プロスポーツの世界にも、「体育」の価値観が浸透している。
HIP:「体育」の価値観が、日本のスポーツ文化の根底にあるというのは、プロスポーツの現場でも感じることなのでしょうか?
半田:そうですね。たとえばプロの試合でも、その試合内容を見せるだけで手いっぱいという場合がほとんどです。お客さんの満足度が試合の結果や内容だけに左右されると考えていて、そのほかの「観客を満足させる体験」をつくりだそうとする工夫が十分にされていないと感じます。
HIP:スポーツを競技として捉える側面が強く、ビジネスの観点がすっぽり抜け落ちているということですね。
半田:そのような問題を改善しようという動きも実際にあります。スポーツ庁と経済産業省が主催する「スポーツ未来開拓会議」の改革ビジョンのなかに、スタジアムを核とした街づくりを推進する「スタジアム・アリーナ構想」というものがあります。観戦者のカスタマーエクスペリエンスを向上させ、飲食やグッズ販売など、スポーツ関連事業の売上を拡大させていこうというものです。
アメリカや欧州と比較すると、観戦者一人当たりの収益率が大きく遅れをとっているので、日本のスポーツ市場においてもこの点を強化していこうとしているんですね。「スポーツ未来開拓会議」では、2020年に約10.9兆円、2025年には約15.2兆円を目指して、日本のスポーツ市場の規模を拡大したいと発表しています。
「体育」的な思考を持った人とも、粘り強く交渉できるマインドを養っていきたい。
HIP:そんな未来に向けて、バンタンスポーツアカデミーではどのようなことを教えているのでしょうか。
半田:端的に言えば、実践的なマーケティングです。これは決してスポーツに特化したマーケティングということではありません。むしろ、どんな分野でも応用可能なマーケティングを学んでもらうことに注力しています。
マーケティングは、さまざまな課題をスムーズに因数分解できるフォーマットです。スポーツ業界には、アスリートのマネージメントからPR活動、店頭販促やコンシューマーイベントなどいろんな仕事がありますが、そのすべてでマーケティングのメソッドは通用します。
HIP:そんななか、どんな人材を育てていきたいとお考えですか?
半田:一連のマーケティングのコミュケーションプランをつくりだし、具体的な結果を残せる人が目標です。2020年、『東京オリンピック』が無事に終了したとき、もし私がスポンサー企業の責任者ならば、必ず部下に聞くでしょう。「今回のマーケティングによるわが社の成果は何で、2024年の夏季オリンピックに向けて、次にどのような施策を考えるべきだろうか」と。そのときに確固たる答えを導き出せる人を、日本で生み出していきたいですね。
HIP:まさに即戦力を育てるアカデミーなんですね。
半田:ただ、そこから先はまた別の能力が必要になることもあります。きちんとしたマーケティングができる優秀な人でも、「体育」的な思考を持った人の多い日本のスポーツ業界と噛み合わず、実践ができないケースがある。そんな人たちとも粘り強く人間関係を構築し、プロジェクトを進めていけるマインドも同時に養っていきたいですね。
「歓喜の一瞬」を届けられることが、スポーツの仕事に携わる最大の魅力です。
HIP:半田さんがスポーツビジネスに取り組むモチベーションとはどのようなものでしょうか? また、ビジネスを通じてどのようなことを実現していきたいと考えていますか?
半田:これまでのキャリアのなかで、世界の一流選手のマネージメントや、キッズスクールの運営まで、さまざまなスポーツの現場に携わってきました。真剣にスポーツをプレーしている人もいれば、観ることが好きな人もいる。スポーツにはいろんな魅力がありますが、みんな「歓喜の一瞬」って身に覚えがあると思うんです。サッカー日本代表の試合で選手がゴールを決めてサポーターが湧く瞬間、お子さんが地元のサッカークラブでゴールを決めて家族の方が喜ぶ瞬間、あるいは自分が草サッカーでゴールを奪って嬉しくなる瞬間も、すべてはスポーツがもたらしてくれる「歓喜の一瞬」ですよね。
その「歓喜の一瞬」を届けられることがスポーツの仕事に携わる最大の魅力だと思いますし、そうしたスポーツの魅力をきちんとビジネスの側面からサポートできる人を育てていきたいと思っています。