INTERVIEW
自宅にいながら、どこにでも行ける。ANAがアバター「Fusion」で目指す未来
深堀昂(ANAホールディングス アバター準備室 ディレクター) / ムハマド・ヤメン・サライジ(慶應義塾大学大学院 特任講師)

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2020.03.30

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Fusion側がANAと組むことを決意した理由は? 協業を決めるポイント

HIP:協業先のエンジニアに対してリスペクトを示すために、具体的にどのような行動を取っているのでしょうか?

深堀:お互いにゴールイメージを共有できたら、あとは基本的に信頼してお任せしています。相手の専門範囲を任せることは、信用していることの証にもなります。信頼関係を築くことで、協業もうまくいくと思っています。

実証実験や話し合いを重ね、その都度バージョンアップをさせていますが、ロボット開発側の視点はプロの意見を尊重します。「Fusion」の場合も、開発部分はヤメン氏に信頼を置いていますね。

ヤメン:私としても、非常にやりやすいです。正直、私はANAからスポンサーを受けているというよりは、深堀さんと梶谷ケビンさん(「アバターイン」の主要メンバーのひとり)と一緒に、アバターの未来をつくっているという感覚です。協業するときに大事なのは、結局「人」だと思います。

HIP:たしかに、「人」は大事ですよね。

深掘:社外のパートナーだけでなく、社内のメンバーを集めるときも、「人」として合うかどうかは大切です。とくに、私はパッションがあるかどうかを重要視しています。新規事業は実現を本気で信じるメンバーで構成しないと前に進みません。

だから、私はイノベーティブな取り組みをする際、社内の有志を募ってから始めるようにしています。現在、アバター準備室のメンバーは7人。前職はCAや受付業務などさまざまですが、ビジョンやパッションの合うメンバーが揃っています。やはり仕事しやすいですし、事業スピードの早さにもつながっていると感じます。

HIP:ヤメンさんにうかがいたいのですが、「Fusion」のように魅力的なアバターロボだと、ANA以外の企業からの引き合いもたくさんあったと思います。そのなかで、ANAとのタッグを選んだのは、「Fusion」側としても何かメリットがありそうだと感じたのでしょうか?

ヤメン:たしかに、ANA以外からもいろいろなお話をいただいたのですが、その多くは「カメラ部分の技術だけを使いたい」などピンポイントな相談でした。

それは、テレイグジスタンスロボット(遠隔地から操作するロボット)である「Fusion」のコンセプトとは大きく異なります。その点で、アバターインはコンセプトも重なる部分が多かったので、ぜひタッグを組みたいと思いました。

ヤメン:また、研究室での開発だけでは、アバターロボが社会でどう使われるかの検証はできません。社会で使われるようになるには、検証段階からリアリティーが重要になるのですが、ANAのような大企業と組むことでそうした開発環境を得やすくなります。

そこで得た知見を「Fusion」に反映させながら、より一般の人が使いやすいように改良を重ねていきたい。そう感じたことも、ANAとの協業を決めた理由のひとつです。

じつはテコンドーから生まれた「Fusion」。アバターはスキル伝承にも活用できる

HIP:社会のなかで「Fusion」が使えるようになったら、たしかに便利です。ちなみに、ANAの既存事業でも役立つと思いますか?

深堀:たとえば整備などで活用できると考えています。高いスキルを持ったマスター整備士が操作者になり、世界各地の空港で作業をしている整備士に「Fusion」を背負ってもらう。マスター整備士の技術伝承になりますし、難しい整備をマスター整備士が遠隔で行うことも可能になります。

「Fusion」はVRカメラを設置しており、操作者は自分の目で見ているような没入感を得られます。

現状でも、スマホなどで動画を撮影しながら指示を出すことは可能ですが、それだと他者目線ですよね。視界と動作を「自分の感覚」で操ることによって、正確なスキルを伝承できると思います。

ヤメン:もともと「Fusion」を開発したのも、スキルの伝承が目的でした。私は子どもの頃からテコンドーを習っていたのですが、レッスンのときには先生が後ろに立って、手や足を握って正しい位置に動かしてくれました。これを、ロボットで再現できないかと考えたのです。

テコンドーに限らず、技術職では同じようなことがよくあることでしょう。ですから、さまざまな業種の特殊技能が「Fusion」によって世界中に受け継がれたら嬉しいです。

アバターは、SNSに変わるインフラになる。「アバターイン」が見据える未来とは?

