INTERVIEW
カニバリも気にしない。東京電力が新規事業にベンチャー経営者を招いた理由
妹尾賢俊(TRENDE株式会社 代表取締役社長) / 赤塚新司(東京電力ベンチャーズ株式会社 代表取締役社長)

INFORMATION

2019.12.20

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スピードを損なわないために、事業の進捗報告は2週間に一度の短スパンで

HIP:逆に、大企業ならではの面倒ごとはありますか?

妹尾:じつは、それほどありません。「大企業の新規事業には根回しが必要だ」といった話も聞きますが、私はまったくやっていませんね。そこはTRENDEを見てくださっている赤塚さんが、うまく橋渡しをしてくれています。

赤塚さんとは2週間に一度、1、2時間程度のミーティングを行っています。「こんな事業をやります、こういう投資や採用をします」といった、事後報告ベースの共有ですね。

事前の承諾もほぼ不要で、「あとは実際にやってみてください」と言われるだけ。縛りはほとんどありませんが、そうでないと私のような人間を外から呼ぶ意味もないのでしょう。

赤塚:新規事業は、緻密に計画したからといって蓋然性が高まるものでもありませんからね。私はTRENDEの進捗をグループに報告するとき、数字や改善点のほかに、妹尾さんの目指す世界観を翻訳して伝えています。そのためには、密なコミュニケーションが欠かせません。妹尾さんからすると、鬱陶しいかもしれませんが(笑)。

妹尾:そんなことはないですよ(笑)。ただ、2週間ごとの情報共有は、ベンチャーの感覚からすると圧倒的に多いですね。新規事業はすぐに成果が出るわけではありません。それに、PDCAをワンサイクル回すのに3か月はかかりますから、報告は3か月に一度くらいが基本。立ち上がったばかりのベンチャーにも関わらず、このペースでしっかりと見ていただけるのはありがたいです。

赤塚:妹尾さんが描いている未来像や足りないものをその都度投げかけてもらって、タイムリーに意思統一をしていきたいんです。簡単にはいかない新規事業ですから、つねに「次にどう活かすか」を考えながら、成功や失敗を繰り返すことが大事なのではないでしょうか。

実際に動いてみていまいちだと思ったら、当月中にでもやり方を変えていったほうがいい。数か月後の相談の機会までに方法を考えて、そこから相談して……というステップを踏むと、なかなか前に進まないでしょう。

新規事業はリソースの限られたチャレンジ。脇道にそれないためのサポートが大切

HIP:TRENDEは、東京電力グループはからどのようなサポートを受けているのですか?

妹尾:もっとも心強いのは、ヒューマンリソースのサポートです。TRENDEは従業員の半数がエンジニアなのですが、グループから「電気のプロ」が数人出向してきてくれています。彼らがいなければそもそもシステムがつくれず、事業が成立しませんでした。

サポートとは少し違いますが、子会社にありがちな、上から「これをやっておいて」と押し込まれる仕事が一切ないところもありがたいですね。限られたリソースでチャレンジする新規事業には、脇道へそれている余裕などありません。私たちが余計な仕事をしなくてもいいように、赤塚さんが動いてくださっているのだと思います。

HIP:そのような環境づくりは、「新成長タスクフォース」時代から続く取り組みの賜物でしょうか。

赤塚:まだまだ試行錯誤中ですけどね。構造改革や規制緩和があり、電力会社としてチャレンジできる領域が広がっている一方、挑戦する方法なんて誰も知らない。どのように新規事業を育てていくべきか、私たちもトライアンドエラーの真っ最中です。

潮流には誰も逆らえない。手を取り合って、次世代のエネルギー市場をつくる

HIP:TRENDE設立から約2年が経ちました。現在の手応えはいかがですか。

妹尾:おかげさまで、少しずつ上向いている実感があります。当面は「あしたでんき」や「ほっとでんき」のサービスを走らせながら、P2P電力取引の実装実験を続けていきます。また、さまざまな自治体や鉄道会社などが、電力ビジネスに参入しようとしている。今後は、たとえばシステムの基盤を提供するなど、参入障壁を下げるような裏方の仕事もTRENDEで担えるのではないかと考えています。

HIP:ある意味、みずからライバルを増やすことになってしまうのでは?

妹尾:小売という視点で見れば、ライバルかもしれませんね。ですが、たとえば効率的なプラットフォームをつくり、そのシステムを使っていただくことで、利用者のデータを得ることができる。「電気を売って稼ぐ」だけでは成り立たなくなる未来を見据え、いちプレイヤーではなく、プラットフォーマーになることも考えています。

赤塚:じつは、過去にも似たような話があったんですよ。二十数年前に電力の規制緩和が行われたときも、「発電やメンテナンスの方法を教えてください」と、東京電力に多くの相談が寄せられました。

当然、「敵に塩を送るのか」という反対意見もありましたが、そういった仕事は私たちがやらなかったとしても誰かがやること。ならばどこよりも先にやってしまい、みんなが効率的に電力を使える世界を、他企業と一緒につくっていくほうがいいと思います。潮流には誰も逆らえませんから。

HIP:国内の事業者で一丸となってエネルギーの未来をつくっていこう、と。

赤塚:はい。「自分たちだけでできる」なんて、偉そうなことを言っている場合ではないのです。法規制に守られていた20年前と、状況はまったく異なりますからね。国内最大手の驕りなど1ミリもありません。

TRENDE以外にも、マネタイズが始まった新規事業が少しずつ生まれつつあります。まだヨチヨチ歩きの状態ですので、一つひとつをビジネスとして自立させていくことが急務の課題ですね。今後は生まれた事業をどのように評価するかも大きな課題だと感じています。

目指すは「両利きの経営」。新規事業を育て、やがて新たなエコシステムを創出したい

HIP:最後に、東京電力ベンチャーズの今後のビジョンを教えてください。

赤塚:東京電力ベンチャーズはホールディングスのグループ企業である一方、ホールディングスにとっては投資先のひとつ。ノウハウや利益をグループに還元するのも当社のミッションですが、いまはまだ、その種をまいている途中です。一つひとつの芽が出てから、エコシステムの創出につなげていきたいです。

HIP:直近の成果を求めるのではなく「芽が出るのを待つ」という意識は、グループにも浸透していますか?

赤塚:丁寧に説明しながら、浸透させている最中です。新規事業の経験がない人からは「始めれば何かができるだろう」と思われがちですが、いきなり何十億の売上にはなりません。ファクトを見せながら、現状や今後のビジョンを共有するようにしています。

経営者には、既存事業を進化させることと、新しくチャレンジすることを両立した「両利きの経営」が求められるもの。そのバランス感を見て、外部の方々とも手を組みながら、生活に密着した新たなエネルギーサービスを創造していきたいです。

Profile

プロフィール

妹尾賢俊(TRENDE株式会社 代表取締役社長)

1997年、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、コーポレートファイナンスなどを担当。その後、2007年にソーシャルレンディングサービスを提供するmaneo株式会社、2013年にブロックチェーン開発を担う株式会社Orbを創業。2017年8月より現職。

赤塚新司(東京電力ベンチャーズ株式会社 代表取締役社長)

1995年、東京電力株式会社(現東京電力ホールディングス株式会社)入社。2018年から、新規事業の創出や国内外のベンチャー投資などを行う社内組織「新成長タスクフォース」事務局長を務めたのち、同年7月より現職。

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