「新しいもの」へのアレルギー反応を引き起こさずに、日本企業を説得するコツとは?
HIP:実証実験が行われた2018年当時は、まだViaのようなサービスも一般的ではなかったと思います。児玉さんは、森ビルをどのように説得したのですか?
児玉:森ビルに限らず多くの日本企業に共通することですが、「新しいものはこれまでのビジネスモデルを破壊するのではなく、従来のビジネスモデルの上に成り立つシナジーである」ということを、具体的なイメージが湧くように説明したほうがいいと考えました。
やはりどの企業も、長年磨き続けたビジネスモデルに自信と誇りと安心感を持っていますから、いきなり「新しいテクノロジーを取り入れましょう」「これまでにない事業をつくりましょう」と、具体的なイメージを想起させないままに伝えると、アレルギーが起きてしまうこともあります。
森ビルは先進的な取り組みを好む企業体質なので、むしろ初めから面白がってくれましたが、それでも最初は丁寧なコミュニケーションを心がけました。たとえば、森ビルのビジネスモデルは、賃料で収入を得るBtoBが基本です。ですから、「Viaと協業することで、森ビルが運営する街がほかの街とつながり、エリア内交通の利便性が格段に増し、より多くの賃料が見込めるようになる。さらに街の磁力が高まり、より多くの人が街を訪れるようになる」ということを説明しました。
児玉:また、海外のスタートアップは「ビジョンドリブン」ですから、Viaのビジョンと森ビルの街づくりの理念が共鳴することも重要でした。
たとえば六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズをもっと気軽に行き来できる仕組みがあれば、森ビルが目指す「より豊かな都市生活」を実現する第一歩になるでしょう。「未来の街はこうなればいいよね」という未来像に向けて、両社が足並みを揃えられるように、お互いのビジョンのすり合わせを行いました。
HIP:従来の日本企業の考え方やビジネスモデルを尊重することが大切なのですね。
児玉:海外企業が日本進出するときには、自分たちのビジネスモデルを押し売りしてはいけません。日本企業のビジネスモデルを理解したうえで、そこにどうシナジーを提供できるかを説明することが重要でしょう。
HIP:一方、Viaが日本進出で課題に感じたことは何でしょうか。
チャン:地域によってさまざまな交通事業者がいるのが日本の特徴であり、私たちの課題だと考えました。鉄道会社も多く、バス、タクシー会社に至っては市単位で会社が存在している。私たちにとってはたくさんの機会があると同時に、さまざまな交通事業者と話をさせていただきながら合意へと至る必要があるでしょう。それを理解していますので、引き続き、多くの対話を重ねていきたいと思っています。
また、日本企業は自前開発を好み、パートナーシップも日本の企業と組むことを望むカルチャーがあると感じています。日本企業特有のバックグラウンドについても、太郎さんから多くのアドバイスをいただきました。とてもありがたかったですね。
児玉:日本企業はややこしいですからね(笑)。双方に話をするときは、通訳としてあいだに入るだけではなく、情報を伝える順番や根回しにも気を配りました。お互いのカルチャーやビジネスモデルを知っているがゆえに、「この段階でこの情報を伝えたら、パートナーシップが前に進まないな」というタイミングもあるわけです。
もちろんそれらは最終的に種明かしされるものですが、互いへの理解が深まり、「同じ釜の飯を食う」ようになったあとであれば、大きな問題ではありませんからね。
「未知の分野は得意な企業と組む」。その意識が進化の第一歩となる
HIP:森ビルとの実証実験を経て、2019年には伊藤忠商事と新たなパートナーシップが結ばれました。今後の日本進出の展望を教えてください。
チャン:現在の日本は、高齢者や交通弱者に対する課題意識が高まり、同時にMaaS(Mobility as a Service)への社会的関心も深まっています。それらを背景に規制緩和の動きが進むと感じており、ビジネスとしてもチャンスがあるでしょう。日本ではとくに、高齢者向けサービスや交通過疎地域、企業向けのシャトルバスなどに高いニーズがあることを理解していますので、これからフォーカスしていきたいですね。
HIP:Viaの事例から日本企業が得られる学びとは何でしょうか?
児玉:Viaは、世界中のさまざまな都市で培った素晴らしいテクノロジーを持っています。いくら日本企業が「自前主義」で成長してきたとはいえ、グローバルプラットフォームで蓄積したデータやアルゴリズムを、国内でゼロからつくるのは現実的ではないでしょう。
もちろん「自前主義」で守れるものも大きいですので、そういった企業を否定するつもりはありません。ですが森ビルのように、自分たちと異なる専門知識やノウハウを持つ企業と連携するメリットを理解し、「未知の分野は得意な企業と組もう」と思う企業が増えれば、もっと多くのものを取り入れることができると思います。
今後、Viaは日本でさらに多くのパートナー企業を見つけるでしょう。そして日本でサービスが育てば、いまは難しい交通事業者との協業も模索できる。
それに、Viaの参入によって国内の事業者が危機感を抱けば、事業進化のスピードが上がり、ひいては日本全体が進化します。何より、人々がもっと便利に暮らせるようになりますよね。私たちもそんなビジョンを目指して、パートナーシップを支援していきたいと考えています。同じ北極星を目指せば同じ方向を向ける、というのはシェアライドと同じですから(笑)。
チャン:そのとおりです(笑)。Viaのカルチャーは、「協業することで、より早く、確実に目的地へたどり着ける」ということ。日本でも強力なパートナーシップを前提に、サービスを広げていきたいです。