INTERVIEW
ガンダムを生んだ日本は宇宙ビジネス先進国になれる? SPACETIDE・石田真康氏に聞く
石田真康(一般社団法人SPACETIDE 共同設立者 代表理事 兼 CEO)

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2025.06.23
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:波多野匠 編集:CINRA・藤﨑竜介

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宇宙は大国だけのものじゃない。世界各国が宇宙ビジネスに参入

HIP

昨今の宇宙産業について、石田さんが注目している潮流を教えてください。

石田

3つあると思います。1つ目は、ずばり「スペースX」です。宇宙ビジネスの世界を独走し続けているスペースXは1つの企業というより、もはや潮流と言っていい。ロケットでも衛星通信の分野でも独走していますし、有人宇宙旅行などもほぼ一人勝ち状態ですよね。

1社の独走というとネガティブに考えられがちですが、捉え方次第だと思います。私個人としては、イーロン・マスクが宇宙ビジネスという重い扉を開けてくれたと思っていて。先陣を切って、環境を整えてくれた。IT業界でたとえれば、光ファイバーを通してくれたようなものです。そのうえで、新しいプレーヤーは自分なりのビジネスモデルやコンテンツで勝負していけばいい。

HIP

なるほど。残る2つはいかがでしょうか。

石田

2つ目は「安全保障」です。つい先日も、米国のトランプ大統領が「ゴールデン・ドーム」という宇宙技術を活用したミサイル防衛システムの構想を発表しました。それ以外にも世界各地の軍事作戦でさまざまな衛星画像が使われていて、数年前に比べて安全保障と宇宙の距離が確実に縮まっている。

米国の宇宙スタートアップの多くも、安全保障関連のビジネスを展開しているようです。投資の規模も急激に拡大していますし、今後も伸びていくでしょうね。

石田

3つ目は、いろいろな国が宇宙開発に乗り出していること。昔は宇宙開発というと一部の大国の専売特許というイメージがあったと思いますが、いまでは70くらいの国・地域が宇宙機関を持っていますし、SPACETIDEのカンファレンスにも、30か国以上が参加しています。

なかでも中東は勢いがありますね。それから、2023年に世界で4番目の国として月着陸に成功したインドも宇宙スタートアップが急増していて、今後の宇宙開発、宇宙ビジネスでのダークホースになると目されています。

HIP

もはや宇宙は、米国や中国、ロシア、欧州だけのものではないと。

石田

そのきっかけをつくったのも、やはりスペースXではないでしょうか。ロケットのコストを大幅に下げ、打ち上げ回数を増やせるようにしたことで、多くの国や人にとって宇宙が近くなったのだと思います。

宇宙ビジネス先進国になれていない日本。アストロスケール、ispaceなど先駆者に期待

HIP

日本の宇宙開発、宇宙ビジネスについても聞かせてください。一時期は宇宙開発先進国というイメージがあったと思いますが、現状をどう見ていますか。

石田

いまも宇宙先進国であることは変わらないと思います。参入する国が増えているとはいえ、自国でロケットをつくって打ち上げられる国は、そう多くはありませんから。

HIP

日本でも宇宙ビジネスのプレーヤーは、着実に増えていますよね。

石田

そうですね。SPACETIDEを設立した10年前、私たちは「2030年までに宇宙関連のスタートアップを50社に増やす」という目標を掲げていました。それが、現時点ですでに100社を上回っているんです。ispace、QPS研究所、アストロスケール、Synspectiveなど、上場を果たす宇宙スタートアップも出てきていますしね。

ただ、宇宙先進国ではあっても「宇宙ビジネス先進国」にはなりきれていないのが実情です。いま挙げた日本のトップランナー企業も、収益の規模を見ると米国の宇宙スタートアップにまだまだおよばない。日本全体として、技術競争力が必ずしも産業競争力に直結していないというか……。

石田

なので今後は、こうした国内のトップランナーたちが「しっかり稼ぐ」ことが大事だと思います。トップを走る企業が稼げないと、日本の市場が停滞して後発のフォロワー企業も稼げなくなりますから。だからこそ、そういったトップランナーを応援しつつ、各社の業績を注視したいと思っています。

HIP

ispaceは残念ながら、月面着陸に失敗してしまいましたね。

石田

成功すればアジア企業で初快挙になったので、残念です。しかし、2023年の初挑戦の失敗から立ち上がって、再び挑んだこと自体に意義があると思います。

今回得られた経験やデータなど財産はたくさんあると思うので、2027年の次回に向けて前進が続くことを期待しています。

HIP

上場スタートアップ以外で注目している国内企業はありますか。

石田

1つ挙げるとすると、個人用の宇宙ステーションや宇宙ロボット用オペレーティングシステム(OS)などを手がける、スタートアップのスペースデータですね。「宇宙の民主化」を掲げる理念と、デジタルツイン、ロボティクスなどを活用する技術力にポテンシャルを感じます。

