INTERVIEW
『東京オリンピック』を無駄にしないために。日本のスポーツ界に必要なマーケット感覚と人材育成
半田裕氏 (株式会社OSS(Office Strategic Service) 代表取締役社長)

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2017.05.31

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『東京オリンピック・パラリンピック』が開催される2020年に向けて、いま日本のスポーツ業界に大きなビジネスチャンスが広がっている。しかし、そのチャンスを生かすことができる、スポーツビジネスに精通した人材が不足しているという問題は、あまり知られていない事実だろう。スポーツへの情熱だけでなく、長期的な視点とビジネス感覚を持ち合わせた人材が求められているのである。

そんな問題を解決するべく、株式会社OSSの代表、半田裕氏はスポーツビジネスの場で活躍できる人材の育成に取り組んでいる。ネスレ日本、IMG、アディダス、ナイキといった外資系企業でキャリアを積み、スポーツビジネスの最前線で知見を体得してきた彼に、今後の日本のスポーツ業界がとるべき道筋を聞いた。


取材・文:宮田文久 写真:岩本良介

いま日本では、スポーツビジネスに携わる能力を持った、次世代の人材が圧倒的に不足している。

HIP編集部(以下HIP):『東京オリンピック』に向けて、スポーツ業界に注目が集まるなか、ビジネス面からサポートできる人材の不足が叫ばれています。そんななか、半田さんが経営される株式会社OSSではスポーツビジネスに特化した人材を育成する事業を行なっていると伺いました。

半田裕氏(以下半田):株式会社バンタンとの協業で、2014年より「バンタンスポーツアカデミー」を開講しています。おっしゃる通り、いま日本では、スポーツビジネスに携わる能力を持った次世代の人材が圧倒的に不足している。なので、私たちはこうした人材の育成をアカデミー事業として行っています。

同時に、スポーツのマーケティングに関するコンサルティングも行っています。『東京オリンピック』に向けて、多くの企業がスポーツ関連のスポンサーに加わっています。スポンサーになるということはつまり、自社の企業価値やブランド価値を向上させるために、スポーツを通してマーケティングを行っているということですよね。でも、そのマーケティングをきちんと成功させられる人材が足りていないんです。なので、弊社がスムーズに進むよう調整をしています。

株式会社OSS(Office Strategic Service)の代表取締役社長 半田裕氏

HIP:アカデミー事業とコンサルティング事業を同時に展開していくという事業プランはどのようにして生まれたのでしょうか?

半田:はい。私はこれまでスポーツビジネスを行う企業を渡り歩いてきたなかで、草の根活動とも呼べる小さなものから大規模なビジネスまで、様々な立場から事業を経験してきました。その経験が大きく影響しています。

まず、1980年に外資系企業であるネスレ日本に入社し、営業とマーケティングの基礎を学びました。そこで社会人アメリカンフットボール協会の運営をボランティアで手伝うようになり、ガラガラだった会場を最終的に東京ドームで開催できるまでに大規模化できたんです。1998年にはアディダス ジャパンに入社し、同年の長野五輪、そして2002年に日韓共催で行われたサッカーW杯に携わりました。

このような経験からスポーツによって「人を動かす」ことの快感に気づいたんですね。同時期に少年少女向けのサッカー教室の運営を行なっていたのですが、そこで子どもたちと向かい合いながら未来に向けて種を巻くような、スポーツに関する教育事業の面白さも経験しました。

HIP:そうした経験から、現在のような問題意識をお持ちになったのですね。スポーツ業界における人材不足という現状をどう考えていらっしゃいますか。

半田:大きな問題だと思いますね。日本のスポーツ市場は2002年が約7兆円、2012年は約5.5兆円と縮小傾向にあるんです(日本政策投資銀行発表による)。いっぽう、同時期にアメリカのスポーツ市場は大きく成長し、日常的にスポーツを楽しむ人も増えています。日本はスポーツというコンテンツをビジネスとしてうまく機能させられていないのです。

ただ、いまの状況が変わる兆しはあるんですよ。いずれにしても2020年の『東京オリンピック』が転換点になるんじゃないかと考えています。

「スポーツ=体育」という価値観を脱却すれば、日本のスポーツは大きく変わる。

HIP:2020年以降、日本のスポーツ市場はどのように変化していくのでしょう?

半田:2011年に新しくスポーツ基本法が定められました。これは1964年の『東京オリンピック』に向けて制定されたスポーツ振興法を50年ぶりに全面改正し、国家戦略として「スポーツ立国」を目指すものとなっています。そのうえで2015年にスポーツ庁が設置されたわけですが、こうした流れのなかで変わろうとしているのが「体育」に縛られていた日本のスポーツのあり方です。

HIP:「体育に縛られていた」とはどういうことでしょうか?

半田:これまでの日本において、スポーツは「体育」の延長線にあるものだとされてきました。教育的な面や、技術向上のための訓練が大切だと考えられてきたんですね。そのためスポーツを通して地域と連携したり、ビジネスを通してスポーツ文化を発展、成長させたりするような観点が抜け落ちてしまっていたわけです。

HIP:スポーツとビジネスは、あまり関係のないものとして捉えられていたんですね。

半田:はい。こうした状況を変えるために、国が主導して「スポーツ」という言葉の意味の転換が目指されています。たとえば首相官邸が推進している「官民戦略プロジェクト」でも「スポーツの成長産業化」が謳われ、競技団体の経営力強化、新事業や新市場の創出、経営人材の育成などが、具体的な施策としてあげられています。

また、みんなが気軽にスポーツに取り組める「総合型地域スポーツクラブ」という場が日本全国に整備されていきます。各地域にはそれぞれ特色のあるプロのスポーツチームや団体がすでにありますから、この場所とうまく連携すれば、新しいスポーツ社会の基盤となっていくはずです。『東京オリンピック』を契機に、2030年、2040年へと続く、大きな流れをつくっていければ、日本のスポーツ業界は変わっていくでしょう。

日本では、プロスポーツの世界も「体育」に縛られている?

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