INTERVIEW
百貨店が洋服レンタル?大企業×ベンチャーの共創プロジェクト、成功のカギは
山田修平(富士通株式会社 共創イノベーション事業部) / 神谷友貴(株式会社三越伊勢丹 百貨店事業本部 MD戦略部MD政策ディビジョン) / 須齋佑紀(株式会社ARCHECO ファウンダー / UXストラテジスト) / 津崎将氏(株式会社ARCHECO チーフコンサルタント)

INFORMATION

2019.02.28

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百貨店最大手の三越伊勢丹が手がける洋服のレンタルサービス「CARITE(カリテ)」。ドレスを中心に、特別な日のおでかけを彩るファッションアイテムを幅広く取りそろえる。専用アプリでアイテムの検索、予約、決済を行うと、自宅に届く仕組みだが、銀座三越の店舗で実際に手に取り、試着することもできる。

「実店舗」×「接客」という百貨店が持つ強みに、注目の「シェアリング」×「テクノロジー」を掛け合わせた新サービス。その仕掛け人は、三越伊勢丹のほか、総合ITベンダーの富士通、そして、デザインの力で新規事業の立ち上げを支援するスタートアップ・ARCHECO(アルチェコ)だ。

大企業×大企業×スタートアップという協創プロジェクト。業種も企業文化もまるで異なる三社は、いかにしてCARITEをつくり上げたのか? 今回は複数企業が関わる際のチームづくりのコツや、協業により得られたシナジー効果などについて、富士通株式会社の山田修平氏、株式会社三越伊勢丹の神谷友貴氏、株式会社ARCHECOの須齋佑紀氏、津崎将氏氏に伺った。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

「あえて素人同士でチャレンジすることで、新しいものが生まれるのではという期待があった」

HIP編集部(以下、HIP):まずはプロジェクト発足の経緯からお伺いしたいのですが、もともとは富士通の山田さんのアイデアだったそうですね。

山田修平氏(以下、山田):構想を始めたのは2016年です。当時、AirbnbやUberなどのシェアリングエコノミーが注目されていて、アメリカではすでに洋服のシェアリングサービスも成功していました。もしこうした海外のシェアリングサービスが日本にやってきたら、既存のアパレル産業や、三越伊勢丹さんのような百貨店は窮地に立たされてしまうかもしれない。それは非常に残念だなと思ったんです。

富士通はB to Bの会社ですので、百貨店を含むさまざまなアパレル関連企業と取引があります。そこで、私たちのお客さまがすぐにでもシェアリングサービスを始められるような、インフラとなるサービスをつくれたらいいなと考えました。

三越伊勢丹の洋服レンタルサービス「CARITE」でできること。レンタルのほか、チャットでのスタイリング相談も可能

HIP:まずは何から始めたのでしょうか?

山田:当時、私自身はファッション業界のお客さまと接点がありませんでしたので、まずは「仲間を探す」ところからですね。イベントやオープンイノベーションの集まりなどに、積極的に参加しました。そこで三越伊勢丹のバイヤーの方と知り合い、お声掛けさせていただいたんです。

富士通株式会社 共創イノベーション事業部 山田修平氏

HIP:社内のツテを辿って紹介してもらおうとは考えなかったのでしょうか?

山田:たしかにそれがストレートな方法かもしれません。ただ、富士通が普段おつき合いをさせていただいているのは、クライアントのなかでもシステム部。つねに新しいテクノロジーの活用方法を考えているような方々です。

テクノロジーに詳しい富士通とシステム部の両社が打ち合わせをしてもイノベーションは生まれにくい。そうではなくて、テクノロジーは素人だけどファッションのプロであるバイヤーの方と、ファッションの素人だけれどテクノロジーを知っている私がご一緒することで、いままでにないものが生まれるのではという思いがあったんです。

神谷友貴氏(以下、神谷):三越伊勢丹としても、かねてから新しい取り組みの必要性は感じていました。百貨店のお客さまは40代以降がメインで、なかなか若い方に足を運んでいただく機会が少ない。次の事業の芽を育て、ミレニアル世代のお客さまを掴んでいかないと、50年後、100年後は企業として立ちゆかなくなるのではという危機感があったんです。そんななか、弊社のバイヤーが山田さんから共創のご提案をいただき、詳しいお話を聞いてみたいと。それが始まりですね。

