ドローン配送を当たり前に。セイノーホールディングスが物流業界の改革に挑む
加藤徳人(セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 室長)
2021.09.27

イノベーションを起こすためのスタートラインに立つために。協業先との立場の捉え方

HIP:だから、さまざまな条件や状況に対応できる技術を持つエアロネクストと組むことにしたのですね。

加藤:そうです。また技術だけでなく、ドローンによって本気で世界をより良くしたいというエアロネクストの姿勢にも惹かれました。実際にご一緒してからも、世界観が似ているというか、志を共有できるパートナーだと感じます。

先ほどのSkyHub構想も弊社だけで考えたものではなく、エアロネクストとコミュニケーションを重ねながらつくり上げたものです。いまでは、誰がどちらの社員かわからないくらい密に交流させてもらっていて、平たくいうとワンチームで非常に仲が良い。

やはり協業先と新規事業を推進するうえで、いちばん大事なのはお互いに同じくらいの熱量で取り組むこと。どちらの立場が上とか下とか関係ない。同じビジョンに向かって、絶対に事業を成功させるという強い気持ちが揃っていなければ、イノベーションを起こすためのスタートラインにも立てないと思います。

HIP:たしかに、新規事業を推進するうえで大切なマインドですね。ただ、ドローンに精通するエアロネクストとの協業とはいえ、御社にとって未知な試みですし、日本ではドローンそのものへの社会需要性も高いとはいえません。ドローンでさまざまなものを運べる仕組みができたとしても、広めていくには世間から理解を得ること自体が大変そうです。

加藤:おっしゃるとおり、そこは乗り越えなければいけないハードルです。小菅村でもやはり、住民の方々のご理解を得ることが最初の大きな課題でしたから。ドローンに対してなんとなくうるさそうとお感じになったり、事故を懸念されたりする方もいらっしゃいました。

いくら便利になるとはいえ、住民のみなさまからすれば未知の物体が上空を飛んでいるなかで生活しなければならない。不安を抱くのも無理はありませんよね。

ドローンが飛ぶ光景を日常風景に。住民の不安を解消するための取り組み

HIP:そうしたドローン自体に対する住民の不安を解消するために、どんな取り組みをしているのでしょうか?

加藤:イベントを開催して実際のフライトの様子を見てもらったり、小学校の運動会などがあるときにドローンを飛ばして、撮影した写真をお渡ししたりするなど、さまざまな取り組みで安全性や性能をお伝えしています。

また、一部のメンバーは現地に住んで生活しています。そのあたりも、わらわれの本気度合いを理解いただくうえで影響しているかもしれません。

本当に地道に、少しずつ地域に溶け込むようなかたちを目指しています。そういう意味では、移住と似ているかもしれませんね。ただ、もちろん私たちだけでは難しくて。行政の方々のご協力、その行政とわれわれを結んでくれる方々、小菅村でいえば元地域おこし協力隊のみなさんが本当に力になってくれました。

HIP:実際、現在の住民のドローンに対する反応はいかがですか?

加藤:すでに150回以上のフライトを行なっているので、いまや村では特別に珍しい光景ではなくなっていると思います。ドローン配達がスタートしてまだ5か月程度ですが、村のおじいちゃん、おばあちゃんからすれば、極端にいうと「カラスが飛んでいる」くらいの日常風景になりつつあるのではないでしょうか。

ドローンが村民の方々の日常に溶け込むことで、おのずとドローン配達の注文もどんどん増えていくと考えています。

HIP:今後さらに住民にドローン配達を身近に感じてもらえるよう、取り組もうとしていることはありますか?

