INTERVIEW
日本のイノベーションは「信頼関係」で加速する。仕掛人が語る現在地
小村隆祐(ベンチャーカフェ東京) / ザイドラー・アンドレアス(アンカースター株式会社) / 竹田真二(森ビル株式会社)

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2020.01.10

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信頼こそ、イノベーションをエコシステム化する魔法のスパイス

HIP:日本ではオープンイノベーションが活況ですが、同じ熱量でビジョンを共有しながら協業できている事例は少ないかもしれませんね。

小村:日本企業のオープンイノベーションは、過度な「ギブアンドテイク」になりがちですよね。ギブアンドテイクはいわゆるクライアントと下請けの関係。スタートアップに資金やアセットを提供するかわりに、相手から可能な限りの利益を得ようとするものです。市場原理としては当然の考えですが、ことオープンイノベーションにおいて、行きすぎた「ギブアンドテイク」は下品といえるかもしれません。

「ギブアンドテイク」に加えて必要なのは、そもそもの「信頼」です。日本企業は、信頼に対するセンシティビティーが少し足りないのではないでしょうか。本来は、「ギブアンドギブ」くらいで考えたほうがいい。

小村:オープンイノベーションが成功したら、それをエコシステム化しようとする流れも見られますが、エコシステムを構築するうえでも「信頼」は重要でしょう。

HIP:イノベーションにおけるエコシステムとは、どのようなものですか。

小村:スタートアップや大企業、投資家といった多彩なプレイヤーが集まり、相互に連携することで、革新や事業成長の好循環を生むシステムのことです。もともとの意味は「生態系」ですね。

本来の生態系とは、誰かが計画して完成させるものではありません。材料を鍋のなかに入れて魔法のスパイスをかけ、ぐつぐつ煮込むと何かができあがっている、そんなイメージです。この「魔法のスパイス」こそ、プレイヤー相互の信頼関係なのではないでしょうか。

「ギブアンドテイク」の市場原理を真ん中に置き、プレイヤーを集めただけのエコシステムに信頼関係はありません。これは本来の「生態系」ではない。相互のコラボレーションを円滑にするためには、理念やビジョンを共有し、共感することで生まれる「信頼関係」というスパイスが必要なのです。

竹田:同感です。ただ「多様な人がいる」だけではイノベーションやエコシステムは生まれず、信頼関係は必須です。

日本の企業では、新しいことをやりたいと思う社員がいても、なかなか実行に移せない。それは、そもそも「やりたい」と声をあげられる環境や信頼関係が整っていないからでしょう。声をあげるためには、「仲間がいる」という心理的な安全性が必要。そして信頼を築くためには、伴走してくれる仲間がいて、発言や失敗が許容される「場所」が重要です。

イノベーションを生み出しやすい「場所」のあり方とは?

HIP:森ビルは東京都の「イノベーション・エコシステム形成促進支援事業」にも参加していますね。⻁ノ⾨・⾚坂・六本⽊エリアの代表事業者として、イノベーションを生む都市のあり方を模索しているとか。

竹田:私たちは、東京という都市そのものを「イノベーションを生む街」にすることを目指しています。全世界的に人口の都市化の流れは加速しており、世界銀行の調べによると、アメリカのユニコーン企業の8割が都市から生まれたという結果がありました。

都市にはいろいろな人がいて、当然価値観もさまざまです。その多様性に触れたり、自由闊達に想いを話したりすることで得られる「新しい気づき」が、イノベーションにつながるのではないでしょうか。森ビルも、多様な価値観をきちんと受け止められるコミュニティー環境をつくることで、東京都のイノベーションの創出に貢献したいと考えています。

2019年10月には、『世界に拡がる“イノベーション”の実践を考える』と題したイベントも開催。エコシステムのプレーヤーたちが熱く語り合い、アンドレアス氏や、東京都で戦略政策情報推進本部 特区推進担当部長を務める米津雅史氏も登壇した(撮影:田山達之)

