INTERVIEW
ミッション経営へのチェンジ。パーソルキャリアの1年を振り返る
峯尾太郎(パーソルキャリア株式会社 代表取締役社長) / 児玉太郎(アンカースター株式会社 代表取締役) / 中山友希(パーソルホールディングス株式会社)

INFORMATION

2021.06.29

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総合人材サービスを展開するパーソルキャリア株式会社は2019年10月、会社としてのミッションを刷新した。新たなミッションは、「人々に「はたらく」を自分のものにする力を」。そこには、「一人ひとりの主体的なキャリア形成が、個人と企業の持続的な成長につながる」という思いが込められている。

パーソルキャリアが「ミッションドリブン経営」への転換に舵を切ったのは、2017年。前年から社長に就任した峯尾太郎氏がかねてより抱いていた思いを実現するため、児玉太郎氏率いるアンカースター株式会社とのコラボレーションをスタートさせた。

以来、2年にも及んだ、さまざまな試行錯誤。それはパーソルキャリアという会社の存在意義を見つめ直すだけでなく、峯尾氏自身のマインドセットをも大きく変える時間になったという。今回は、峯尾氏と児玉氏、そして、パーソルキャリアからアンカースターへ出向し、両社の橋渡し役を担った中山友希氏にお集まりいただき、新たなミッションが生まれるまでの取り組みや変化について語ってもらった。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

目指すは「なんちゃってビジョン経営」からの脱却

HIP編集部(以下、HIP):2017年に株式会社インテリジェンスからパーソルキャリア株式会社に社名が変わり、同時に「ミッションドリブン経営」への転換に舵を切りました。その背景には、どんな課題があったのでしょうか。

峯尾太郎氏(以下、峯尾):私たちはインテリジェンス時代から、「ビジョン経営」を掲げていました。ただ、当時のそれは実態が伴っていなかった。

せいぜい社内の壁にキャッチコピーを張ったり、毎年のキックオフイベントで経営者が口にするくらいで、それが会社のアイデンティティとして根付いているとはいえなかったと思います。私は社長に就任する以前から、役員としてそのことにモヤモヤしていました。

峯尾太郎氏

HIP:特に2010年代は親会社が複数回変わるなど、組織の統合や再編が相次いだことで、会社としての方向性が定まっていないところもあったのでしょうか。

峯尾:そうですね。ですから、2013年にテンプホールディングス(現:パーソルホールディングス)グループに入る前、役員が集まる合宿でもその話をしました。「儲かる・儲からない」の二軸だけでものを考えるのではなく、会社の生き様をしっかり示さないといけない。そのためにも本気でビジョンに向き合い、社会に対して筋を通しませんか、と。

HIP:その後、2016年に峯尾さんが社長に就任し、社名も変わりました。いよいよ、本当のミッション経営に乗り出す機が熟したわけですか?

峯尾:そうですね。ただ、ずっと頭にはあったものの、具体的になにをすればいいかわからなかった。その頃に出会ったのが、太郎さん(児玉太郎さん)です。

もともとはうちで長く働いている女性社員の友人で、彼女からある日突然「どうしても会ってほしい人がいるんです」と紹介されました。聞けば、ビジョンを実現させるにあたって、大きな力になってくれる人だと。

ただ、その社員からは「いくら峯尾さんが児玉さんのことを気に入っても、向こうがうちと一緒に仕事をしたいと思ってくれるかはわかりません」とも言われていたので、お会いする前はすごく緊張しましたね。お眼鏡に叶わなかったらどうしようって(笑)。

児玉太郎氏(以下、児玉):いやいや、まったくそんな偉そうな感じじゃないんですけどね(笑)。ただ、ぼくらはあまり大きなチームじゃないので、ご一緒できる会社の数が限られているんです。

児玉太郎氏

HIP:児玉さんは当初、峯尾さんやパーソルキャリアに対してどんな印象を持ちましたか?

児玉:お会いする前は、「ゴリゴリ体育会系の営業会社」というイメージでした。峯尾さんに対しても、最初はすごい勢いと圧を感じましたね(笑)。ただ、お話しているうちに印象が変わりました。中身はとても繊細な人で、経営者としてもさまざまな演出を講じ、試行錯誤しながらていねいに会社をつくられている人なんだなと。

HIP:それで、一緒に仕事をしたいと思った?

児玉:もちろんご一緒したいと思いましたし、お役に立てる部分はかなりあるんじゃないかと感じました。

ぼくは前職のFacebookが、短期間で数百人から数万人の会社へと成長していくのを経験しました。当時のパーソルキャリアも、パーソルグループになったことで急激な変化を遂げていて、なおかつ多様な人たちが働くグローバル企業という点でもFacebookの状況と近しいものがあったんです。だから、ぼくが経験したことを峯尾さんにお伝えしたいと思いました。

HIP:一方の峯尾さんは、児玉さんやアンカースターのどこに魅力を感じたのでしょうか?

