INTERVIEW
テレ東の存在意義とは?伊藤隆行Pと工藤里紗Pらが新番組で挑む日本改革
伊藤隆行(株式会社テレビ東京 制作局 クリエイティブビジネス制作チーム 部長 クリエイティブプロデューサー) / 工藤里紗(株式会社テレビ東京 制作局 クリエイティブビジネス制作チーム)

INFORMATION

2021.04.22

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2021年3月29日、テレビ東京の新番組『巨大企業の日本改革3.0「生きづらいです2021」〜大きな会社と大きな会社とテレ東と〜』(以下、『巨大企業の日本改革3.0』)がスタートした。世の一人ひとりが感じる「生きづらさ」を解決すべく、大企業と大企業、そしてテレビ東京が手を組み、イノベーションを模索していく同番組。虎ノ門ヒルズビジネスタワーにある、大企業の新規事業創出を目的としたインキュベーションセンター「ARCH」を舞台にした、「経済リアリティSHOW」だ。

この番組の仕掛け人は、テレビ番組『池の水ぜんぶ抜く大作戦』『モヤモヤさまぁ〜ず2』などを手がけるチーフプロデューサーの伊藤隆行氏と、『シナぷしゅ』『昼めし旅』『生理CAMP』などを手がけるプロデューサーの工藤里紗氏。伊藤氏は、2020年4月にテレビ東京の新部署として設立されたクリエイティブビジネス制作チームの部長を務め、工藤氏はそのメンバーでもある。

今回はお二人に、新番組の誕生秘話や見どころについてうかがいつつ、新部署設立から1年間にわたる挑戦についても振り返っていただいた。新たな取り組みを通じて見えてきたテレビ業界の課題、そしてテレビ東京のパーパス(存在意義)とは?

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

大企業の新規事業を応援したい。新番組に込めた思いとは?

HIP編集部(以下、HIP):新番組『巨大企業の日本改革3.0』は、なぜスタートアップではなく、大企業の新規事業によるイノベーションに着目したのでしょうか?

工藤里紗氏(以下、工藤):きっかけはまさに、ARCHの存在を知ったことですね。ベンチャー企業が集まるスペースならば、さほど珍しくありませんが、ARCHは入居者をあえて「大企業の新規事業部門」に限定しているところが面白い。実際、60社以上(2021年4月時点)もの大企業が集まるインキュベーションセンターは世界初ということで、そこに可能性を感じました。

また、イノベーションというと、どうしてもスタートアップの取り組みばかりが注目されますが、現在の日本の骨格を支えているのは大きな会社であることもたしかです。だからこそ大企業には自社の延命だけを考えるのではなく、次々と新しいものを生み出してほしい。そんな期待感と応援の意味を込めて、この番組をつくりました。

『巨大企業の日本改革3.0』は、毎週月曜日24時30分から放送。写真は主な出演者。左から、アンカースター代表取締役の児玉太郎氏、MCを務めるタレントの加藤浩次氏、テレビ東京の伊藤隆行氏(画像提供:テレビ東京)
株式会社テレビ東京 制作局 クリエイティブビジネス制作チームの工藤里紗氏

HIP:タイトルに「日本改革」という、とても大きなテーマを掲げている一方で、副題では「生きづらさ」という個々の問題にもフォーカスしています。これにはどんな意図がありますか?

工藤:おっしゃるとおり、「日本改革」だけ聞くと、「日本全体の大きな社会課題を解決する」といった印象をお持ちになると思います。ただ、それだと広すぎて、具体的に何を解決してくれるのかイメージしづらいですよね。ですから、今回の副題をつけたのです。個々が生活のなかで感じる不便や不満という「不」にも寄り添うことで、視聴者のみなさんにも自分ごととしてリアルに捉えていただけるのではないかと考えました。

いまの時代、生きづらさは多かれ少なかれ誰しもが抱えていて、私にも伊藤にも、MCの加藤浩次さんにだってある。大きなパワーを持つ企業にこそ、そうしたミクロの「不」を解決してほしい、見えづらい人たちの声に寄り添ってほしいと思うんです。

仕事、働くとはなにか。収録のたびに立ち返る、会社と自分の「存在意義」

HIP:個人の不を解消することは、その人と似た多数の生きづらさを解消することにもつながりますからね。その意味でもミクロな声に目を向けることは、とても大事なことだと思います。

伊藤隆行氏(以下、伊藤):そうですね。だから、もはや「日本改革」という番組タイトルを変えても良いかなと、感じ始めています(笑)。番組のなかで「パーパス(存在意義)」という印象的な言葉が出てきたので、そっちの方向で考えてみようかなと。

