「スペースXのスターシップ(大型宇宙船)は、太陽系全体やその周辺までを横断するように設計されている」
2024年、スペースXの創業者・イーロン・マスクは、SNSでこう発信した。民間機が星と星の間を航行するという、かつて「夢物語」だったことが現実化しようとしている。
そうした急速な技術革新に押され、宇宙ビジネスは活況を呈している。スペースXに導かれるように、国内外の多くの企業が参入。民間の通信関連事業から国家主導の安全保障まで、幅広い領域で革新的な技術やシステムが生まれ、関心を集めている。
注目産業といえる宇宙分野で、いま何が起きているのか。7月7日から宇宙ビジネスカンファレンス『SPACETIDE 2025』を東京・虎ノ門で開く石田真康さん(SPACETIDE代表理事兼CEO)に、最新動向を聞いた。
スペースXなど宇宙スタートアップが集まる場で「宇宙ビジネスの扉が開く瞬間」を目撃
- HIP
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石田さんが宇宙関連の仕事をするようになった経緯を、教えてください。
- 石田
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僕は新卒で戦略コンサルティングファームに入社して、29歳までは宇宙と無関係の仕事をしていました。転機は、体調を崩してしまい、約4年間休職・リハビリの日々を送ったこと。自分の人生をあらためて見つめ直して、「後悔のない一生にしたい」「好きなことをやりきりたい」と思うようになったんですよね。
そんなときにふと頭に浮かんだのが、子どもの頃に夢中になった宇宙でした。
何でもいいから宇宙に関わる活動に携わりたいと模索して、見つけたのがホワイトレーベルスペース・ジャパン(現HAKUTO)。月面無人探査の技術力を競うコンテスト『Google Lunar XPRIZE (GLXP)』に参加するためのチームです。2012年にプロボノとしてこのチームに加入したのが、宇宙との接点を持つきっかけでしたね。

- 石田
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その後、チリで開催されたGLXPのサミットで、衝撃的な体験をしまして。世界中から集まった宇宙スタートアップの関係者が、当時ほかでは聞けないような野心的な宇宙ビジネスの話をしていたんです。
同時期に参加した米国の宇宙カンファレンスも、スペースXをはじめとする気鋭のスタートアップが集い熱気に満ちていました。Googleも宇宙スタートアップを買収するなど、新しい扉が開く瞬間ならではの高揚感がありました。
- HIP
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その体験が、石田さんが2015年にSPACETIDEを立ち上げる原動力になったわけですね。
- 石田
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はい。日本で宇宙ビジネスのスターターキーを回すために何かを仕掛けたくて、35歳のときにSPACETIDEを立ち上げました。第1回のカンファレンスのタグラインは「ここに来ると、宇宙ビジネスの新しい潮流がわかる」。チリや米国で感じた熱気を日本にも伝えたい、宇宙ビジネスの認知度を高めたいという思いがありました。
そこから回を追うごとに、日本でも宇宙ビジネスが浸透してきたこともあって、SPACETIDEの目的は「伝える」から「つくる」に変化しています。特にここ数年は、より意思を込めて「産業」をつくっていくフェーズに入っていますね。
- HIP
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そのなかで、SPACETIDEがどんな役割を担っているのですか。
- 石田
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SPACETIDEは人工衛星やロケットをつくるわけではありませんし、投資ファンドでも人材エージェントでもありません。中立的な産業ハブとして、業界の共通課題を解決するのが役割だと考えています。具体的には、「コミュニティ」「ナレッジ」「イノベーション」「ピープル」という4つの課題の解決を目指しています。
- HIP
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4つのなかで、特にニーズが大きいのはどれでしょうか。
- 石田
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いまは「ピープル」、つまり人材ですね。宇宙ビジネスに限ったことではありませんが、とにかく人が足りない。少し前まで、宇宙産業はお金がないことが課題でしたが、政府の手厚い支援策もあり、そこはかなり解消されてきました。
ただ、資金があっても、実際にビジネスを回していくためのプレーヤーがいない。他業種からの転職を促したり、起業家を教育したりと、「宇宙産業で働く仲間」を増やしていく必要があると考えています。