INTERVIEW
セブン銀行社長が語る新規事業チームのつくり方。「人事のコツは組み合わせ」
舟竹泰昭(株式会社セブン銀行 代表取締役社長)

INFORMATION

2018.10.10

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現金が急に必要になったときは、コンビニのATMでお金を下ろす。いまでは当たり前となった「コンビニATM」という存在は、じつは2000年代以降にセブン銀行が切り拓いたものだ。

従来の銀行のように「貸出資産」を持たず、ATMによる「受入手数料」を収益のメインとするセブン銀行のビジネスモデルは、世界的に見てもユニークだ。当初は、業界内からも「うまくいかないのでは?」と疑問視されたそうだが、いまではセブン&アイ・ホールディングスにおける金融部門の稼ぎ頭となっている。

コンビニATMというイノベーションを起こし、独自のビジネスモデルを確立したセブン銀行。今年6月に代表取締役社長に就任した舟竹泰昭氏は、さらにセブン銀行を進化させるミッションを担うが、根底には「大いなる危機感」を持っているという。

フィンテックの台頭やキャッシュレス化により決済の手段が大きく変わろうとしているいま、過去の成功体験だけでは生き残れない。舟竹氏が考えるセブン銀行の未来とは。そのために、どういったイノベーションが必要なのか。セブン銀行にイノベーションの風土を根づかせるためのチーム「セブン・ラボ」の生みの親でもある同氏に赤裸々に語ってもらった。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

日本企業の多くが抱える停滞感。危機脱出のヒントは「外部の力を取り込む」ことにあった

HIP編集部(以下、HIP):舟竹さんがセブン銀行の社長に就任して数か月経ちましたが、どのような「危機感」を持って、日々の経営に取り組まれているのでしょうか。

舟竹泰昭社長(以下、舟竹):私がセブン銀行に対して抱えている危機感は2つあります。1つは「ビジネス環境の変化」です。当社はATMで現金を取り扱うことをビジネスの中心に据えています。しかしご存じの通り、キャシュレス化は世の中の潮流。ATMの利用件数増加率も鈍化しています。正直に言えば、新聞やテレビでキャッシュレスという言葉を見ると背中がゾクゾクしますね。「こんなときに社長になるんじゃなかった」と思うこともしばしばです(笑)。

株式会社セブン銀行 代表取締役社長 舟竹泰昭氏

舟竹:もう1つは「停滞感」です。会社の設立から18年が経ちますが、前例がないビジネスということもあって、良い意味で失敗を積み重ね、いろんな壁にもぶち当たりました。しかし、めげずに突き進んで、事業範囲も収益も加速度的に成長していきました。

ところが、4~5年前から伸びが緩やかになり始めたのです。それも当然の話で、われわれのビジネスは主に提携金融機関からいただく手数料で成り立っているのですが、いまや日本のほぼすべての金融機関と提携してしまった。ATMは、いまやどこのコンビニに行っても設置しています。セブン銀行は、成長期から成熟期へと移行したわけです。

成熟期には、事業をマイナーチェンジさせることや、保守管理や契約の継続などの業務に注力しがちになり、視野が狭くなってしまいます。特にセブン銀行の場合、ATMをメインに据えた単一事業なので、新しいアイデアを生み出すための議論を社内でしても、なかなか話が広がりません。

もちろん、成熟期は悪いことだけではなくて、社員たちは責任感を持って仕事に取り組んでくれています。しかし、創業時のエネルギーを知っている私にとって、キャッシュレス化の流れのなかで、停滞感が漂っていることは危機だと感じていました。

HIP:そういった危機感を打破するために、社内イノベーションを推進する部署である「セブン・ラボ」を立ち上げられたのでしょうか。

舟竹:私が副社長に就任した2016年に「セブン・ラボ」を立ち上げましたが、前身となる活動は2014年頃から始まっていました。きっかけのひとつが、ベンチャーと大企業、シリコンバレーをつなぐベンチャーキャピタルWiLとの出会いです。彼らを介して、外部企業の力をお借りすることで、セブン銀行が変わるきっかけになるのではないかと考えました。

WiLを通じていろいろな企業の担当者と交流させてもらったのですが、多くの日本の企業が同じ課題を抱え、イノベーションを推進する部署をつくり始めていました。当時、セブン銀行では、企画部が兼務で新規事業の開発を担当していたのですが、部署の垣根を越えて、あらゆるしがらみにとらわれずにイノベーションを推進できるよう、あえて「部」という言葉を使わず「ラボ」とし、セブン・ラボを立ち上げました。

社員の理解を得てイノベーションを推し進めるには、「トップの意志」が不可欠。

HIP:日本の銀行は、金融資産を扱うこともあり、すべてのサービスやシステムを社内で用意する自前主義の伝統が根強く残っています。セブン・ラボを設立して外部の知見を取り入れることに対し、社内から反対意見はなかったのでしょうか。

舟竹:設立そのものに反対はありませんでしたが、現場レベルでは苦労があったようです。たとえば、セブン・ラボが中心となりスタートアップと進めてきたプロジェクトが、いざ実現段階になったときに、どこの部署がやるのかと。

ラボ以外の部署は、すでにそれぞれのテーマを持って新しいことにチャレンジしているので、ラボが提案してきた新しいプロジェクトに対して、「引き受ける余裕がない」「すでに(部署内で)検討したことがある」などの声もありました。

そこでセブン・ラボは、既存の部署が取り組んでいないようなテーマに取り組み、ラボが主導して立ち上げる方針にすることに決めました。立ち上げたあとはほかの事業部に渡してもいいのですが、最初はセブン・ラボ。自分たちでプロジェクトを動かすときは、関係部を必要に応じて巻き込みながらプロジェクトを進めてもらうことも、良しとしました。

HIP:セブン・ラボ設立後、新規事業は順調に立ち上がりましたか?

舟竹:そう簡単ではなかったですね(笑)。1年ほどたって、社内から「新しいビジネスがなかなか立ち上がっていない。どうなっているのか」という声が聞かれるようになりました。また、「人が足りないから、セブン・ラボの人材を既存部署に戻してくれ」という声も少なくありませんでしたね。

ただ、その人材は社外にどんどん出ていってドレミング株式会社や株式会社フーモアといったベンチャー企業とつながっていったり、大学との共創活動を行いながら新しいビジネスの種を探したりと、スタートアップ界隈で頑張ってくれていました。おかげで社外からは、良い評価をいただくことができ、セブン銀行の名前も徐々に評判になっていました。そういった事実を知っていたからこそ、社内の声に対しては、「もう少し長い目で見てくれ」とずいぶんお願いしましたよ。

「重要なことは2つだけ」。舟竹社長が考える、成功する組織のつくり方とは?

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