部署のミッションがあって、そのルールのなかで100点満点を出すわけです。

しかし、DD-Labでは大違いで、ゼロから仕事を生み出さなければいけない。何をするかも、誰と組むかも、すべて自分で探してこなければいけない。成果が出るまでにも時間もかかります。

従来の組織のなかで活躍するエース級社員だと、つねに成果を出し続けていないと、プレッシャーやストレスを感じてしまうかもしれません。

だから、既存部署で少しはみだしているくらいの人がちょうどいい。または何かしらの個性やこだわりを持っているなど、キャラクターが立っている人がいいんです。

チームメンバーがやりたい仕事をしてもらうだけ。常識を覆す、逆ピラミッド型のマネジメントとは?

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