INTERVIEW
aibo復活に秘めた決意。ソニーが12年ぶりにAIロボティクスに挑む理由
松井直哉 / 石橋秀則 / 森田拓磨(ソニー株式会社 AIロボティクスビジネスグループ)

INFORMATION

2019.06.20

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かつてソニーで製造販売されたエンタテインメントロボットシリーズ「AIBO」。2006年に製造中止になったものの、発売当初は家庭用ロボット自体が珍しく、「ペット」という切り口も斬新で社会現象になるほどの注目を浴びた。

そんなAIBOの意志を受け継ぎ、2018年1月に発売されたのが「aibo」だ。先代との違いは、名称の表記が大文字から小文字になったことだけではない。丸みを帯びたデザインやちょっとした仕草など、あらゆるところから「子犬」らしさが伝わってくる仕様になった。

発売当初には、予約開始から30分で完売となるほどで人気を博している。しかし、事業を復活させるのは、容易ではなかったはず。ましてや、かつて一斉を風靡した「AIBO」。開発者たちからすれば、後継機を手がけるのには相当な覚悟が必要だっただろう。

どのようにして、そのプレッシャーや往年のファンの期待を越えたのか。開発チームにあたるAIロボティクスビジネスグループ SR事業室の3名にお話をうかがった。


取材・文:野口直希 写真:玉村敬太

より「本物の犬」らしいaiboに。オフィシャルでも「犬型」の呼称を解禁

HIP編集部(以下、HIP):12年の時を経て復活したaiboですが、ずばり、先代と比べてどこが進化したのでしょうか。

森田拓磨氏(以下、森田):先代のAIBOは、オフィシャルには「犬型」のロボットとは呼んでおらず、「自律型エンタテインメントロボット」と呼んでいました。

今回は、AI(人工知能)とロボティクス(ロボットの設計)の進化によって、本物の犬に近づけることができた。その自負があるからこそ、新aiboでは「犬型ロボット」という呼び方をオフィシャルで採用しています。

12年ぶりに発売された新型のaibo

HIP:進化を遂げたAIとロボティクスは、それぞれどのように機能しているのでしょうか。

森田:AIについては、鼻先に搭載されているカメラがわかりやすい例です。このカメラによって人を識別します。たとえば、よくお世話をしてくれる人のいうことは聞き、そうではない人ならあまり懐きません。人によって振る舞いを変えるようにできているんです。

また、クラウドにも接続されているので、購入後にアップデートが可能。生活とともに成長し続けるのが新型aiboの特徴のひとつです。

ソニー株式会社 AIロボティクスビジネスグループ SR事業室 ソフトウェア2課 統括課長 森田拓磨氏

石橋秀則氏(以下、石橋):ロボティクスの面では、首を傾げ、腰を振るなどのより繊細な表現が可能になりました。aiboは喋ることができないので、ちょっとした仕草で人に与える印象が大きく変わります。動作表現力が増えたことで、豊かなコミュニケーションが可能になったと思います。

ソニー株式会社 AIロボティクスビジネスグループ SR事業室 機構設計課 統括課長 石橋秀則氏

エンジニアのプライドにかけて。技術の進化を示したい気持ちがあった

HIP:新たなエンタテインメントロボットをつくるうえで、必ずしも「アイボ」を名乗る必要はないはず。あえて広く親しまれた「AIBO」の名前を踏襲したのはなぜですか?

松井直哉氏(以下、松井):プロジェクト立案時には、別の名前を打ち出す案もありました。しかし、ソニーが新たなロボットを世に出すならば、以前のプロダクトを超える必要があった。ロボット事業にもう一度参入するには、その覚悟がまず必要ですから。

一方で、ソニーのロボットのなかでいちばん象徴的なのもアイボ。多くのお客さまに愛され、広く親しまれてきた名前です。もう一度、エンジニアのプライドにかけて、技術の進化を示したいという気持ちもありました。だからこそ、「aibo」という名称を使うことに決めたんです。

ソニー株式会社 AIロボティクスビジネスグループ SR事業室 統括部長 松井直哉氏

石橋:じつは、私も先代のAIBOを飼っています。だから、新型aiboの開発に携われると決まったときは、本当に嬉しかったです。

一方で、先代の愛くるしさや機能面のクオリティーの高さを知っている分、それを超えなければいけないプレッシャーも感じました。

初代aibo(画像提供:ソニー)

森田:先代のクオリティーの高さは、開発中にもたびたび実感しました。試行錯誤しながら開発していたある日、AIBO開発時の議事録が出てきたんです。

そこにはなんと、それまで私たちが苦労して乗り越えてきた課題とそれに対する解決策が、ことごとく記載されていたんです。超えるべき壁としての先代AIBOの存在を、強く感じました。

唯一無二の存在を目指す。「愛されるロボット」に必要な要素とは

HIP:そもそもこのプロジェクトは、どのようなかたちでスタートしたのでしょうか。

松井:新たな「AI×ロボティクス」の開発を目的として、当時社長だった平井一夫(2019年6月18日づけで会長を退任。その後はシニアアドバイザーを務める)が直轄で始めたプロジェクトでした。本社やソニーのR&D(研究開発)部門のエンジニアをはじめ、ソニーグループのさまざまなメンバーがジョインしました。

その第一弾として開発することになったのがaiboです。大変だったのは、発売日を2018年1月11日(ワン・ワン・ワンの日)とあらかじめ決めてしまったこと。メンバーが召集されてから、開発期間が1年半しかなかったんです。しかも、社内でも極秘のプロジェクトとしてスタートしました。

そんななかで、平井から「愛情の対象になるロボットをつくってくれ」という指示があり、プロジェクトメンバーと連携し合いながら進行しました。

HIP:「愛情の対象になるロボット」というのは、とても抽象的で定義が難しいですね。

松井:まさにそのとおり。まずは「愛情の対象になるロボット」とはなにか、つまり「愛されるロボットとはなにか」を具体化すべく、メンバー間で話し合いました。

そして、私たちが導き出した答えが、「オーナー(飼い主)とのコミュニケーションをとおして、ともに成長する唯一無二の存在」という定義。そこからさらに「唯一無二」を咀嚼するために、デザイナーたちと議論を重ねました。そして、「個性こそが大事だ」と結論づけました。

つまり、「同じ命令をしても、それぞれの個性に応じて違った動作をする状態」を目指したのです。

ロボットは「モノ」ではない。泥くさく「個性」を追求した開発者の情熱

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