峯尾:お話ししていて感じたのは「この人は、うちのことを本気で考えてくれているんだな」ということですね。下手したら、うちの役員よりも深く思ってくれているんじゃないかなって。

あとは、さまざまなアプローチで物事を考えているところも面白かったですし、すぐに太郎さんと一緒に仕事をしたいと思いました。その後、正式にコンサルティング契約を結ぶわけですけど、ビジネスライクな感じではなく、この人と一緒なら新しいなにかが生まれるんじゃないかというワクワク感がありましたね。

経営者の自覚が伴わないミッションは「無意味」

HIP:ミッションの策定にあたり、最初はなにからはじめましたか?

児玉:最初に視座を合わせるというか、お互いの言葉が通じ合うようにしたかった。そこで、まずは可能な限り時間をとっていただいて、いろんなことをお伝えしました。Facebook時代の経験はもちろん、幼少期を海外で過ごしたぼくが見聞きしてきたこと、グローバル企業のスタンダード……などなど。

それらをワークショップ形式でシリーズ化し、峯尾さんにも毎回参加していただきましたね。事前にアジェンダの共有はなく「今日はなにやるの?」みたいな感じでした。

パーソルのグループビジョン「はたらいて、笑おう。」と、パーソルキャリアのミッション「人々に「はたらく」を自分のものにする力を」

児玉:それから、シリコンバレーにも一緒に行きました。言葉で伝えるだけじゃなくて、その言葉の源泉というか、実際の現場で起きていることを一緒に感じてほしかったんです。

峯尾:じつは、最初はそれがストレスだったんですよ。ぼくとしては1か月や2か月で「成果」が出るもんだと思っていた。

でも、児玉さんのやり方はストレートに答えを出しに行くというよりも、まずはひたすらぼくらになにかを感じさせたり、考えさせる。それによって理解を深めるというアプローチが延々と続くんです。しばらくは他の役員とも「おれたち、なにをやっているんだろう?」と話すなど、疑問を持っていましたね。

HIP:シリコンバレーへの出張も、乗り気ではなかったと。

峯尾:遠いですからね(笑)。正直に言うと、シリコンバレーで得るものなんてないだろうと思っていました。だからなにかを学びに行くというよりも、旅行感覚でしたよ。ただ、実際に行くと刺激を受ける部分はやっぱりあって、児玉さんがぼくに感じさせたかったこともなんとなくわかりました。

HIP:具体的に、どんな刺激を受けましたか?

峯尾:一番は、現地の若者たちですかね。児玉さんが西海岸でも特別にイケてる面白い子たちと引き合わせてくれたのだと思いますが、彼らと話すのは刺激的でした。みんな自分に自信があって、こちらが投げかけるテーマに対しても期待以上の答えを返してくる。

ただ、同時にこんなことも考えました。たしかに彼らは優秀だけど、日本の若者たちにも同じくらいの期待をかけていいんじゃないかって。

採用に携わる会社として、これから日本で就職や転職をする若者にもいま以上に期待をかけて、理想を追い求めていく。その前提で採用を考えると、また違うものが見えてくるのかなと思いました。たぶん、太郎さんがぼくに伝えたかったのも、そういうことだったんじゃないかな。

HIP:児玉さん、いかがですか?

児玉:そうですね。なにかしら峯尾さんの心に刻まれるものがあればいいなと思っていました。というのも、パーソルキャリアは若者の仕事や夢に携わる、ある意味では「みんなの未来をつくる」事業をしているわけですよね。それはつまり、峯尾さんの事業戦略ひとつで、日本が変わることを意味している。

もちろん、峯尾さんはもともとそういう覚悟や責任を持って事業に取り組んでいらっしゃいますが、経営者は理想ばかりを追い求めていられない局面も多い。どうしても現実路線に目が向きがちになってしまうところもあると思ったんです。

峯尾:たしかに、太郎さんからは折に触れて、その自覚を叩き込まれた気がしますね。企業は社会に対してポジティブな影響を与える責任を持っている。でも、目の前の商売のために対処しなきゃいけないことが多すぎて、経営者はその自覚を削り取られていくんです。

だからこそ、ビジョンやミッションを経営の中心に据え、常にそこへ立ち戻るクセをつける必要がある。いま思えば、シリコンバレーへの出張やワークショップが、ぼくのマインドセットを少しずつ変えてくれた気がします。

結局のところ、いかに立派な言葉でそれっぽいミッションをつくったところで、経営者のマインドセットが伴っていなければ意味がないんですよね。児玉さんには初期の段階で、その視座をぐっと引き上げてもらいました。

社会的なミッションを実践していると、同じ志を持つ企業とタッグを組める

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