株式会社テレビ東京 制作局 クリエイティブビジネス制作チーム部長 クリエイティブプロデューサーの伊藤隆行氏

工藤:4月に放送スタートしたばかりですけど……、もう変えますか(笑)。

伊藤:良いんじゃない? そもそもこの番組自体が誰もなにも見えてないところから始まっているので、やりながら変えていくのもアリかなと思います。

いまはARCHにいる企業を突撃訪問し、各社の取り組みを取材していくスタイルをとっていますが、すでにそこで聞いた話から思いもよらない方向に展開していますし、今後はさらにそうなっていく気がします。「経済リアリティSHOW」と銘打っているとおり、非常にドキュメンタリーの側面が強い番組なんですよね。

HIP:たしかに、第2回の放送ではMCの加藤浩次さんの手引きで急遽、企業同士の即席ミーティングが実現するなど、予定調和ではない展開がありました。

伊藤:おそらく、加藤さんご自身も吉本興業という大きな組織を離れたことで、新しいなにかを模索している最中なのかもしれませんね。番組をとおして自分の課題を見つけ、解決しようとしている。勝手ながら、そんな熱意を感じています。

2021年3月29日に放送された番組の初回の様子(画像提供:テレビ東京)

HIP:番組には伊藤さんご自身も出演されています。これまでの放送では、伊藤さんが所属するテレビ東京やテレビ業界全体の課題について考えるようなシーンもありました。番組が、ご自身の刺激になったり、今後の仕事におけるヒントになったりしている部分もありますか?

伊藤:もちろんです。新規事業って、まさに会社や自分自身のパーパスを問い直すことでもあると思うんです。そして、ARCHにはそれを真剣に考え続けている人たちが集まっている。収録のたびに、「仕事の原点」に触れているような実感があります。ぼく自身も、仕事とはなにか、働くとはなにかを考えさせられるし、テレビ東京という会社のパーパスも問われているような気がします。

テレ東のクセ者集団「クリエイティブビジネス制作チーム」とは?

HIP:この番組は、制作局内に新設された「クリエイティブビジネス制作チーム」が主体となって制作されているとうかがいました。2020年4月に、10人の「クセのあるプロデューサー」を集めて組織されたとのことですが、どんな目的でつくられたチームなのでしょうか?

伊藤:これまで、ぼくら制作局の仕事は「地上波でウケる番組をつくること」でした。しかし、いまはインターネット上の動画配信サービスが台頭し、テレビ業界全体が変革期を迎えています。従来のビジネスモデルに依存しているといずれ立ち行かなくなってしまうという危機感があるんです。

そこで、われわれが持つコンテンツ制作の知見をテレビ放送だけでなく、オンライン配信やイベントなどさまざまな領域に横展開していこうと。それを実現するために、できた部署がクリエイティブビジネス制作チームです。

HIP:同部署は、数々の人気番組をつくってきた伊藤さんがトップとして動いているそうですね。設立から1年が経ちましたが、これまでどんな動きをしてきましたか?

伊藤:まずは社内の各部署に「週イチで打ち合わせをしませんか?」と呼びかけました。というのも、これまでのテレビ東京は縦割りの組織で、部署間のコミュニケーションも活発とはいえなかった。そこに横串を刺すというか、セクションの垣根を越えて新しい仕事をつくっていく必要があるだろうと。とはいえ、これはぼくが入社した25年前から感じていたことなんですけどね。

HIP:長年変わらなかった縦割り組織に横串を刺すことで、部署間のシナジーを生んでいこうとしたのですね。

伊藤:はい。テレビ東京には営業や宣伝、イベント企画などさまざまな事業部があり、グループ会社のなかには配信や通販、ウェブサイトを制作しているところもあります。それぞれのセクションとぼくら制作チームが組むことで、放送以外にもコンテンツの力を広げていけるのではないかと考えました。

工藤:じつは過去にも「新しいビジネスをつくる部署」が、いくつか立ち上がってはいたんです。でも、他部署の人間からすると実際になにをやっているのかよくわからなかったり、そこにいるメンバーの顔が見えなかったりして、うまくいかない部分がありました。だからなのか、伊藤さんはまず自分が集めた同部署のメンバーを紹介する謎の資料をつくって、社内にばらまいたんです。

伊藤:社内だけでなく、他局にもばらまきました。要は営業活動ですよね。社内外に向けて、「ぼくらを使ってくださいね」というアピールをしたんです。「ぼくらは制作局内のセクションだけど、会社や部署に関係なくみなさんの仕事に関わりますからね」ってことを伝えたかった。

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