INTERVIEW
ドローン配送を当たり前に。セイノーホールディングスが物流業界の改革に挑む
加藤徳人(セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 室長)

INFORMATION

2021.09.27

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ドローンによる配達の一般化が現実味を帯びてきている。物流業界の各社が模索するなかで、過疎地域に目をつけていち早く社会実装を実現させたのが物流大手のセイノーホールディングスだ。

同社は2021年1月、ドローンにまつわる優れた要素技術を持つ株式会社エアロネクストと共同で、ドローン配達を軸とする新しいスマート物流のシステム「SkyHub」構想を始動。2021年4月からは人口約700人の山梨県小菅村でドローンを使った配送サービスを実装し、5か月間で150回以上利用されるなど、たしかな成果を挙げている。

今後はこのシステムを日本全国817の過疎地域へと広げ、ゆくゆくは都市部での実装も視野に入れているという。今回は、この取り組みの主導者であるセイノーホールディングス株式会社オープンイノベーション推進室の加藤徳人室長に、現在の課題からビジョンまでのお話をうかがった。そこで語られた、新規事業の協業先を選定するうえで必要不可欠な要素とは?


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

セイノーが取り組むドローン配送とは? 過疎地域に目をつけた理由

HIP編集部(以下、HIP):セイノーホールディングスは、2021年4月からドローン配送事業を本格的に推進しているとうかがいました。具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

加藤徳人氏(以下、加藤):現在、過疎地域である山梨県小菅村でドローンを使った物流システムを構築・運用しています。具体的な仕組みとしては、村民がECサイトなどで生活物資を注文された際に、その商品を各配送会社がトラックなどで「ドローンデポ」と呼ばれる倉庫まで運びます。

そこからドローンを飛ばして村内の集落に設置された「ドローンスタンド」という荷物の受け取り場まで商品を届ける。そして、ドローンスタンドに置き配された商品を村民にピックアップしていただく流れですね。こうした既存の陸上輸送とドローン配送を組み合わせたスマート物流の仕組みづくりを「SkyHub」構想と名づけ、社会にインストールしていきたいと考えています。

セイノーが取り組むドローン配達サービスの仕組みの構想「SkyHub」。荷物は注文から配達完了まで共通のIDで管理される(画像提供:セイノーセイノーホールディングス)

HIP:「各配送会社」がドローンデポまで荷物を運ぶのことですが、セイノー以外の物流業社も含むということでしょうか?

加藤:はい。小菅村のような物流課題が多い地域においては、とくに同業他社さんと手を組みながらオープンに物流の最適化を図っていく必要があるので、そういった仕組みづくりをしていく想定です。

ゆくゆくは同業他社さんの荷物もドローンデポまで運んでもらえれば、そこからぼくらが配送するような仕組みを構築したい。そうすることで、弊社だけではなく物流全体の効率性を高めることができますし、業界内での連携も深めることができるはずですからね。

じつは以前から地域によって共同配送のようなことはやっているので、同じ思いを持てれば連携自体は実現可能と考えています。「どの会社よりもいち早くドローン配送を実装したい」という競い合う気持ちよりも、各配送会社さんの配送システムとドローン配送のシステムを連携させたい思いのほうが強いです。

ドローン配送はあくまで輸送手段のひとつなので、業界全体で知恵を出し合って、新たな物流のかたちをつくっていきたいですね。

セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 室長の加藤徳人氏

HIP:小菅村でのドローン配送は、現時点でどのくらいの成果が出ているのでしょうか?

加藤:今年4月からスタートし、すでにフライト回数は150回を超えました。実証実験というよりも、しっかり定期運行をして、すでに地域の方々にご利用いただけています。

なぜ小菅村を選んだのか? 成功のモデルケースをつくり、ゆくゆくは都市に実装を

HIP:そもそも、なぜ過疎地域に目をつけたのでしょうか?

