INTERVIEW
アシックスが「寿命」を予測? 運動データを活かした健康増進プログラムとは
勝眞理(株式会社アシックス スポーツ工学研究所 インキュベーション機能推進部 部長)

INFORMATION

2019.11.11

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新規事業は「立ち上げること」がとにかく重要。まずは、ゼロからイチを生み出すべき

HIP:軸となる既存事業を持つ大企業ほど、新規事業に対する目もシビアだと思います。数字を含め、やはり求められるハードルは高かったのでしょうか?

:そうですね。ある程度大きな規模の会社になると、それなりに売上が見込めないと事業化は認められません。しかも大企業の場合、1億円や5億円ではなく、将来的に数十億、場合によっては数百億円規模の事業になるかどうかを判断基準のひとつとするケースも少なくないと私は思います。

HIP:そうはいっても、簡単に数百億円の新規事業がつくれるなら誰も苦労しませんよね。

:その通りです。「ASICS HEALTH CARE CHECK」も、体力測定のパッケージを国内企業に提供するだけでは、求められている売上規模の事業にはなりません。

だからこそ、新規事業は「とりあえず立ち上げること」がいちばん重要なんです。始めることによって、新たな人脈ができたり、他社と協業することになったりして、求められる売上規模に届く可能性が出てくる。どう転ぶかは、始めてみないとわかりませんし、事業は改善しながら育てていくしかないですから。

HIP:まずはゼロからイチにするのが肝心だと。では、新規事業を立ち上げるために、工夫すべきことはありますか?

:上層部の承認を得るための策を練っておくことが大切。たとえば、「ゆくゆくは体力測定で集めた健康データを活用し、データビジネスとして展開できるかもしれません」といった具合に、後々のビジネス展開も視野に入れて説得するんです。

確実ではなくとも、将来的に求められる売上規模になる可能性を示すことが大事。その説得材料を、たくさん見つけられるかがカギになると思います。

「ASICS HEALTH CARE CHECK」の場合も、最初にロート製薬さまが「試しに導入してみたいです」と手を挙げてくれたのが大きかった。もともとロート製薬さまとは、オープンイノベーションの取り組みを通じて良いお付き合いをさせていただいていたんです。そういった社外のネットワークを築いておくのも、新規事業の立ち上げには欠かせない要素だと思います。

「健康」は人間の永遠のテーマ。挑戦しがいがあるプロジェクトに賭ける想い

HIP:勝さんが所属する「インキュベーション機能推進部」は、2019年にできた新しい部署ですね。こちらでは主に新規事業を担っているのでしょうか?

:はい。じつはそれまで、アシックスには新規事業をやる専門の部署がなかったんです。そこで今年から、アシックススポーツ工学研究所内に、新規事業の創出に軸足を置いたインキュベーション機能推進部が立ち上がりました。

アシックススポーツ工学研究所の外観(画像提供:アシックス)

:いま(2019年11月時点)は私を含め7名です。現在は全員が研究所にも所属していますが、事業化の目処がついた時点で、単体の組織として移管する予定です。そのために必要な人員を集めている段階です。

HIP:勝さんは、どんな経緯でアサインされたのですか?

:やらせてほしいと志願し、私を含めて2名体制でスタートしました。もともとデータを活用したサービスに興味があったので、これまでにもアシックスストアに足の計測装置を置き、集めたデータからオーダーシューズをつくる提案などをしてきました。そこで培った知見やスキルを活かし、新たな事業がしたいなと思っていたんです。

それに、スポーツ用品メーカーの社員として、「スポーツ好きの人」をもっと増やしたいと以前から思っていました。「健康」は人間の永遠のテーマですし、挑戦しがいがあるなと。いまでは、その思いに共感してくれる社内外の仲間も増えました。彼らには本当に感謝していますね。

中高生の部活にも貢献したい。スポーツを頑張る子どもたちを手助けするビジョン

HIP:インキュベーション機能推進部では、今後「ASICS HEALTH CARE CHECK」以外にも、健康やスポーツをテーマにした新規事業を仕掛けていくのでしょうか?

:もちろん考えています。私が最近考えているのは、運動部に所属する中学生や高校生の運動パフォーマンスを上げる取り組み。全国大会に出るような強豪校では、優秀な指導者やトレーナーにいろいろ教えてもらえます。ですが、そうした恵まれた環境の高校は一握りです。

だからこそ、部活の強さに関係なく、スポーツを一生懸命頑張っている子たちの手助けになれたら良いなと思います。一人ひとりのプレーを計測して、より良いパフォーマンスが発揮できるアドバイスや道具などを提供するイメージですね。

HIP:それで記録が伸びたり、良いプレーができるようになったりすれば、さらにスポーツが好きになりますね。

:そう思います。甲子園やプロ野球を目指していなくても、球速が1キロでも速くなったら嬉しいだろうし、「もっと頑張ろう」とか「大人になってからもスポーツを続けよう」と思ってくれるかもしれません。

もちろん、事業として継続していく以上、つねにマネタイズという課題はつきまといます。ただ、われわれはスポーツ用品を売る会社ですから、スポーツ人口を増やしていくことが、結果的に会社全体の利益にもつながっていくはず。既存事業との相乗効果を生み出すという点でも、私たちの新規事業には大きな可能性があるのではないかと考えています。

HIP:最後に、あらためて「ASICS HEALTH CARE CHECK」についてお聞きします。現在は企業向けのサービスということですが、個人に展開することは考えていらっしゃいますか?

:そうですね。ニーズがあれば、BtoCの展開も拡大していきたいです。じつは、2019年11月に豊洲にアシックス直営の低酸素環境下トレーニング施設「ASICS Sports Complex TOKYO BAY」がオープンしたのですが、そこでこのプログラムを受けられる準備をしています。会員さま以外でも、ジムにお越しいただければ受診できる予定です。

HIP:個人的には、ぜひ受けたいです。

:ありがとうございます(笑)。まずはそこでお客さまの反応や反響を見ながら、今後の可能性を模索したいですね。

そして、このプロジェクトを通じて「いつまでも健康体でいられる人」を増やしたい。健康寿命と平均寿命の差を、できる限り近づけたいと考えています。ずっと自分の足で歩くことができて、やりたいことをやる。それがいちばん幸せな人生だと思いますから。

Profile

プロフィール

勝眞理(株式会社アシックス スポーツ工学研究所 インキュベーション機能推進部 部長)

広義のスポーツ科学に関する研究を担当。シューズ・アパレル製品および、人間特性データを活用したサービスの研究開発に従事。現在は、オープンイノベーションと新規事業の推進を担当している。

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