加藤:以前から取り組んでいることではありますが、街の診療所や保育士さん、おばあちゃん、おじいちゃん、妊婦さん、小学校の先生など、さまざまな人に会い、ドローンに限らず「物流に関しての困りごと」をお聞きしながら、地域ならではのニーズを掘り起こしていくつもりです。

そもそもドローンの実装はあくまで手段のひとつであって、地域の文化や伝統、インフラを大きく崩すことなく配達の利便性を高めることが主目的。地域の特性や住民のニーズに合わせて、配達の手段をカスタマイズできるのが理想だと考えています。

たとえば、ドローンやトラックだけでなく、地域で運行されている乗合バスを配送にも使わせていただくほうが便利なケースもあるかもしれませんからね。ドローンの浸透を重要視しているのは、あらゆる手段のなかから、それぞれの生活に最適な配達を提供していきたいからです。

そうした既存物流とドローン物流の標準化による新しいサービスモデルの構築のことを「オープン・パブリック・プラットフォーム(以下、O.P.P)」と、弊社では名づけています。O.P.Pによって物流のさらなる効率化を実現し、過疎地域の人口減少、交通問題、医療問題、災害対策、物流弱者対策など、あらゆる社会課題解決と活性化に貢献していきたいです。

今期の中長期計画として「SEINO LIMIT」というスローガンを打ち出したセイノーホールディングス。大きさも個数も、そして場所についても一切の制限をかけず、どんな場所でも、どんなものでも運ぶという決意が込められている(画像提供:セイノーホールディングス)

すべての物流を無人化・無在庫化にしたい。物流から地域活性へとつなげる展望

HIP:「O.P.P.」の一環として、ドローン配送の「SkyHub」構想の浸透を目指すわけですね。最後にあらためて、今後のSkyHubのビジョンについて教えていただけますか。

加藤:SkyHubはわれわれにとって、非常に大きなチャレンジです。過疎地域の物流改善にとどまらず、ゆくゆくはすべての物流を無人化・無在庫化していきたい。

それを実現するには、さまざまな業界や企業との連携も必要になっていきます。現在、大企業の新規事業担当者が集まる虎ノ門ヒルズのインキュベーションセンター「ARCH」にも入居しているので、そこを起点にドローン配送の仕組みづくりをより促進させるコラボレーションなどが生まれたら理想的ですね。

HIP:物流はインフラでもありますし、今回のコロナ禍でも物流のニーズが一気に高まったことを考えると、たしかに今後あらゆる業界からもますます効率化が求められそうですね。

加藤:一方で、物流業界としては圧倒的に運び手が不足しているという懸念もあります。このままマンパワーに頼っていては、いずれ物流自体が崩壊してしまうでしょう。

ですから、これからは長距離輸送を減らし、より消費者に近いところで物を動かしていくことが必要。ドローンを活用することで、それが可能になると思っているので、やはり早めにドローン配送を社会実装していきたいです。

HIP:そのためにもまずは小菅村、さらには上士幌町で確実に成功させ、全国に広げていくことが大事ですね。

加藤:はい。これが本当に根づいたら、その村や街の暮らしが豊かになり、住みたいと思う人も増えてくると思うんです。じつは上士幌町って、少し前までは「消滅可能性都市」に挙げられるほど、活気を失っていました。しかし、官民が一体となってさまざまな取り組みを行った結果、ここ数年は人口も増えているそうです。

都市部のように便利な場所ではなくても、暮らしが豊かになれば人は戻ってくる。上士幌町の事例はそのことを示してくれています。ですから私たちも、物流事業者としての役割を果たすことで住民サービスの向上を図り、少しでも地域を豊かにしていけたらと考えています。

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加藤徳人(セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 室長)

1998年、西濃運輸株式会社に入社。現場のトラックドライバー経験を経て、首都圏営業専門職として7年間従事し、大手新規顧客開発を担当。セイノーグループ管理者層に対する米国式マネジメント経営システムの導入および、ハンズオン業務改善支援を行うなど幅広い現場経験を持つ。2016年、新設のオープンイノベーション推進室立上げメンバーとして自社アセット活用による価値創造を目的としたインキュベーションや新規事業構築に従事。直近では「SEINOアクセラレーションプログラム」の運用をはじめ、日本初ロジスティクス専門ファンドの設立(CVC / Logistics Innovation Fund)やインドネシアでのコールドチェーン事業、農福連携事業構築など、既存事業の枠を超えた他社との共創による社会課題解決を目指す。

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