加藤:いくつかの理由があります。まず、2022年に改正航空法が施行され、有人地帯の目視外ドローン飛行ができるようになります。これにより、条件つきではありますが都市部でのドローン物流も可能になる見込みです。

ただ、その法整備を待ってからスタートしたのでは、社会実装が遅れてしまう。そこで、まずは有人地帯を避けて飛行できる過疎地隊から実装していくことになりました。

また、もう一つの大きな理由が、過疎地域の物流事情を改善させることです。どの業界にもいえることですが、物流事業者も少子高齢化に伴い、トラックドライバーの担い手がどんどん少なくなっています。そうなると当然、「物を運べない地域」が出てきてしまうわけです。それらを解決するための手段のひとつがドローン配達なのです。

HIP:その手始めとして、小菅村での実装を開始したと。

加藤:はい。小菅村のような物量が少ない地域は、一度の積載率も高くないので採算が取れず、毎日トラックを出して運ぶのは難しい「配送限定地域」です。各配送会社さんにとっても、負担が重いエリアなのは間違いない。ですからセイノーに限らず、あらゆる配送会社の荷物もまとめて運んでいく共同配送の体制が取れると、各社ともに助かるのではないかと考えたのです。

また、配送限定地域のなかでも小菅村は、人口約700人といえども共働き子育て世帯や移住者が多いのが特徴で、ドローン配達によって地域活性化につながりやすい可能性がありました。

全国各地の過疎地域にドローン配達を発展させていくためには、最初の導入地域が成功のモデルケースにならないといけない。そういった観点からも、ドローン配達による効果が出せそうな小菅村での実装を決めました。

小菅村の上空を飛ぶ配送用のドローン(画像提供:セイノーホールディングス)

HIP:とはいえ、ドローンだけで過疎地域の配達の課題を一気に解決するのは難しそうです。ドローン配送以外にも、なにか施策はあるのでしょうか?

加藤:冒頭で申し上げたように、そもそもドローン配送は輸送手段のひとつ。ですから、既存の陸上輸送と組み合わせることに価値があると考えています。それらを連結・融合するスマートサプライチェーンこそ「SkyHub」の本質です。

ドローンは直線的な短距離で配送できて効率が良いのですが、天候などに左右されやすい。そうした場合は、陸上輸送で補うなどシチュエーションに合わせた手段も考えていきます。とはいえ、どんな状況でもドローンで100%届けられる仕組みをつくるのが理想。ドローンの機能を生かせるところでは確実にドローン配送を行えるようにすることで、配送手段を多様化させたいです。

HIP:小菅村のあとは、どんな地域での展開を考えていますか?

加藤:2021年8月からは、北海道の上士幌町で同様の取り組みをスタートさせています。人口約700人の小菅村に対し、上士幌町は約5,000人と、ぐっと規模が大きくなっています。ちなみに、全国に1,741ある自治体のうち2割程度は5,000人規模。まずはこの規模の地域で成功させ、ゆくゆくは10万人から50万人規模の都市にも実装していきたいと考えています。

協業先は「ドローンメーカー」ではない企業。先を見据えたパートナーの選定

HIP:今回の試みはドローン飛行に関する数多くの技術を持つエアロネクストとの共同事業とうかがいました。なぜ、同社と組むことになったのでしょうか?

加藤:エアロネクストは厳密にいうと、いわゆる「ドローンメーカー」ではなく、「ドローン・アーキテクチャ研究所」です。つまり、ドローンそのものではなく、ドローンを安定飛行させるための要素技術を研究している会社なんです。

特徴的な技術として、飛行中にドローンの機体が斜めになってもカメラを揺らさないための「貫通ジンバル構造」というものも開発されています。これをドローン物流にも応用することで、荷物を揺らしたり傾けたりすることなく、安全に運ぶことができるのです。

たとえば、卵やお刺身、ケーキも崩れません。安全を第一に考える私たちが配送専用ドローンに求めていたのも、まさに安定性でした。そして、なによりもつくり上げたいスマート物流の世界観が同じだったので、エアロネクストと組むことにしました。

2021年7月に実施された吉野家とのイベントの様子。つゆだく牛丼のつゆを一滴もこぼすことなく届けて住民を驚かせた(提供画像:セイノーホールディングス)

HIP:最初からドローンメーカーではなく、技術系の会社と協業しようと決めていたのでしょうか?

加藤:じつは、当初はドローンメーカーを探していました。2017年頃からドローン配達の構想自体はあったのですが、当時は国内だけでなくヨーロッパ諸国を巡って、評判の良いドローンメーカーを訪ねて回ったんです。しかし、最終的にはどこもしっくりきませんでした。

というのも、どこかの会社のドローンに決めて契約してしまうと、それがのちのち足枷になるというか、「運べないもの」が出てきてしまうのではないかと思ったんです。

トラックだって、運ぶものに合わせて大きさが変わりますよね。同じように、ドローンも物によって必要とされる大きさや性能は異なるはず。そうなると、1社や2社のドローンでは対応できず、運べないものがでてきてしまうかもしれません。その可能性がある時点で、物流会社としては即決できませんでした。

新規事業における協業先の選定で、いちばん重要視すべきポイントとは?

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