株式会社三越伊勢丹 百貨店事業本部 MD戦略部MD政策ディビジョン 神谷友貴氏

チーム力を最大化するべく、目指したのは「部活」のような関係づくり

HIP:富士通さんと三越伊勢丹さんがタッグを組み、その後さらに、アプリのUIやUX、デザインまわりを担当するARCHECOさんも「仲間入り」します。スタートアップ企業のARCHECOさんをメンバーに迎えた意図を教えてください。

山田:スタートアップの方々はつねに新規事業をつくり続け、多くの成功体験を持っています。そこからぜひ学ばせてほしいと考えていました。

本来、新規事業については成功者であるスタートアップに大企業が教えを請うべきだとぼくは思っています。けれど、実際は大企業とスタートアップの協業は、ともすると大企業が「上から物申す」ような主従の関係になりがちです。しかし、メンバー同士が物怖じせずに言いたいことを言い合える状態でなければ、チームとして最大限の力を発揮することはできない。だから、そんなフラットな関係を築けそうな相手を探していたんです。

ARCHECOさんのオフィスに初めてお邪魔した際、会社の雰囲気がアットホームでとても心地よかったのを覚えています。とにかく今回のプロジェクトは、「部活」のような雰囲気で仕事がしたいと思っていたんです。

HIP:部活、ですか。

山田:損得勘定なしに1つの目標に向かっていけるチームって、まさに「部活」かなと。ですから、まずは仲良くなることからだと考え、プロジェクトメンバーみんなで映画を観にいったこともありました。それから、初期の頃は週に2、3回、私服でARCHECOさんのオフィスに行っていましたね。代表の須齋さんよりも頻繁に通っていたかもしれない(笑)。掃除を手伝ったり、紅茶飲んで雑談したり。富士通が休みの日も「出勤」していました。仕事というより、遊びにいっていた感じですね。

須齋佑紀氏(以下、須齋):たしかに、いつもいるなと思ってました(笑)。

HIP:それはスタートアップの文化を理解するという目的で?

山田:半分は息抜きですけどね(笑)。ただ、仕事の話だけしていると、やはり受発注の関係性になってしまいがちです。ですから、まずはとにかく行動をともにしてみて、「同じ釜の飯を食う」じゃないですが、そういうところから始めようと思いました。

「最初に描いた構想から、何も変わらずプロダクトになりました」

HIP:ARCHECOさんはこれまでにも多くの企業の新規事業立ち上げに携わってこられたとのことですが、大企業の担当者で、山田さんのようなタイプは珍しいんでしょうか?

津崎将氏氏(以下、津崎):いえ、むしろ山田さんみたいなタイプが多いですね。ここまで図々しい人は珍しいかもしれないけど(笑)。大前提として、うちのように知名度の低い会社にお声がけいただく方は、よほどの物好きか、もしくは「推進力」がある人なんです。大企業の側に積極的に社内を巻き込んでいける担当者がいないと、スタートアップと組んだ新しい事業ってなかなか進まないですから。

須齋:よく「尖ったものをつくりたいんだ」というオーダーをいただきますが、クライアントの社内調整を経るなかで角がとれて丸くなってしまうことは少なくありません。でも今回は、最初に描いた構想から、基本的には何も変わらず形になりました。最初に私と津崎でつくったものから、1ピクセルも変わってないんじゃないかな。

左から:株式会社ARCHECO ファウンダー / UXストラテジスト 須齋佑紀氏、同 チーフコンサルタント津崎将氏氏

HIP:それは、やはり山田さんの推進力の賜物なのでしょうか?

山田:いえ、純粋にデザインが素晴らしかったからです。ARCHECOさんがこれまでに積み上げた成功体験をもとにつくられたものですから、素人が下手に口を出すべきではないと思っていました。デザインに関しては、全面的に信頼してお任せしましたね。

社内の反対意見も乗り越えて。チームが前進し続けられた理由

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