スペースデータが手がける宇宙ステーションなどのイメージ画像
石田

あとは、楽天モバイル。米国の宇宙スタートアップと組み、スマートフォンと人工衛星の直接通信を可能にして、山岳地帯や離島の通信環境を改善しようとしています。社会課題を解決に導く事業として、有望なのではないでしょうか。

宇宙飛行士だけではなく一般人も主役に。新時代を体感できる『SPACETIDE 2025』

HIP

楽天グループのような、日本の大企業も動き始めていますね。

石田

宇宙ビジネスに投資する国内の大企業は急増しています。SPACETIDEの協賛企業も増え続けていて、前回は自動車メーカーや電機メーカーなど、さまざまな業種・業態の約30社から協賛を得ることができました。

ここまで多種多様な業界が宇宙に関心を寄せている国って、珍しいんですよ。これは日本ならではの特徴だし、圧倒的な強みといえると思います。個人的な感覚では、どの企業の経営層にも必ず1人は「宇宙好き」がいますね。

海外の関係者からもよく、「なぜ日本人はこんなにも宇宙に惹かれるビジネスリーダーが多いのか?」と聞かれますが、理由は私にもよく分かりません。『機動戦士ガンダム』の影響かもしれないし、1000年以上も前に『竹取物語』が書かれたくらいだから、日本人は元来、宇宙への関心を抱きやすい民族なのかもしれない。

ちなみに、2025年7月7日から虎ノ門ヒルズで開催する宇宙ビジネスカンファレンス『SPACETIDE 2025』では、ガンダムシリーズのアニメーションを手がける富野由悠季監督も登壇予定です。せっかくなので富野監督に、ガンダムが日本のビジネスリーダーに与えた影響について、直接聞いてみたいですね。

HIP

そのSPACETIDE 2025について、見どころを教えてください。

石田

SPACETIDEは今回で10周年を迎えます。 “The Next Decade: Unlocking Space for All Humanity”と銘打ち、宇宙ビジネスの次の10年を議論しようというのが、基本コンセプトになっています。

スペースXのステファニー・ベドナレク氏やブルーオリジンのジョン・コロリス氏といった、日本ではなかなか生声を聞けない世界のトップリーダーも来ますし、その一方で、富野監督のようにエンターテイメントの観点から宇宙を語る人も登壇します。

テーマも「火星を目指す」みたいな話から、「宇宙の民主化」の話、あるいは宇宙安全保障のような重厚な話まで幅広くカバーしているので、より多くの人に楽しんでもらえるはずです。

それから今年からの新たな試みとして、サイドイベントも実施します。本会場の虎ノ門ヒルズの近くに別会場を用意して、国内外の企業、非営利団体、学生団体などが独自に企画したイベントを開催します。

そこでは本会場のプログラムだけではカバーしきれない、よりディープな議論も行われると思います。無料で見られるものもあるので、ふらっと覗いてみて、少しでも興味を抱いたら本会場にも来てほしいですね。

 

 

2025年7月7〜10日に開催する『SPACETIDE 2025』の公式ホームページ
HIP

今後の宇宙ビジネスの展望を聞かせてください。

石田

黎明期に宇宙ビジネスに参入した人たちって、良い意味で「変人」が多かったんです。宇宙を猛烈に偏愛している人とか、巨額の私財を投じちゃう人とか。市場を開拓するフェーズにおいては、そういった猛烈なパワーを持った人たちが不可欠だったわけです。

一方これからは、そういった人たちほど個性的ではなくとも、勝ち抜くための「戦略とスキルを持つ人」が宇宙ビジネスにもっと入ってくると思います。かつてはギャンブル性が高かった宇宙ビジネスも、いまや一定の市場性が見込めるものとして認識されるようになっていますから。

おそらくこの先20年で、数えきれないほどの起業家が宇宙ビジネスに参入して、それによりともに働く人やサービスを使うユーザーも爆発的に増えるはずです。

なのでこれから宇宙分野の主役は、NASAや宇宙飛行士だけでなく、この産業で働いたりサービスを利用したりする一般の人たちになるのではないでしょうか。そんな未来を見据えて、いまのうちから宇宙ビジネスの動向をチェックしておくことをおすすめします。

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プロフィール

石田真康(一般社団法人SPACETIDE 共同設立者 代表理事 兼 CEO)

新卒でコンサルティングファームのA. T. カーニーに入社。2015年にSPACETIDEを立ち上げ、コンサルタントの仕事と並行して活動を推進。2024年にA. T. カーニーを退職し、以降はSPACETIDEの仕事に専念している。

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