INTERVIEW
多様な「おじさん」がイノベーションを創出。セブン銀行の取り組みに迫る
山本健一(株式会社セブン銀行 常務執行役員人事部長兼総務部長 / セブン・ラボサポーター) / 長沢淳博(株式会社セブン銀行 セブン・ラボ次長)

INFORMATION

2018.08.20

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年齢や実績は無関係。イノベーターに必要なのは「本当にそのプロジェクトが好きかどうか」

HIP:大企業がイノベーションに取り組むときは、見るからにイノベーターなエース級の社員や、異才を放つはみ出し者の社員がグイグイと引っ張っていくケースが多々見受けられます。しかし、さまざまなメディアで話題になった「セブンコンシェルジュ」のプロジェクトでは、アニメや乙女ゲーム好きの女性社員3人がキーマンになったというのが印象的でした。

山本:イノベーションに年齢や仕事の実積は関係ないと思っています。たしかにどの企業でも、新規事業やイノベーションチームは若手であったり、社内のエリート社員が配属されたりするケースが多いですね。

しかしその社員が、大きな失敗をしていないことでエリートと呼ばれていたとしたら、上手いくことはなかなか難しいと思います。失敗をしていないということは、枠からはみ出すようなチャレンジもしていないということ。そもそも、会社の既存業務で点数が高いからエリートと呼ばれるんですよね。そういう人に「ゼロから好きなことを自由にやって」といっても、きっとなにをしていいかわからないはずです。新規事業の成功には、普段どおりの仕事の能力や実績ではなく、「本当にそのプロジェクトが好きかどうか」「そのプロジェクトの本質をとらえたゴールが見通せるか」が一番大切だと思っています。

イケメンキャラがATM取引を案内してくれる「セブンコンシェルジュ」。ATMごとに案内してくれるキャラクターが異なる

長沢:「セブンコンシェルジュ」を立ち上げた3人は、いまでも自らをイノベーターとは思っていないし、別の新しい事業を立ち上げようとも思っていません。彼女たちは、自ら認めるくらい、アニメや乙女ゲームが好きだったし、造詣も深かった。だから成功したのです。最初は趣味をどこまで仕事として活かせるのか戸惑っていたようですが、プロジェクトが走り始めたら、コンテンツに関してはセブン・ラボの手助けが必要ないほどでした。

彼女たちは、「セブンコンシェルジュ」を実現したことで、業務に役立つ経験ができたし、スキルが高まったと言ってくれました。どんな仕事でも本質に目を向けられるようになり、必要であれば部署を超えて巻き込むことが必要だと感じたそうです。働く姿勢が変わったとすれば、私たちとしてもこれほど嬉しいことはありません。それこそ、セブン銀行が実現すべきイノベーションだとも思っています。

山本:新規の事業・サービスの創出は、たしかにイノベーションです。しかし、われわれが考えているイノベーションはそれだけではない。社内のメンバーの意識が変わることで、日々の業務に少しずつ「違い」が生まれてくることも立派なイノベーションだと考えています。

アイデアマンやリーダシップのある人でなくても、仕事の本質に目を向けて、よりよい状況を生み出そうとすれば、それこそがイノベーションだと思っています。志高くゴールを設定し、仕事の本質に目を向けるようになれば、既存の組織やルールにとらわれることなく、必要に応じて外部の人を探してきたり、部署を越えて連携したりするようになります。壁があっても必死にそれを乗り越えるはずです。そうなれば、社員のイノベーションを後押しするセブン・ラボも必要がなくなる。それが理想ですね。

社員一人ひとりの意識にイノベーションカルチャーを植えつけ、企業全体に浸透させるためには、指示するだけでは無理。

HIP:社員一人ひとりの意識にイノベーションカルチャーを植えつけ、企業全体に浸透させるためには、なにが必要なのでしょうか。

山本:難しい課題です。ひとつ言えるのは、指示だけしても無理だということ。若手社員に「あなたの仕事はわが社にイノベーションを起こすことです。やりたいようにやりなさい」という上司がいたらどう思いますか。うらやましく思う人もいるかもしれませんが、私はその社員が可哀想だと思います。こんな指示では、迷える子羊になって潰れていってしまうでしょう。

HIP:そこで、セブン・ラボのように、羊を導く存在が必要なのですね。

山本:社内にイノベーションを起こすには、イノベーターだけでなく、トップの覚悟も不可欠です。そして、トップや経営陣とイノベーターのあいだをつなぐ仕組みがあること。せっかくのセンスあるアイデアなのに、上長や経営陣に認めてもらうステップの途中で角が取れて、企画そのものが丸くなってしまう。結果として普通のサービスと変わらないね、という事例はよく耳にします。そうならないようにするのも、セブン・ラボの役割のひとつです。

HIP:セブン銀行は、コンビニにATMを置くという新しい発想で、イノベーションを実現しました。ある意味、イノベーションが出発点の会社とも言えます。これからの目標についてお聞かせいただけますか。

山本:セブン銀行を創業するときは、金融業界の人からも「絶対に上手くいかない」と反対されました。それがここまで成長できたのは、やはりお客さま視点でイノベーションに繰り返し挑戦してきたからだと思います。セブン銀行や私たちのグループには、もともと新しいことにチャレンジするDNAがあるはずです。そこを目覚めさせ、バージョンアップし、今後もさらに挑戦していくための環境を整えて、リードとサポートをすることがセブン・ラボの役目だと思います。

セブン・ラボの取り組みによって、次世代のイノベーターが育ち、新しいセブン銀行をかたちづくるイノベーションを起こしてくれるかもしれない。それを間近で見届けることが、われわれの目標のひとつです。今春、セブン・ラボには若いメンバーも加わり、50歳前後のおじさんが中心だったラボに新しい風が吹いています。彼らとともに、次世代にたすきをつないでいく役割をまだまだ担っていきたいと思っています。

Profile

プロフィール

山本健一(株式会社セブン銀行 常務執行役員人事部長兼総務部長 / セブン・ラボサポーター)

2007年入社。セブン銀行では広報、IR、企画を経て、2016年より、セブン・ラボに参加。約2年リーダーを勤め現職へ。ラボのサポートをしながらイノベーション活動に一層注力している。

長沢淳博(株式会社セブン銀行 セブン・ラボ次長)

信託銀行を経て2002年入社。新商品、サービスの開発全般を担当し、2016年より、セブン・ラボに参加。プログラムを自ら作成するなど、とことん研究・追求するタイプ。他社の新しいサービスがスケールするかを直感的に見極められる。

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