HIP:日本企業の課題にもあげられた「価値観のアップデート」にもつながりますね。

竹田:森ビルが担う⻁ノ⾨・⾚坂・六本⽊エリアは、多様な価値が混ざり合っています。大企業もあれば、スタートアップ、官公庁もある。海外との架け橋になる人も多い場所です。働いている人だけなく、ホテルを訪れる人、食を楽しむ人など、ライフスタイルもバラバラ。まさに、価値観が混じり合い、イノベーションが生まれやすいエリアといえるでしょう。

このエリアを新たなイノベーションが生まれる場所にするため、森ビルはイノベーションのプレイヤーだけでなく、コラボレーションをリードし、相互の信頼を醸成してくれるような、さまざまな「HUB(ハブ)」となる方にも積極的にお声がけしています。

HIP:小村さんとアンドレアスさんは、イノベーションにおける「場所」の重要性をどのように考えていますか?

小村:それは松下幸之助の「金魚の話」を例にするとわかりやすいと思います。私も教えてもらった話なのですが。

HIP:経営には、目に見えるものと見えないもの、両方を大事にしなくてはならないというたとえ話ですね。

小村:「金魚を飼うのに金魚そのものを考えるだけではダメで、水を考えるべき。水を軽視したら、金魚はすぐ死んでしまう」という金言なのですが、これはイノベーションが生まれる街づくりにも通じます。

街にどんなスタートアップや企業を誘致するかというのは、金魚そのものの話です。しかし、誘致するだけでは不十分。その前提となるグラウンドルールやビジョン、信頼関係といった「水」を整えることが、イノベーションを生む「場所」には必要でしょう。

アンドレアス:イノベーションとは、オープンなつながりを大切にし、それぞれのビジョンやミッションをかけ合わせること。しかし、「そこに行かないとイノベーションが生まれない」と、エリアを限定してしまった瞬間、せっかく開いたものが限定的になってしまう。個人的には虎ノ門や赤坂、六本木といったエリアに限定して考えることには違和感があります。

つまり、イノベーションをエリアに閉じ込めるのではなく、むしろエリアが世界のイノベーションをつなぎあわせる「HUB」の役割を果たすのが理想です。呼び方は「虎ノ門+ワールド」なんてどうですか?

小村:いいですね。「虎ノ門ゲートウェイ」なんて名前も合っているかも。

竹田:森ビルも虎ノ門・六本木・赤坂エリアからイノベーションを生み出そうとしていますが、それを「このエリアのためだけ」にやろうとした瞬間につまらなくなりますよね。ここから生まれたイノベーションは、ほかのエリアやほかの企業、そして社会にとっても役立つ。そんな志を持ったエリアにしていきたいです。

小村:それこそイノベーションですね。これからは「内と外」「大企業とスタートアップ」という境界線を、いかに崩していくかが重要になるでしょう。それこそ全国民が価値観をアップデートできたら、もっと日本はおもしろい国になると思います。

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Profile

プロフィール

小村隆祐(ベンチャーカフェ東京 プログラムディレクター)

日系企業のイントレプレナーを経て、ボストンのバブソン大学でMBAを取得。帰国後は組織開発や人材開発のコンサルタントを経験したのち、2018年より現職。

ザイドラー・アンドレアス(アンカースター株式会社 ディレクター)

母国であるドイツの投資銀行を経て、来日。経営コンサルタントなどを経験したのち、2017年より外資系ベンチャー企業と日本企業のパートナーシップをサポートするアンカースター株式会社でディレクターを務める。

竹田真二(森ビル株式会社 オフィス事業部 営業推進部 営業推進グループ 課長)

2000年、森ビル株式会社に入社。財務部、都市開発事業本部などを経て、現在は営業本部オフィス営業推進部課長兼経営企画部として、マーケット調査、営業戦略立案、新規事業創出などを手がけている。

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