INTERVIEW
大企業と海外スタートアップのWin-Winな関係とは? Via日本進出の裏側に迫る
カリアン・チャン(Via Mobility Japan株式会社 代表取締役CEO / Via Technologies Inc. SVP of Business) / 児玉太郎(アンカースター株式会社 代表取締役)

INFORMATION

2020.03.23

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高齢化にともなう交通弱者の増加から、都市部の慢性的な交通渋滞、地域における公共交通の疲弊まで。日本が抱える交通課題の懸念は、新しいモビリティーサービスの導入で解決しうるかもしれない。

海外ではすでに「Uber」や「Lyft」といった配車サービスが普及しているが、なかでも注目されているのが、2012年にニューヨークで創業した「Via』だ。その最大の特徴は、シェアライド(相乗り)に特化した「オンデマンド型シェアライドサービス」であること。都市や企業にあわせたアルゴリズムを、既存の交通事業者や自治体に提供することで、よりフレキシブルでスムーズな交通が実現する。

現在、ニューヨークをはじめとした22か国100都市以上(2020年1月現在)で導入されているViaが、いよいよ日本進出に向けて動き出した。2018年8月には森ビル株式会社と連携し、森ビル社員を対象に実証実験を行っている。

世界を席巻する海外スタートアップが、日本進出に向けて抱く課題とは何なのか。そして日本企業は、いかにして海外スタートアップとパートナーシップを築くべきなのか。Via日本支社の代表取締役CEOを務めるカリアン・チャン氏と、日本進出の橋渡しをしたアンカースター株式会社 代表の児玉太郎氏に話を聞いた。


取材・文:笹林司 写真:熊原哲也

世界の交通課題をサポートするViaから見た、日本の交通課題とは?

HIP編集部(以下、HIP):「Via」とは、どのようなサービスなのでしょうか?

カリアン・チャン氏(以下、チャン):私たちのミッションは、「最先端のテクノロジーで公共交通の課題を解決すること」です。具体的には、スマートフォンアプリやウェブサイト、電話で配⾞を依頼すると、同じ方向に向かうユーザーをピックアップしながら目的地へと運ぶシェアライドサービスのシステムを提供しています。

Via Mobility Japan株式会社 代表取締役CEOのカリアン・チャン氏

チャン:2012年にニューヨークで創業した当初は、個人の利用者にサービスを提供するBtoCから始まりました。現在はパートナーシップを結んだ民間企業や自治体にアルゴリズムなどのテクノロジーを提供し、サービスの運営自体はパートナーが担うBtoB、BtoG(Government=政府の意)のビジネスモデルが主流です。求められるものによって、提供するサービスやコミットする割合も変えています。

我々はホワイトレーベル、いわゆる黒子です。Viaブランドを前に押し出さず、アプリ名やサービス名には自社の名前をつけられることが、選ばれる理由のひとつでしょう。私たちにとって、公共交通やタクシー会社は競合先ではなくパートナーなのです。

Viaの強みは、提供する地域や企業にあわせてカスタマイズされたアルゴリズム。乗車リクエストや車両の空き状況、交通混雑状況などをリアルタイムで集計し、瞬時に最適なルートと組み合わせを算出することで、ユーザーがピックアップポイントまで歩く距離も短縮される(画像はViaコーポレートサイトより)

HIP:Viaが日本に進出することで、どのような交通課題が解決できますか?

チャン:たとえば東京では、多種多様な交通手段がある一方、都心部でもバスが網羅できていない場所が存在しています。高齢者にとってはバス停が離れていると、そこまで歩くことも負担になり、結果として交通過疎地域が生まれてしまう。Viaのテクノロジーを既存の交通事業者に提供すれば、そういった課題を解決する手助けができると考えています。

自治体や街、企業によって抱える課題や規制は異なります。適切なカスタマイズを行うためにも、まずはそれらをしっかりと把握し、ローカルパートナーと手を携え、しっかりお話を聞くことから始めたいと考えています。

Win-Winのパートナーシップを組むためには、対等な姿勢が必要

HIP:日本進出の第一歩として、2018年には森ビルとの実証実験が行われました。このパートナーシップにあたっては、海外企業の日本進出を支援するアンカースターのサポートがあったとか。

児玉太郎氏(以下、児玉):2017年ごろ、Viaの共同創業者兼CEOであるダニエル・ラモット氏とニューヨークで話をする機会がありました。そこでViaのテクノロジーを知り、「これは素晴らしいサービスだ」と感じたことを覚えています。

アンカースター株式会社 代表取締役の児玉太郎氏

児玉:Viaも当時から日本進出を考えていたようで、その場でいろいろな相談を受けました。ただ、日本の厳しい法規制を考えると「Via単独での日本進出は難しいかもしれない」というのが正直な感想だったのです。

日本に戻ってもViaのことが頭から離れなかったのですが、そこでふと、かねてよりアンカースターでおつき合いのあった森ビルなら、Viaの懸念を解消できるかもしれないと思いつきました。森ビルは長年、都市開発に携わっているため、行政とのコミュニケーションは得意分野。「森ビルの街づくりにViaのテクノロジーを組み合わせればおもしろいシナジーが生まれるのではないか」と考え、森ビルに掛け合いました。

HIP:Viaのようなサービスなら、まず、タクシーやバスなどの公共交通事業者との協業を考えがちでは?

児玉:確かにそうかもしれません。しかし、最初に日本の交通を熟知する事業者と組もうとした場合、その事業者が業界のことを知りすぎているがゆえに、話がややこしくなる懸念がありました。最悪、ノウハウだけを盗まれてしまう恐れもあるでしょう。

その点、森ビルとViaは競合しませんし、何より森ビルだけではなし得ない、新しいビジネスに参入できる可能性がある。異業種の協業だと、お互いに「わからないことは教えてください」という姿勢で向き合えますから、対等な立場でパートナーシップが組めることも大事な要素でした。

よく聞く話なのですが、日本企業のなかには、「新しいテクノロジーを国内の競合他社に渡さないため」という排他的な目的で海外企業と組む場合もある。それでは「広く交通課題を解決する」というViaのミッションとはかけ離れてしまいますよね。異業種と協業するときは、「発注-受注」の関係ではなく、お互いにWin-Winのパートナーシップを組むべきです。

2018年8月より1年間行われた実証実験では、森ビルの社員約1,300人を対象に、無償利用できるオンデマンド型シャトルサービス「HillsVia」が運行。六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズをはじめ、同社社員に需要のあるエリア内で有用性などが検証された(画像提供:森ビル株式会社)

チャン:太郎さんは、非常に早い段階で日本進出の課題を見通してくださいました。現在ほどBtoBやBtoGのビジネスモデルが確立していなかったタイミングにも関わらず、日本の交通と都市がどう関わるべきかをアドバイスしてくださったことに感謝しています。

HIP:Viaは森ビルに対して、どのような印象を持っていましたか?

チャン:短期利益を求める企業と長期利益を求める企業がありますが、私たちのビジネスモデルの場合、短期利益を求める企業とパートナーシップを組むのは難しい。ダニエルも、事業の成長には辛抱強さと「行くときに行く」勢いの双方が大事だと言っています。その点、森ビルは何年もかけて都市開発をする文化的背景がありますので、強いシナジーを感じました。

自社のビジネスモデルに誇りを持つ企業。尊重しながらシナジーを生むには?

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