多様な「おじさん」がイノベーションを創出。セブン銀行の取り組みに迫る
山本健一(株式会社セブン銀行 常務執行役員人事部長兼総務部長 / セブン・ラボサポーター) / 長沢淳博(株式会社セブン銀行 セブン・ラボ次長)
2018.08.20

全国のセブンイレブンを中心に、約2万5,000台のATMを設置し、ビジネスを行うセブン銀行。いまやコンビニATMは当たり前の存在だが、2001年に初めてセブンイレブンにATMが設置されたときは、金融業界からも「ATMだけの銀行?」「うまくいかないのでは」など、否定的な意見が多かった。

しかし「業界の常識」より「利用者のニーズ」を捉えたセブン銀行は、着実に事業を拡大し、いまやセブン&アイ・ホールディングスの金融セクターで稼ぎ頭に。そんななか来たるべきキャッシュレス社会など、次世代を見越した新たなイノベーション創出のために設立されたのが、新事業推進組織「セブン・ラボ」だ。

2016年の設立以来、さまざまなベンチャーと協業した新プロジェクトが生み出され、この夏には通称「イケメンATM」なる、マンガタッチで描かれた男性キャラクターが応対するATMサービス「セブンコンシェルジュ」が試験的に運用開始。ふだん金融業界とはあまり縁のないアニメファン界隈でも話題を呼んでいる。

5人という少数精鋭チームでスタートし、セブン銀行にイノベーション文化を根づかせるべく活動するセブン・ラボとは、一体どのような組織なのか。セブン・ラボの初代リーダーを務め、現在は常務執行役員人事部長兼総務部長の山本健一氏と、ラボの次長を務める長沢淳博氏に話を聞いた。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

ATM手数料という既存のビジネスモデルだけに頼ることに覚えた危機感。その現状打破のためにセブン・ラボは生まれた。

HIP編集部(以下、HIP):セブン・ラボとは、どういった組織なのでしょうか。

山本健一(以下、山本):業務について細かく規定されてはいないのですが、課せられたミッションは大きく3つ。1つ目は、社内にイノベーティブな雰囲気、環境をつくること。2つ目は、従来の銀行の考え方にとらわれないブルーオーシャンを見つけること。3つ目は、新規事業をオープンイノベーションで生み出すことです。そのミッションを達成するために、われわれは日々活動しています。

セブン・ラボ次長 長沢淳博氏(左)、セブン・ラボの初代リーダー 山本健一氏(右)

山本:セブン銀行は、収益の90%以上を提携銀行からのATM受入手数料から得る、世界でも類を見ないユニークな銀行です。収益も利益も伸び続けていますが、いまのビジネスモデルだけに頼り続けることは会社全体でも危機感を感じています。当然、フィンテックを活用した一般事業会社の金融やキャッシュレス社会によるお客さまの行動変化の影響もあるので、次の収益源を見つけるのは急務です。

そんな危機感もあり、4年前、当時の社長だった二子石(謙輔・現セブン銀行会長)が、「未来のお客さまのニーズに応える、新しいサービスや商品づくりにチャレンジしよう」と声を上げ、社内でイノベーションを加速させるための取り組みが始まりました。

HIP:セブン・ラボの設立は2016年ですが、その前からイノベーションへの動きがあったんですね。

山本:そうですね。取り組みを始めてみて、予想以上にユニークな人材が社内にいたことに驚きました。たとえば、アイデアソンをやってみたところ、第1回、第2回とそれぞれ約70人の社員から応募がありました。チームをつくって新しい事業やサービスを提案してもらったのですが、ATMの液晶画面を子どもの身長でも見られるよう大型にして、お取引しているあいだ子ども向けのアニメ動画を流すといったお子さま連れのお客さまに向けたサービスや、日本で働く外国人のために、お客さまとのコミュニケーションを音声で手助けする「接客アプリ」をつくりたいという提案など、銀行という枠組みからは思いもつかないようなアイデアがたくさん出たんです。

社員も楽しみながら参加してくれましたし、なにかアイデアがあれば、アクションを起こしてもいいという社内の雰囲気づくりにつながったと思います。ただ残念ながら、アイデアは出たものの、それを実現し事業やサービスにまでこぎつけることはできなかった。これがセブン・ラボのきっかけとなり、「サービスを本当に生み出す」ことをテーマに2年前にチームが発足され、いまに至ります。

多様な「おじさん」によるセブン・ラボメンバー。周りを巻き込むコツはすべてをオープンにすること。

HIP:セブン・ラボは、どのようなメンバーで構成されているのですか。

山本:発足当初、50歳前後の男性社員5人集められました。それぞれ経歴はバラバラで、経済産業省のプロジェクトでシリコンバレーに派遣された人や、国内のスタートアップ事情に詳しい人、創業時からずっとATM開発に携わった人などで構成されています。

長沢淳博(以下、長沢):私はもともと事業開発部で、新商品・サービスの開発を担当していたので、そのノウハウをセブン・ラボに活かすことができればと考えていました。セブン・ラボに集められた5人は、それぞれが持つ強みを活かして、イノベーションを推進することを期待されたと聞いています。

山本:私は広報が長かったので、セブン・ラボの活動を社内外に伝えるパブリックリレーションズの役割を期待されていたと思います。ラボのリーダー的な役割も務めていたのですが、みんな個性的というか、もはや変人(笑)。メンバーの個性があまりにも異なるので、自虐的に「オヤジダイバーシティー」と自称するメンバーもいましたね(笑)。

セブン・ラボの初期メンバー。ATMの企画・開発を担ってきた松橋正明氏、セブン・ラボ初代リーダーである山本健一氏、ブルーオーシャン開拓を担当する山田智樹氏、スタートアップ企業との事業創出を担当する西井健二朗氏、長沢淳博氏

HIP:広報らしい、キャッチーなフレーズですね(笑)。

山本:ただ、得意分野やスキル、興味や関心がまったく異なる個性的な5人が集まったので、向いている方向もバラバラでしたし、チームが一丸にならないなと悩んでいた時期もありました。そんなある日、セブン・ラボのメンバーと二子石社長でランチをしたとき、社長から「ベテランが5人もいるのだから、みんなが一丸になってひとつのことをやるのはもったいない。それぞれが本気で打ち込めることをバラバラにやるほうがいいよ」というアドバイスをもらいました。それで悩みが吹っ切れましたね。

社長にはセブン・ラボ立ち上げ当初から、「5人だけで何かを成し遂げられるなんて思うな。社内にも社外にもオープンでやってくれ」と釘を刺されていました。それはつまり、セブン・ラボ単独で新規事業を立ち上げようとするのではなく、社内の関係部署、メンバーを巻き込み、社員一丸となってイノベーションに取り組んでほしいということ。セブン銀行における「オープンイノベーション」の「オープン」という言葉には、「コソコソやるのではなく、すべてを透明化して、いつでもなにをやっているのかわかるようにする」という意味も込めています。

長沢:セブン銀行のオフィスはワンフロアになっていて、さまざまな部署が仕切りなく並んでいます。さらに、セブン・ラボのメンバーのデスクは、フロアの中心に置かれています。新規事業といえば、情報管理のために個室で活動することが一般的で、「あいつらは、何をやっているんだ?」と思われることも多いでしょう。セブン・ラボはそうではなく、イノベーティブな取り組みに関心のある人、挑戦したい人に、気軽に声を掛けてもらえる雰囲気をつくり、われわれもまた、彼らを巻き込みやすくなっています。

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全社員を巻き込んでいくセブン・ラボ。結果として生まれたイノベーションとは?

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