HIP:「Fusion」を含めて、アバターインにはさまざまなアバターロボットが揃っています。すでにサービスとして実施されているアバターはありますか?

深堀:すでに、パソコンで遠隔操作するコミュニケーション型アバター「newme」は、さまざまなサービス実証を行っています。いままでのファンコミュニケーションでは実施できなかった体験を提供する取り組みも行いました。今後も、どんどん新たな試みをしていく予定です。

世界初の瞬間移動ショッピングができるアバター専用店舗「avatar-in store」が、2019年12月に三越伊勢丹に限定オープン。実際に店員と話をしたり、商品を見て選んだりしながら、店舗にいる感覚でショッピングを楽しめる
バスケットボールのプロリーグである「B.LEAGUE」と組んで、抽選に当選したファンが遠隔地から「newme」を操作してバックヤード見学や試合後の選手にインタビューすることが可能に

深掘:アバターで重要なことは、仮想空間ではなく現実世界でリアルタイムに交流ができること。SNSは現在のインフラといっても差し支えありませんが、そういった意味では、アバターはSNSに変わる未来のインフラ、プラットフォームになる可能性を秘めていると思っています。

HIP:ヤメンさんは、どういった未来を夢見ていますか。

ヤメン:この先4年のあいだには、アバターのような使いやすいソフトロボティクスが浸透するでしょう。これによって、社会受容性が高まり、10年後にはロボティクスやアバターは当たり前の存在になっているはずですし、少しでも早くその未来を実現していけたら良いですね。

深堀:ぼくは、アバター事業が行き着く先は、世界中の人々の生活を変えることだと思っています。生まれた場所や環境、身体、すべての制約から解き放たれた「誰もが自由に移動できる世界」を2050年までに実現したい。それがいまの夢ですね。

そのときには、確実にエアラインの市場をアバター市場が上回っているでしょう。ANAとしても、アバター事業はエアラインの延長ではなく、新しいプラットフォームになっているはずです。

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プロフィール

深堀昂(ANAホールディングス アバター準備室 ディレクター)

2008年、ANAに入社。パイロットの緊急時の操作手順などを設計する運航技術業務のかたわら、営利と非営利のタイアップモデル「BLUE WINGプログラム」を発案する。Global Agenda Seminar 2010 Grand Prize受賞、2011年世界経済フォーラムに参加、南カルフォルニア大学MBAのケーススタディーに選定。2014年より、ANAのプロモーションを担当し、ウェアラブルカメラで撮影したビジネスクラス体験プロモーション「YOUR ANA」を企画、実行。2016年には、クラウドファンディングサービス「WonderFLY」を発案。XPRIZE財団主催の次期国際賞金レース設計コンテストにて、「ANA AVATAR XPRIZE」のコンセプトをデザインしグランプリ受賞、2018年3月に開始し、現在82カ国、820チームをこえるグローバルムーブメントを牽引中。2018年9月、JAXAと共にアバターを活用した宇宙開発推進プログラム「AVATAR X」をリリース、2019年4月、アバター事業化を推進する組織「アバター準備室」を立ち上げる。

ムハマド・ヤメン・サライジ(慶應義塾大学大学院 特任講師)

2018年から現在まで慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任講師を務める。2010年シリアのダマスカス大学卒業。2015年KMD修士課程修了、2018年同博士号取得。2020年4月からavatarInにAvatarCoreディレクターとしてジョイン予定。

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