INTERVIEW
「原作」を生み出すパブリッシャーへ。集英社ゲームズが仕掛けるIP創出の大戦略
森通治(集英社ゲームズ 執行役員 事業推進統括)

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2025.02.18
取材・執筆:和田拓也 撮影:大西陽 編集:川谷恭平(CINRA)

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エンタメの先人が数十年かけて積み重ねてきた、世界に羽ばたくための土台

HIP
クリエイターを「発掘」するために、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

漫画編集者ともよく話すのですが、全員口をそろえていうのが「新人発掘のノウハウに共通の答えはない」です(笑)。そうはいっても、企業としての強みは何だろうと考えたときに、やはりカギになるのは仕組みづくりとブランドだと思っています。

マンガづくりという点では、集英社には新人作家が集まり、育成するエコシステムができあがっていると感じています。また、クリエイターに支持いただいているブランド力も大きな武器です。

その経験を活かし、ゲーム事業でもエコシステムづくりに挑戦したのが、クリエイターが集まり、交流し、作品を生み出すコミュニケーションプラットフォーム「ゲームクリエイターズCAMP」です。ゲーム企画の立ち上げではなく、コミュニティの形成からスタートし、クリエイターが直面する課題の解決を目指しました。スタートした2022年度では約3,000人が登録し、現在では約8,000人まで伸びています。

「ゲームクリエイターズCAMP」
HIP
グローバル展開していくうえで、海外の才能はどのように発掘していますか?
スカウティングを徹底しています。専任のチームが海外のイベントやカンファレンスに参加し、個人のクリエイターや小規模な制作会社にアプローチし声をかけています。マレーシアやシンガポール、台湾、中国、韓国、スウェーデンなどではすでに具体的にプロジェクトが動きだそうとしていますね。
HIP
そのなかで気づいたことはありますか?

日本のクリエイティブ、とくに漫画やアニメに対するリスペクトの大きさです。欧米ではこの十数年で大きく認知を得ましたが、アジア各国においてもそれが広がっていると感じます。

クリエイターの方々にお声がけすると、集英社と一緒に仕事することは夢だった、といってもらえる。この企業ブランドは一朝一夕ではつくれないものです。集英社グループに限らず、日本のエンタメの先人たちによる数十年単位の積み重ねによって、この価値が育まれていたし、非常にありがたいことだなと思っています。

『ONE PIECE』のコマとデータが描かれたボードゲーム『ONE PIECE VIVRE RUSH』

グローバル競争を勝ち抜くための人材戦略

HIP
発掘をしたあとの「磨く」という点においては、どのような実践があるのでしょうか?

ゲーム業界のベテラン人材をプロデューサーやディレクターとして採用して、商業的価値とゲームそのもののクオリティの両面を支える体制がようやく整ってきました。

また、少年ジャンプ編集部出身の元編集者による、世界観やキャラクター、ストーリーテリング面での壁打ちをできる体制もあります。ゲーム的な編集機能と物語的な編集機能、どちらも兼ね備えているのは集英社ゲームズならではかもしれませんね。加えて、海外、特に中国市場にフィットするような視点を補完するための、グローバル人材の採用も行っています。

HIP
チームはどのような構成となっていますか?
約50人の従業員の半数を占めるのが開発チームです。またマネジメント層の多くはゲーム会社出身で、マーケティングやプロモーション系のチームはクリエイティブエージェンシーやおもちゃメーカー、ゲーム業界出身と多様なバックグラウンドを持つ人材がそろっています。
HIP
グローバル競争のなかで外部クリエイターを含めた人材確保は重要な課題です。集英社ゲームズでは、具体的にどのような取り組みを行っていますか?

数多くの人気作品を生み出してきた会社として、クリエイターに本気で向き合い続ける姿勢を貫いています。これは、先ほどお話しした編集機能にも通じますが、クリエイターたちを裏切るようなことはしないという心がけです。

いち企業として利益を上げなければいけないという判断ももちろんあるのですが、クリエイターの意思をないがしろにすることはしない。「原石の輝きを世界へ」と掲げている以上、それに反することはしないということは意識していますね。

判断に悩む局面では、たとえ私たちがある程度損をしても、クリエイターだけは絶対に守ろう。そうした考え方は私自身が集英社で働いてきたなかでも多く目にしてきましたし、一つのカルチャーだとも感じています。そういったビジョンやマインドはグループ会社の動き方としても一貫して反映されており、その丁寧な姿勢がゲーム業界の人材にも「働いてみたい場所」「腕がなる場所」と徐々に認知されるようになっています。そして、それが採用に直結している理由なのかなと思います。

「やるなら中途半端にやるな」10年かかる覚悟で挑むゲーム事業

HIP
集英社ゲームズは集英社の完全子会社であり、廣野眞一さんが2社の代表取締役社長を兼任するかたちをとっていますが、集英社経営陣のコンセンサスを得るうえでのハードルを感じることはありますか?

経営陣はかなり長期的な展望をもってコミットしてくれていて、そういう意味ではかなり恵まれた状況にあるといえます。通常のビジネスと異なり、エンタメ、特にゲームはヒットの再現性が低いので、エコシステムが回り始めて結果が出るまでに時間がかかります。開発が数年がかりになることもざらにありますしね。

ゲーム事業はノウハウがない状態で始まったので、「数年で結果が出るわけがないので、5〜10年かかる覚悟で取り組むべき」と、私が焦った判断をしがちな際に、経営陣からご指導いただくこともしばしばです。

HIP
時間がかかることを十二分に理解していることは、漫画家さんと向き合ってきたからこそ、という側面もありそうですね。

そうですね。もちろん丁寧な社内コミュニケーションは行いますが、ガバナンスは効きつつ、子会社として機動力を上げて取り組めるのは、現場マインドを持つ集英社グループだからこそだと思います。

「世界」を掲げてゲーム領域に踏み込んだのは、「やるなら中途半端にやるな」という経営層による助言の影響も大きいです。大きく風呂敷を広げたことで、わかったこともたくさんある。それは先ほどに話した通り、日本のクリエイティブがいかに海外からリスペクトされているか、ということもそうでした。

その日本のエンタメ産業が時間をかけて育んできた土台のおかげで、次なる大作家が必ず生まれていくはず。ゲームしかり、漫画・アニメしかり、グローバルレベルの産業になったいま、新たな才能に出会う可能性は従来とは桁違いに高いはず。そのときに、集英社ゲームズがより業界に貢献できたら、そう思いながらチャレンジを続けていきたいと思います。

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プロフィール

森通治(集英社ゲームズ 執行役員 事業推進統括)

2008年早稲田大学卒、アップルジャパン入社。2015年に集英社へ移籍、デジタル事業部で電子コミックの事業推進などを担当。2019年から新規事業部門に異動し、ゲーム事業を立案。2022年2月に集英社ゲームズの設立に携わる。

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