INTERVIEW
百貨店が洋服レンタル?大企業×ベンチャーの共創プロジェクト、成功のカギは
山田修平(富士通株式会社 共創イノベーション事業部) / 神谷友貴(株式会社三越伊勢丹 百貨店事業本部 MD戦略部MD政策ディビジョン) / 須齋佑紀(株式会社ARCHECO ファウンダー / UXストラテジスト) / 津崎将氏(株式会社ARCHECO チーフコンサルタント)

INFORMATION

2019.02.28

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「スタートアップの切迫感。それこそが人の成長につながると実感した」

HIP:とはいえ、企業文化の異なる三社の共同事業ということで、苦労された点もあるのではないでしょうか?

山田:やはり文化や言葉がまるで違うため、ビジネスのスピード感が違ったり、同じことを話しているつもりでもじつはズレていたりとか、戸惑うことはありました。ただ、そうした苦労以上に、ポジティブな発見や刺激を受けることが本当に多かったですね。

神谷:私も、ポジティブな面しか思い浮かばないですね。ARCHECOさんと仕事をするなかでは、大企業特有の「殻」にあらためて気づいて、はっとさせられました。組織のなかで既存事業を回すことだけを重視しすぎると、知らず知らず、新しいものや自分と違う考え、やり方の人を排除する方向にいってしまう場合があるな、と。

HIP:文化がまるで異なる企業との協業で、そのぶん発見も多かったのですね。山田さんはARCHECOさんから具体的にどんなことを学びましたか?

山田:たくさんありますが、一番はプロとしての姿勢ですね。自分の仕事に誇りを持っているし、妥協がない。いま、富士通を含めさまざまな大企業が新規事業の重要性を謳っていますが、スタートアップがやっていることに比べたらぬるま湯だと思います。仮に事業がうまく行かなくても、給料がもらえて、ご飯が食べられる。それはやはりどこかで甘えにつながると思います。

スタートアップの場合は、新しい仕事を生み出し続けない限りお金が入ってきませんし、特に須齋さんのような経営者には、社員を路頭に迷わせてはならないというプレッシャーもある。実際、須齋さんはつねに貪欲に、新しいことを学ぼうとしています。ぼくと同い年で社会人歴もさほど変わらないのに、経験やスキルが桁違い。そういう、大企業にはない飢餓感、切迫感みたいなものを味わえたのは大きかったです。それがないと、人ってなかなか成長できないと思うので。

「スタートアップでは日常茶飯事でも、パートナーにとっては一生に一度かも。その情熱に触発される」

HIP:ARCHECOのお二人はいかがでしょう? 山田さんや神谷さんから刺激や影響を受けることはありましたか?

須齋:ありましたね。何度も新しい事業を立ち上げていると、「スタートアップ病」みたいなものに陥ってしまうんです。だんだんと刺激がなくなって、新しいものが生まれるのも普通のことになっていく。

でも、今回のような共同事業だと、お客さんから刺激を得られます。ぼくらにしたらいつものことでも、パートナーにとっては初めての、もしかして一生に一度の新規事業の経験になるかもしれない。そこに奮闘したり情熱を傾けたりしている姿を見ると触発されます。今回はその感覚が特に強いプロジェクトだったんじゃないかなと思います。

津崎:三越伊勢丹という、ファッション業界のトップを走る会社のプロジェクトに関われたのも刺激的でしたね。

須齋:サービスをつくっていくうえで、日本最高峰の接客の視点からアドバイスをいただけたことは非常に参考になりました。

「ドレスは借りるけど、靴は買いたい」。百貨店のビジネスチャンスを広げたシェアリング

HIP:2018年8月からは4か月間のトライアルでCARITEのサービスを実施し、19年4月には本格的にサービスインが決まったそうですね。これまでにどんな反応が得られていますか。

神谷:CARITEで借りる洋服を選ぶスペースは、銀座三越の3階にあります。最初はレンタルするつもりで来店されたものの「実際に手にとって、やはり買いたくなった」と言ってくださる方、「ドレスは借りるけど、靴は自分に合うものを買いたいから、靴売り場を見てみます」とおっしゃる方もいました。購入という選択肢は残しつつ、プラスアルファでレンタルもできる。CARITEによって、百貨店としてお客さまにさまざまな選択肢を提示できることを確信できました。

確かなニーズがあり、相乗効果も見込めることがわかったので、これからはお客さまの声を拾ってさらにサービスを改良していきたいと考えています。また、「百貨」を扱う百貨店として、今後は洋服以外にも多様なニーズに対応できるよう、シェアリングの範囲を広げていけたらいいですね。

神谷:また社内的にも、世の中で話題にしていただいたことで、社内の他部署が協力を申し出てくれたり、取組計画のない店舗や、一見関係ない部署のメンバーが見学しに来てくれたりして、新しい取り組みがもたらすパワーを感じました。

若手を中心としたその反応を見て、私たちが感じていた課題感や閉塞感は、若手にはもっと切実なものとしてとらえられているんだなと実感しました。個人的には、若手の熱意や世の中へのアンテナをもっと活かしていかなければいけないと思います。

HIP:富士通としてはいかがでしょうか? 今後はこのプラットフォームを、どう活用しようとお考えですか?

山田:CARITEは幸いなことにご好評をいただくことができ、社内でも、これから目指すべき共創プロジェクトの参考事例として、広報や社内広報などで取り上げられています。また、新しいビジネスモデルに取り組んでいるため、新規事業を行っている他部署からも、取り組み内容の相談をもらうようになりました。

今後はさまざまなアパレル企業に、CARITEのアプリをベースとしたシステムを提供していきたいと考えています。「シェアリングをやってみたいけど、ノウハウや予算がない」という会社さんが、簡単にサービスを始められるようなプラットフォームに育てていけたらいいですね。

Profile

プロフィール

山田修平(富士通株式会社 共創イノベーション事業部)

シェアリングサービス プロジェクトリーダー。2008年富士通入社。営業として主にクレジット業界のクライアントを担当。2016年、社内異動制度にてイノベーション企画の現職に着任。2017年よりアパレルシェアリングサービスの事業を企画。現在は、「CARITE」をベースにアパレル企業へのシェアリングサービスおよびニューリテールの社会実装を推進。

神谷友貴(株式会社三越伊勢丹 百貨店事業本部 MD戦略部MD政策ディビジョン)

2011年、株式会社三越伊勢丹に入社。2年間婦人服の販売、3年間バイヤーのアシスタントを務めたのち、2016年より現職。

須齋佑紀(株式会社ARCHECO ファウンダー / UXストラテジスト)

東京都立大学工学部卒業後、株式会社富士通ゼネラルに入社。独立系コンサルファームを経て、2014年、株式会社ARCHECOを創立。大手キャリア、メーカー、IT企業の新規事業立ち上げについて、戦略・企画立案から要件定義、UX・UIデザイン、収益計画、営業プロセス確立に至るまで支援する。HCD-Net認定人間中心設計認定専門家、慶應義塾大学SFC研究所所員。

津崎将氏(株式会社ARCHECO チーフコンサルタント)

事業会社での経験を経たのち、UXコンサルタントとして独立し、クライアントの社内UX部門立ち上げや研究分野でのUX評価指標構築、既存サービスのUX改善のコンサルタントに従事。株式会社ARCHECOに参画後は、リサーチからサービス企画、UX・UIデザイン、プロトタイピング、ユーザ評価までプロジェクト全般に幅広く精通する。

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